とある朝の非日常な風景に巻き込まれた私
あえて、名前はつけてません。あくまでわざとです。決して思い付かなかったとかじゃないんだからねっ(笑)
4月11日、日間ランキング4位でした。ありがとうございます!
それは、とある朝の出来事。
いつもの朝のはずだった。
登校のために家を出た。小さいながら父ががんばった一軒家。母の趣味のかわいらしい門を開けようとして、やめた。閉まったままの門。
その向こうに。
「ちょっと、いいかしら」
非日常があった。
「いい加減にしてくれないかしら」
「迷惑だってわからないの?」
「そんなにかわいくもないくせに図々しい」
「そんなんで彼の隣に立とうなんて」
「身のほどをわきまえてくださる?」
「「「2度と彼に近寄らないで」」」
……朝から元気なものである。
現状を説明するならば、どうやら彼女達は彼に近寄る私を断罪しにきたらしい。……彼って誰だ。
「聞いてるの!?」
聞いてなんになるのさそんなもの。こちとら学校に遅れそうなことの方が重要だわ。
「まぁ、一応」
そろってギンっとにらみつけられた。解せぬ。
にらまれてもなぁ、さあ一体私がなにをした。
ブレザーの制服に色とりどりのリボンを揺らしながら、お嬢な美女、高飛車美少女、巨乳ロリが門を越えられなくてにらんでくる。越えたら不法侵入である。通報までワンタッチ状態でキープされたスマホが今か今かと待ってますがなにか?
「ひとつ、確認したいんですがいいですか」
安全地帯でため息をつく私に非はないだろう。しかし、理由がわからない。初対面な彼女達にディスられる覚えはないんだけど。
「なにかしら」
お嬢な美女が許可をくれたので、現状を打破すべく口を開く。
「そもそも、彼ってだ」
「お前らなにやってるんだ!?」
……私、今日の運勢最下位とかだったりする?
私達女子トークに乱入したのは、久々に会う幼なじみである。家が隣なのだが、会う機会はない。中学生までは同じクラスだったから渋々だろうが顔を見ていたが、高校生になって学校別になったらまったく会わなくなった。私的に超絶幸せ。
彼女達は幼なじみの知り合いらしい。ハーレムか。中学でも自然にできていたが高校ではなかなか個性的な取り巻きを作ったらしい。
で、そのハーレムメンバーはなぜ私を待ち伏せしてたのさ。
「あなたに近寄る害虫を駆除しにきたのよ」
「まとわりつかれて困ってるって言ってたじゃない?」
「こんなぁブスにぃストーカーされてぇせんぱいかわいそぉう」
おい、最後の巨乳ロリ。話し方変わってないか? 内容もえげつないが、イラっとくるなそれ。
「私はなに」
「勝手なことするなよ! 誰が害虫でブスでストーカーなんだよ!」
彼女らそこまで言ってないぞ? お前も大概ヒドイがな。てか、それは中学の時に言われてたセリフだ。
「ストーカーなら、なおのこと引き離さなくちゃならないわ」
「そぉうですよぉう! せんぱいてぇそぉのききぃ」
「なぜそのオンナをかばうの!?」
悪口のオンパレードですなー。これ以上はひどすぎて割愛。
そろそろ、私のターンが欲しいとこだな。
「止めろよ! こいつはただ、俺のことが好きなだけで……」
「は?」
「は?」
「誰が誰を好き?」
「「「え?」」」
少し顔を赤らめて宣う幼馴染み。本気で問い返す私。復唱する幼馴染み、あぁもうバカでいいか。怒りが空間を揺らす私。戸惑う取り巻きズ。
とんだ誤解もあったもんだなぁ、おい!
「なにを勘違いしてるか知らないけど、あんたはただのお隣さんなだけだけど。一体だれにそんなウソ吹き込まれたの?」
「え? は? え、え?」
冷静な私に狼狽えるバカ。こいつのどこがイケメンなんだろう、マジ謎。
「え、だって、中学ん時、に」
おろおろしながら言われたそれに、あぁと納得。
「確かに、中学の時にそんなこと言われてたね。でも私は否定したはずだけど」
「だって、お前写メとか物とかっ」
「それが欲しいと言ったのはあんたのママだよ」
「…………は?」
面倒だが説明しよう。
お隣さん家はお金持ち。ちなみにうちの父親の会社の社長さん一家。両親逆らえない人達。故に私も逆らえない。おかげで一人息子のご学友に決定。
そしてある日極秘ミッションが下されたのさ。
「あの子の学校での様子が知りたいの♥」
あら嫌だよこの人、素でストーカー命令出しやがったよ。でも本気と書いてマジだった。小型カメラに盗聴機スマホにデジカメ転送用にパソコンまで用意されてたよ。
仕方なく、中学の間のみで引き受けた。この事は中学の教師陣には知れ渡ってた(というか、学校に圧力でもかかったんじゃないかというくらい協力してくれた)ので、私は処分されずに済んだ。しかし、ストーカーの汚名やらのありがたくもない冤罪の被害者になった。チクショウ。
「ちなみに、写メはあんたのママだけど、映像と声はあんたのパパからの依頼だからね」
「…………は?」
だって、息子が構ってくれないんだもん! ときたからね。脱力感半端なかったわぁ。
夫婦そろって親バカと言うか、親しき仲にも礼儀ない犯罪者一歩手前いやどっぷり犯罪者だよお金で揉み消すんですね。プライバシーゼロとか芸能人でもあり得ないのに、わぁ金持ちえげつなぁい。
「そんなわけなんで、私があんたを好きとかマジあり得ないから」
なんのために必死に勉強してランクの高い高校選んだと思ってるんだ。お隣さんは私立なのがわかってたけど、うるさい取り巻きと同じ学校なんて避けたいにき決まってるじゃないか。
そこまで説明する頃には、バカのライフはゼロだった。朝から道端てか家の前でorzとか鬱陶しいんで、やめえもらえます? 非日常すぎて笑えないし。
「……え? てことは、ガッコ別なの?」
そんな金持ち私立に入れる程、我が家の財政に余裕はないですが。
「でも、ずっとこっそり見てたんでしょう?」
うちの学校と正反対ですよ? てか、最寄り駅も別々ですがなにか。
「じ、じゃぁつきまとってないの?」
つきまとってるのはあなた方じゃありませんかねぇ。
「「「………………」」」
あ、取り巻きズも崩れ落ちた。恋する乙女の敵じゃないとようやく理解した模様。
「「「ご、ごめんなさい……」」」
無害な人には常識ある対応できたんだね、よかったよ宇宙人とかじゃなくて。話通じないとか困るからね。
「っ、そんなはずない! お前は俺を好きなはずだ!」
復活したと思ったら、なにやら明後日に駆け出したみたいだけど、話通じないとか頭大丈夫?
「そんなわ」
「遅いから来てみれば、なにやってんの?」
……私は自分のターンを奪われる運命なんだろうか。
「俺のお嫁さんになる運命だよ?」
「口に出してないし」
「顔に出てたよ?」
「問題だ」
「それで? 見ず知らずの人達の心折ってなにやってんの?」
「勘違いと思い込みと自意識過剰と恋する乙女の暴走?」
「ん、流れはわかった」
こんなんで理解できるとか、相変わらず回転のよろしい頭だなぁ。顔もイケメンだし。お隣さん家のバカより数倍、いやそれ以上高い顔面偏差値だと思う。
「悪いけど、この子俺のだから。もう近寄らないでね」
「は? 部外者はひっこん」
「俺の恋人にちょっかいかけられてるわけだから、部外者ではないよ?」
あー、怒ってるね。待ち合わせには来ないし連絡もないから来てくれたんだろうけど、その前に電話くれれば逃げる口実にできたのに。
「おい、こいつこんなウソ言ってるぞ!」
バカがすがるような目でこっちを見る。だから私は好きじゃないと言ったのに。
「ウソじゃないよ。中学卒業して、やっと告白できたのに。一緒の高校行きたくてものすごく勉強頑張ったし」
「さすがに中学の時の噂は聞いてたしね。まぁ、本人に会ったら、てか告られた時には噂ってあてにならないなぁ、って思ったけど」
そう、ひとつ上の彼は噂を知ってたから、最初の告白は疑われたんだ。大人の都合で失恋とか世知辛いとか思いつつ退場しようとしたら、腕をつかまれて引き留められた。
で、疑った訳じゃないことと、告白の返事をもらって相思相愛に、今じゃ学校一のバカップルですがなにか。
「そん、な」
また膝から崩れ落ちたバカ。だからなんでそんなポジティブに私から好かれてるとか思ってたんだ?
「あー、それね。俺の方に謝罪がきたよ」
「誰から」
「そこの彼のご両親から」
「なんで?」
「そこの彼、昔から君のこと好きだったんだって。でもなんの行動も起こさないから、彼のためにちょっと焚き付けてみたそうだよ」
どうやら、中学のストーカー命令のことと、バカに私が片想いしている、でも恥ずかしいから遠くから見てるの、きゃ♥ とかやったらしい。これほど清々しい冤罪もないわーと思う乙女心をどうしてくれようか……!
「ああ、自分たちの欲も満たせて一石二鳥で良案だとと思ったそうだよ。でも、君の態度から息子のこと想ってなさそうだから、中学で諦めたらしいよ。そしたら、君の片想いを知って相手が俺ってことにも驚いたらしいね」
そりゃ自分達の会社より、立場が上の取引先の社長子息の恋人(私)を、自分の息子の恋人にしようとしてたなんて、子供のすることですから~ですませてよいものか、ってなるよね。
しかも、私彼のご両親に挨拶してる。もちろん、結婚前提のおつきあいとして。大学卒業まで待てというお父さまと、入籍だけはすぐにでもとの彼とでにらみあってたなぁ。お母さまは朗らかに笑ってお式はいつにする? とか言ってたし。
家柄の良いお嬢さんと、なんて言うご両親じゃなくてよかったけど、こんなウェルカム状態でいいのかとも思ったけどさ。ご両親いい人達だし。長いつきあいになるなら、仲良くしたいもんね。
「……んと、に。本当に、俺のこと、好きじゃない、のか?」
しつこいくらいに不死身な心だな。ポジティブすぎて笑えないわ。むしろポジティブに謝れ。ポジティブはそんな執念に使う言葉じゃないぞ。
「悪いけど」
と、前置きして。謝ったからね? ちゃんと覚えといてよ。
「昔から好きじゃない。友達の好きになりかけたことはあったけど、なりかけで終わったし。てか、終わらせたのは自分だからね? どこの誰が奴隷だと? この日本に奴隷制度なんてないわ、一生一緒どころか二度と顔も見たくないレベルで、私はあんたが大嫌い」
その宣言をきいたバカはスライムのごとく溶け、勘違いで人を罵ってくれた取り巻きズは、崩れ落ちた姿勢から土下座した。なんか私、悪者じゃね?
後日談というか、ほんともうこれ忘れたいんだけど、言わなきゃダメかなぁ。あ、ダメですかそうですか。だよねー。
まず、隣のバカはしばらく寝込んだ。メンタル弱すぎである。甘やかされたツケの自業自得だ。で、学校に復帰したと思ったら、誰が見てもわかるほどチャラ男になった。ハーレム要員拡大中収束の見込みなし。極端なバカである。
取り巻きズは、最初はいつものごとくまとわりついてたらしいけど、チャラ男にジョブチェンジした辺りで目が覚めたようだ。ハーレムから抜けてまともになったらしい。今度は好きな人が被らないように頑張ってもらいたい。
バカの両親は、反省と後悔と衝撃のトリプルコンボで沈んだ。一人息子の将来が大変心配だろうが、まずは会社の社会的信用を取り戻すのが先だろう。心なしか頭部がかわいそうなことになってる気軽しないでもない。
そして、私達は相変わらずバカップルですがなにか。てか、あんな茶番劇が今後起こらないように、大々的に婚約発表されたよ、サプライズで。知らなかったよマジで。
そんなわけで平和である。え? それが平和なの?
平和だよ。
好きな人が自分を好きで、好きなあまりなにかやらかしちゃうのは、かわいいものじゃないか。
心は広く持たないと生きていけないよ、ね?
うーん、どうしてこうなった(笑)