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ウィレムの丘  作者: 桐生 遙
8/13

04-2

 水を汲もうと、テッラは木で出来たバケツを持ち、川へと向かった。この村のはずれには川が一本流れている。北の海から流れてくるこの川は、冷たいながらも透き通っており、村人たちの生活用水兼飲み水として活用されていた。

 少女が持つには少し重たいバケツは、テッラの足取りをぐらつかせた。水を運ぶこの作業はあまり好きではなかったが、今の家にはいたくなかった。家なのに家ではない、そんな感じがしたから。

 全てはあの白い髪の少年に原因があった。あの黒い「魔女」から自分を救ったのは紛れもなく彼であったが、何か重要なことを隠し続けているのも彼であった。そもそも、いくら村の風習とは言え、この国では生まれるはずのないあの真っ白な髪という特異な見た目をしている少年を、なぜ母は家に住まわせているのか。それもテッラにとっては不可解な謎であった。

 川辺に着くと、朝日が川面に反射して眩いばかりに輝いていた。あまりの輝きに、テッラは目を細める。すると、背後から彼女の名を呼ぶ声がした。


「テッラ、おはよう」


 そう声をかけてきたのは、近所に住む少年、シルワだった。彼女と同じ色をした金色の瞳に、短く刈り上げた金色の髪は、少年をそろそろ卒業するような、少し大人びた雰囲気を醸し出していた。声変わりもそろそろ終わりを迎えようとしているようで、低めの声は安定していた。

 彼は、両手にテッラと同じようなバケツを持っていた。彼女と同様、水を汲みに来たのだろう。

「おはよ、シルワ」テッラは少々首を上げて返事した。そうでもしないと、最近ぐんと背の伸びた彼の目線に届かないからだ。幼い頃はテッラの方が拳一つ分大きかった。そう思うと何だか癪なテッラである。

 挨拶を終えると、二人は水を汲み始めた。ついでに顔も洗う。北の海から流れてくるこの川の水は、眠気の残る二人の肌にぴりっとした刺激を与えた。

 ぷはー、と水気を払うように、テッラは顔を振る。布ぐらい持って来いよ、とシルワは自分の布を手渡した。テッラはありがと、と遠慮なく受け取り、顔を拭う。

 川辺から上がり、彼らは腰を下ろした。二人とも、家に帰れば仕事を与えられる、そんな年代だったため、少しでも自由な時間が欲しいのである。


「……なんか、元気ないけど。どうしたの?」


 先に口を開いたのは、シルワの方だった。かれこれ二人は十年以上の付き合いである。お互い、毎日のように顔を合わせているからこそ、ほんの少しの表情の変化にも、敏感に気付けるようになっていた。

 テッラは、はぁあ、と深くため息をついた。


「そうなんだよね、なんか知らないけど、家に今お客さんがいてね――」


 彼女は事のあらましをざっくりと説明した。だが、自然とあの「黒い魔女」のことに触れることはなかった。

 シルワは途中、頷いたり返事をしたりして、彼女の話をじっくり聞いていた。昔からずっと、シルワはテッラの話の聞き役だった。



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