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ウィレムの丘  作者: 桐生 遙
9/13

04-3

 まだ二人の背が、幼木にも満たなかった頃。シルワは村の子供からいじめられていた。人一倍体も小さく、それ以上に気も小さかった彼は、子供たちの格好のおもちゃだった。またそれに加え、彼の父親は武器商人であった。元々流れ者であり、戦争が終わってこの村に定住したものの、小さく平和なこの村に、武器という物騒なものは必要のないものとされた。それも相まって、大人たちからも、腫れ物に触るような扱いを受けていた。

 そんな中、彼に接していたのが、テッラであった。彼女にとって、武器商人のことや、体格のことなど、気にするに値しない些細なことだった。彼女の父親が、雇われ傭兵団に所属していることも、武器に関して抵抗のない一因でもあった。彼がいじめられている隙を狙い、テッラは彼を連れてその場をこっそり抜け出していた。彼らは村の色々なところを探検した。あのスミレの丘も、その時に見つけたものだった。

 次第に年を重ねていくうちに、シルワの身長はぐんぐんと伸び、今ではテッラと頭一つ分違うほどまで成長した。村の男衆の中でも高い部類に入り、そんな彼をいじめるような者は、いつの間にかいなくなっていた。親の職業を継ぐことが慣例とされているこの村で、シルワも例に漏れることなく、武器商人の道を歩んでいる。それもいじめられなくなった原因なのかもなあ、と以前シルワは苦笑していた。

 テッラの話を聞き、シルワは訝しげに眉をひそめた。


「……白い髪に白い目、か。で、俺らと変わらない年頃なんだろ? 外の国から来たのかもな」


 彼の父親は所謂「外の国」出身で、この村の女性と結婚した。彼の父親の髪は――もう既に白いものも交じってはいるが――茶色で、緑色の瞳を持っている。この国で生まれるはずのない色だ。カエルムという客人の髪も、この国の理に合わない。すると、外の国から来たと考えるのが、少なくとも妥当な線であった。

 まあ確かに、とシルワは続ける。


「そんな奇妙な見た目の奴、娘の恩人とはいえ、そこまでおばさんが歓迎するのも変な話だよな」


 笑いながらそう口にする彼は、どこか自分の生まれを自嘲しているようにも見えた。そんな彼に、テッラはそうだけど、と口ごもる。

 するとシルワは、あ、と何か思い出したように呟いた。


「いけね、俺、父ちゃんに買い物頼まれてたんだった。そろそろ怒られるから、行くな」


 シルワは水のたっぷりと入ったバケツを持ち、立ち上がった。じゃあな、と言い残した彼は、足早にその場を立ち去った。

 慌てる彼を見送ったテッラの元にあるのは、自分が持つには少々億劫な重さのバケツ一つだけだった。

 ゆらゆらと揺れる水面に、彼女の顔が映る。金色の瞳は、どこか虚ろげであった。



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