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ウィレムの丘  作者: 桐生 遙
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02-2

さりげなく毎日投降ギリギリ(もうストックない)(やばお)

 彼らについて教会へ向かうと、そこには村中の住民が集まっていた。ラクリマばあさんは、村の中でも長寿で、神を厚く信仰しており、村評判の善人であった。そんな彼女の死を悼む人たちは多く、教会内は悔やむ声でいっぱいになった。

 テッラもまた、棺に入る彼女を見て、その死がゆるぎないものだと知り、ぽろりと涙を流す。ラクリマばあさんはテッラ以外の、また彼女より幼い子供の面倒もよく見ていた。彼女の三歩後ろでは、小さい男の子が声を上げて泣いていた。

 そんな中、テッラは一つの違和感に気が付いた。教会にいる皆、口々に彼女の死を悲しんでいるが、その締めの言葉はなぜか一緒なのである。

 四季一生。

 ラクリマばあさんは七十歳を超えており、生まれた年によっては四季一生を成し遂げてもおかしくはない年代であった。だが、彼女の生まれた季節は夏。現在、この村の季節は、花香る春である。つまり、彼女は四季一生を達成することは出来なかった。

 テッラはその違和感の全貌を悟った。ここにいる人間の殆どは、彼女の死よりも、彼女が成し遂げられなかった偉業について、悔やんでいるのである。

 確かに『四季一生』は、幸運の象徴であり、帝都から使者が訪れ、報奨金まで出るほど、その価値は高いものとされている。けれども、だからと言って、四季一生だけに注目して、ラクリマという一人の女性を語って良いものなのか――?

 否、許されるべきものではない。

 きもちわる、とテッラは思った。内心で収めたつもりだったが、声に漏れてしまったらしく、周囲の大人がちらりと彼女を一瞥した。しかし、その程度であった。

 その場にいて、ラクリマの死を悼んでいる者全員が、非常に不気味に思えた。このままここにいたら、その空気に自分自身までも汚染されてしまう。そう感じたテッラは、大人たちの間をかいくぐり、こっそり外へ抜け出した。こうして、いつもの場所である、このスミレの丘まで辿り着いたのである。

 テッラはふう、とため息をついた。今頃彼らは、テッラがいないことに気づき、ざわめき始めているだろう。あんなにラクリマに懐いていたのに何て薄情者だ、とか、いやいや、懐いていたからこそ現実を受け止めきれないんだよ、など、勝手に彼女について話しているに違いない。

 どれも全部違うのに――彼らがテッラの感情に気づくことなど、この先ずっとないのだろう。そう思うと、この小さな村がとても窮屈に思えて仕方がなかった。

 彼女の桃色の頬を、ひんやりとした春の風が撫でる。テッラの金色の髪が宙に踊る。坂を上ったときにかいた汗が冷えてきた。家で、先ほどの騒ぎを聞きつけた母親の説教が待っていると思うと、気が重い。けれど、彼女の帰る場所はそこだけだ。重たい腰を上げ、彼女はさっき来た道を引き返そうと振り返った。


 ――その刹那。眼前に広がる紫は、一瞬にして黒へと転がり落ちた。


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