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ウィレムの丘  作者: 桐生 遙
1/13

01

 それはとある晴れた日のことであった。大陸の北方にある小さな村は、少しひんやりとした空気の中、鳥たちが空に向かい歌っている。

 その村の中心部の教会に、村人たちは集まっていた。声を抑えてすすり泣く初老の女もいれば、悲しみに顔をしかめる若者もいる。大声で泣きわめく子供もいた。所謂、どこにでもある、葬式の一場面のことであった。

 彼らの中心には、こぢんまりとした木の棺が置かれている。そこで眠るのは、七十を過ぎたほどの老婆であった。しかし、彼女の死に顔は非常に穏やかで、薄くほどこされた死に化粧は、まるで少女を連想させるほどであった。

 そんな彼女の周囲で涙を流す村人たち。彼らは、口々に彼女の生前の善き行いに尊敬の念を表していた。けれども、最後の一言は、必ずと言っていいほど、奇妙なまでにこの四文字が浮かび上がる。

「あともう少しで、『四季一生』だったのにねえ……」

 そう呟く初老の女性に、周囲の者は年齢関係なしに頷く。その目たちは、棺で眠る彼女の柔らかな微笑みなど、まるで視界に入っていないかのように。

 ――『四季一生』。それは、この国の特徴であり、土地に染み付いた呪縛であった。

 それは、いつ起こったのか、今を生きる者たちは誰も知らない。かつて、この国には四つの季節があったとされる。春、夏、秋、冬。これらは、一年を通してころころと移り変わり、それに連なって変化する景色は、この国の住民の心の癒しとなっていた。

 けれどもある時から、それは大きく変わった。いつになっても次の季節が来ないのだ。神に祈ろうとも、生贄を出そうとも、それは決して変わることがない。待てど暮らせど変わらない風景に、人々は次第に精神をも蝕まれていた。次の季節が訪れたのは、それから約二十年もの月日を要してのことだった。

 それから現在まで、四つの季節は二十年ほどで交代するようになった。その因果だろうか、国の住民たちの身体にも影響を及ぼしたようで、春に生まれた者は金、夏に生まれた者は黒、秋に生まれた者は赤、冬に生まれた者は銀の色素を持って生まれてくるようになった。それは次第に、人々の生活に文化的なレベルまで作用するようになった。

 このように、二十年ごとに変化する季節の中で、人々は余程の長寿でなければ二度の季節を迎えることは難しい。彼らは、二度目の季節を迎える長寿を、滅多にないものとして、縁起のよさの象徴とした。人々は、これを『四季一生』と呼ぶようになった。

 棺に横たわる老婆――ラクリマは夏の生まれであった。もう髪はとうの昔に白くなっているが、生前の彼女の瞳は夜の帳に似ていた。この国では、例年通りにいけば、あと数年もしないうちに夏が来る。彼女の周りですすり泣く彼らは、このラクリマが二度目の夏を迎えられなかったことを、実に皮肉なことに、その死よりも嘆いているのかもしれなかった。

 すると、村人の一人が、鼻をすすりながら、ふと周囲を見回した。

「……あれ、テッラは?」

 村の住民の一人である少女の姿が、先ほどから見当たらないのであった。




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