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ウィレムの丘  作者: 桐生 遙
2/13

02‐1

 ここに来ると、普段よりも足が軽く感じた。

 村のはずれにある坂道。活気盛んな青年ですら、途中で上るのを諦めてしまいたくなるような急斜面を、金髪の少女はさっさと上っていた。髪と同色の瞳は、日差しに照らされきらきらと輝いている。時には両手を地面につけながらも、息を弾ませながらも、その足取りは快調である。彼女の足元につられ、ワンピースがゆらゆらと揺れる。この村の民族衣装であるステッチの刻まれたそのワンピースの裾は、土で少々汚れていた。けれども彼女の足が止まることはなかった。

 少女の視線の先に、上り坂の終わりが見えた。彼女の足取りは更に軽やかになる。なぜなら、彼女の目的地が、もう目の前に迫っているからだ。


「はあ、はあ、ふう。……よっこいしょ!」


 彼女は最後の力を振り絞り、坂を上りきる。目の前に広がったのは、一面に咲き乱れるスミレ畑だった。少女の顔から自然と笑みが零れ、紅潮していた頬はいっそう染まる。

 彼女――テッラの憩いの場所、それはこのスミレの畑の丘であった。

 テッラは、ワンピースからのぞく白い足を思いっきり伸ばし、スミレ畑を駆け抜けた。先ほどまでの疲労が嘘のように消える。紫の花弁が宙に舞う。同時に漂うスミレの艶やかな香り。彼女はそれを思いっきり吸い込みながら、スミレたちの間にぽすん、と横たわった。

 荒い息を吐きながらも、彼女はゆっくりと目を閉じる。テッラの瞳の裏に思い浮かぶのは、ついさっきまでいた、ラクリマばあさんの葬式だった。

 テッラは彼女と仲が良かった。既に生まれる前に祖母を亡くしている彼女にとって、ラクリマばあさんは本当の祖母のようだった。毎日のように通い、様々なことを教わった。ラクリマばあさんの具合が思わしくないときには、このスミレを彼女の枕元までもっていき、懸命に看病した。

 だが、その看病の甲斐空しく、彼女は空へと旅立ってしまった。病というより、老化によるものだろう、と村の医者は言った。その証拠だろうか、ラクリマばあさんの顔は、眠っているように穏やかで、今にも、いつものようにテッラに優しく触れ、話しかけそうなほどであった。

 テッラは、棺に入れられるまでずっと、彼女の手を握っていた。悔しくて、悲しくて、もう二度と彼女と話せないことに、大粒の涙をたくさん流した。けれどもラクリマばあさんの手は、冷たいままだった。

 村の大人たちが、棺に彼女を収め、教会へと運んで行った。手慣れた手つきは、機械作業のようであった。まるで、ラクリマばあさんが死ぬことが、事前に決まっていたかのように。テッラは、涙で潤む目で、誰にもばれないように、そんな大人たちをキッと睨んだ。


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