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かんたん

作者: 竹中 前


「ぼく」

「うん」

「ぼくね」

「うん」

「おかあさんに、隣のクラスの山本くんがすきっていったら、“それは友達としてすきなだけよ、おんなじ性別どうしで恋なんて普通はしないのよ、って。ぼく、普通じゃないのかな」

言ってしまった、と思った。あふれだした言葉は待ったのきかないあばれ馬で、とまってくれやしないのだ。

「おかあさんがおとうさんにするように、ぎゅってしたいって思う。山本くんと話してると、心臓がどきどきする。これって、すき、じゃないの?」

なんでぼくが雪にそう言ったのかは、よくわからない。けれど、雪になら、ぼくはぼくでいられる、そんな確信があったからだと思う。

屋上の扉のずっと先にある柵、その前に座るぼくと、その横にならんで座る雪。ぼくをみつめる雪に、どうという風はなかった。

「幸村くんは山本くんがすきなの?」

すうっと、体の芯が冷えるようだった。そうだけど、それって可笑しいことなのでしょう。可笑しいことにうんって言うのは、なんだかわるいことをしている気がしてうまく頷けない。石みたいに固まるぼくをみて、雪は言う。

「普通じゃないことの何がわるいの。しかも、ただ同じ性別なだけじゃない。私がピーマンをだいすきなことと、どう違うの」

その言葉は、ぼくの心の奥深いところに落ち着いた。どうしたらよいのかわからずにふらふらと覚束なく歩いてきた二秒前が、たったひとつの肯定で道となる。

「“普通”は、たくさんの人の意見のかたまりなだけ。多数が正義じゃあないってみんな知ってるのに、どうして少数が除け者にされるの」

すっくと立ち上がった雪は冬の空の下、寒さに凍えることもなく、歌うように言葉を紡ぐ。うつくしい音色は勢いの落ちた太陽に届きそうだった。

「同じ人生を歩むのは、同じような人がやってくれるでしょ。なのに、どうして同じ動きをしようとするの。いちにいちをかけても、いちにしかならないのに」

呆れた、と口に出すでもなく肩を竦める彼女は、ひとつため息を吐いて、ぼくの目をまっすぐにみつめた。契りを交わすように。確固とした意志を、そこにみた。

「いちじゃいや」

ラッパの音が聞こえる。びゅお、吹き荒ぶ冬将軍は、ぼくの怯えをさらっていった。そのまま、とおく、先の、(さき)の、ぼくが一生たどりつかない場所にゆけ。雪はぐっと歯をみせて、顔をあげた。

「だって、すきはきみだけのほんものなんだから」

そのときみせた雪の笑顔を、僕はなんだか、一生覚えている気がした。「またね」くるりと回ってお辞儀をした雪は、そのまま振りかえらずに屋上からいなくなった。そうしてそれから、二度と会うことはなかった。

転校したって。幸村くんは聞いた?ううん、特に。そっか、仲良しだったのに、残念だね。クラスメイトはそう続けて、興味を失ったように教室の中心へとかえっていった。残念では、なかった。少なくともぼくは、これは良い別れだと思った。彼女の人生を少しだけわけてもらった。それは事実なのだから。ぼくはそんなに自棄になったり、おおきく変わったりは、しなくていいような気がした。ぼくは相変わらずピーマンがきらいだし、異国のことばのメロディがすきだし、可笑しな色をしたグミがきらいだし、おんなじように隣のクラスの山本くんがすきだ。心でつぶやいたことばは、驚くほどすんなりと気持ちを認めていた。弾むようにくちもとは笑っていた。うれしいのかたのしいのかわからなかったけれど、ぼくはこの先、もっとたくさんしあわせになるだろうから、その中ですり合わせてゆこう。ぼくだけのうれしい、ぼくだけのたのしい、ぼくだけのすき、を。

雪、そうしてやっぱり笑うのだろう。


私がすきな人は同じ性別なこともあるけど、優先順位はすきかどうかだと思います。

今よりずっと幼い時には死にたくなってしまうほど悩みもしたけど、今は全部「かんたん」にして受け入れています。

自分は他の人と違うということは、他の人も自分と違うということで。

自分が間違っていると思わないのであれば、それは自分にとって最良なのです。

今現在の時点で間違いはないと思っても、五秒後に考え直した私が「間違っていた」と呟くこともあると思います。芯がないのかあるのかわかりませんが、これが私だけの、私を否定しない、私のだいすきな生き方です。

悩んでいた過去の私と、悩んでいる今の誰かの救いになるといいなあ。

君は人と違うけど、人も君とは違うから。どうせ生まれた人生なら、苦しみながら一瞬で死んでしまうより、認めてしまって自分に嘘をつかない方がずっとしあわせだと。私は思います。


これも、私の言葉だから悩んでいる君とは違う言葉かもしれないけれどね。

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