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ウィレムの丘  作者: 桐生 遙
7/13

04-1

ブックマーク、評価ともどもありがとうございます。励みになります。

少し間のあいた投稿となりましたが、四話です。どうぞよろしくお願いします!

 翌日、窓から降り注ぐ朝日に目を覚ますと、よく焼けた香ばしいパンの匂いがテッラの鼻をくすぐった。もう一晩すっかり眠った彼女の体は、普段と大差ないほどに回復していた。久しぶりだったため、昨晩思うように摂れなかった食事も、今なら満足にとれそうな気がする。そう思うと、自然と足は台所へ向かった。

 そこでは、モンターナが朝餉の支度をしていた。パンと、新鮮なバターの香りがテッラの胃袋を刺激した。母親は野菜のスープを作っていたようで、彼女がおはよ、と挨拶すると、背中で、おはようテッラ、と返した。

 ただ、普段より一つ声が多かった。


「おはようテッラ。よく眠れたかい?」


 食卓に腰かけていたのは、あの白い髪をした少年だった。昨日はフードを被ったままだったが、今日は黒い外套を脱ぎ、この村の布でできた伝統的な衣装を身にまとっている。


「あんた、昨日から何で――」


 考えるより先に口が出ていた。この男には聞きたいことが星の数ほどあった。テッラが疑問を巻き立てようとすると、モンターナがぴしゃりと遮った。


「こらテッラ! あんたは自分の恩人に向かって何て口の利き方するの」


 テッラは突然のことに目を丸くする。モンターナは続けた。


「あんたが倒れてたところを、この旅人のカエルムさんが助けてくれたのよ。お礼ぐらいきちんとしなさい!」


 カエルムと呼ばれた白い少年は、どうも、とテッラに向かって会釈した。母親が言うには、坂の下で倒れていたところを、彼が見つけ、ここまで運んでくれたらしい。この小さな村に旅人が訪れることは滅多にないが、皆義理人情に厚い人たちばかりである。客人を歓待することは、この村の昔からの習わしでもあった。命の恩人となれば猶更である。

 けれどもテッラは思い出していた。あの丘での出来事を。あの魔女との不気味な邂逅を。あの不気味なまでの空気は、数日後の今でも生々しく想起出来る。となれば、この目の前の男は、少なくとも母親に嘘をついていることになる。

 彼女はちらり、と母親を一瞥した。黙ったままの娘に対し、今にも説教を始めそうな勢いであった。面倒だな、と思いつつも、彼女は母親の言う通り、カエルムに向き合った。「先日はどうも、ありがとうございました」

 我ながら無機質なお礼の仕方だな、と彼女は思った。助けて貰ったのは事実なのだから。だが、この突然現れた奇妙な容姿の男は、肝心なところを故意に隠している。テッラにとってそれは、魔女と同じぐらい男を不気味なものに感じさせたのであった。


「どういたしまして」


少年は白い眼を細くして返事した。不愛想でごめんなさいね、とモンターナが苦笑する。一通りやり取りが終わった後で、テッラは席に着いた。朝食を見知らぬ人と食べるなど、初めてのことだった。普段は思いっきり頬張るバター入りのパンも、今日は特にお腹が減っているはずなのに、何だか味気ないように感じる。

 家でのことなのに、酷く窮屈に思えた。テッラは仲良さげに会話する二人をよそに、口の中にパンとスープを押し込む。ごちそうさま、と少々投げやりに挨拶すると、さっさと片づけを終え、呼び止める母親を後に、着替えて外へ出かけた。



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