表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィレムの丘  作者: 桐生 遙
6/13

03

 ――ラ、テッラ!


 自分の名を、懸命に呼ぶ声がする。テッラが目を覚ますと、そこは自宅のベッドの上で、脇には母親のモンターナが心配そうに彼女の顔を見つめていた。

 彼女の意識が戻ったことに気が付いたモンターナは、テッラをぎゅっと抱きしめた。


「テッラ! ……あんたはもう、心配かけて」


 母親の話によると、テッラは丸二日寝込んでいたらしい。頭が上手く働かない。二日前、自分は何をしていたのだろうか。思い出そうとすると、ズキ、と頭が軋むように痛み始めた。

 モンターナは、目覚めたばかりの娘に対し、矢継ぎ早に言葉を口にする。やれお前はなぜ黙って教会を抜け出した、やれお前はラクリマばあさんに申し訳ないと思わないのか、やれお前は普段から奔放が過ぎる、だから坂から転がり落ちて――。

 説教ともとれる母の物言いは、目覚めたばかりのテッラには少々手に余るものであった。徐々に記憶を取り戻していくテッラ。そうだ、自分は二日前、ラクリマばあさんの葬式に出て、こっそり抜け出して、いつもの丘に行ったんだった。


 そして。そうして。そこで。そこから。


「……――っ!」


 頭痛が増した。丘に着いた後、自分はどうしたんだっけ。そこだけぽっかりと真っ黒な穴が空いたように、記憶が抜け落ちている。思い出そうとすればするほど増していく頭痛は、彼女に思い出すことを止めているよう訴えているようにも思えた。

 母の話によれば、自分はその後、坂の上からうっかり転げ落ち、打ち所の悪さから、二日間寝込んでいたという。余りの頭痛に顔をしかめ、頭を抱えていると、モンターナはやはり打ち所が悪かったのだ、と納得したように呟いた。


「とりあえず、お医者様呼んでくるわね」


 重体だったとも言える娘に対し、モンターナの対応は余りにもそっけないものだった。未だベッドに横たわる彼女を背に、部屋を後にする。ただ、そのドアの脇で、母が小さく安堵のため息をついたのを、テッラはしっかりと見ていた。

 彼女はゆっくりと手足を動かす。ゆっくりと拳を握ろうとするが、まだ反応が鈍いように感じた。テッラはもうひと眠りしようと、目を閉じる。だが、もう既に二日間眠り続けた体である。もう一度眠りにつくには、若いテッラの体には大変難しいことであった。

 よっこいせ、と錆びついたような自分の半身を起こす。窓から覗いていたのは、昼間のかわり映えしない日光だった。一昨日、教会を出たのと似たような肌感覚である。モンターナから二日間寝込んでいたと言われた際にはあまり実感は沸かなかったものの、昼間の風は現実を彼女に運んできた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ