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夏の終わりの甲子園  作者: 村咲 遼
4/5

敗者復活戦

 二日目の朝は、会場を移して行われる。

 敗者復活戦には、前日に決勝に進んだ3校以外の37校から、9校が敗者復活戦に進むことができる。


 朝の7:30に城の南西にあるコミュニティセンターに集まったメンバーは、特に3人の3年生は泣きながら姿を消した梨紗りさを心配していたが、思っていた以上に元気でホッとする。


「梨紗ちゃん。どう?」

「あ、部長、副部長、結城ゆうき先輩。ご心配をおかけしました」


 深々と頭を下げる。


「あれからどうだったの?」

「先輩のお家で寝てしまって……泊めて頂きました」

「もう、びえびえ泣いてて、こりゃダメだと。しかも、敗者復活戦のこと知らなかったんですよ?」

「えぇぇ!それで大丈夫なの?」

「途中で、先輩のお母さんに起こして頂いて、少しですが冷静になって考えました」


 早足で会場に向かいながら話す。


「それなら良いけど、あまり無茶はしないのよ?」

「でも、絶対に先輩たちと勝ちたいんです。だから、敗者復活戦を……」


 会場に到着すると、席を見つけ並んで腰を下ろす。


「……敗者復活戦……進みたいな」


 部長は手を握りしめて呟く。

 4人は頷く。

 席が次第に埋まっていくのを見回し、その時を待つ。


 8:15から、二日目のオープニングと開会式、組み合わせ抽選と敗者復活戦に出場できる9校が発表されるのだ。


「大丈夫かな……」


 会場を見下ろしながら祈り続ける。

 8:15になり、二日目のオープニングが始まった。

 そして、組み合わせ抽選が行われた後、敗者復活戦に参加できる9校が発表される。

 8校まで名前を呼ばれ、諦めかけた時、最後に名前を呼ばれる。


「せ、先輩!今……?」

「あぁ!」


 立ち上がり、舞台に上がる。

 これから30分の間に一校が選ばれる。

 一句のみ提出し、それを審査してもらうのである。

 実は、泣きながらいなくなった梨紗を追いかけ遼一りょういちも出て行った為、幾つかお互いに渡し合っていた句から一句、梨紗の句を提出していたのだった。

 その為梨紗は、提出していた句について丁寧に、落ち着いて説明し、評価してもらう。

 緊張はしたが、昨日のように後悔のないように説明できたので満足だった。


 そして、一校の発表に祈る……。

 決勝に出場することが、出来るなら……必死に祈った。


「決勝トーナメントに出場する学校を発表します」


 手を合わせ、もう一度……と。




 しかし、学校の名前は呼ばれなかった。




 泣き崩れる副部長を支え、部長と結城が席まで連れていく。

 遼一も泣いていないか、梨紗を見るが、残念そうな顔をしていたが、昨日のように泣いていなかった。


「大丈夫か?」

「……決勝に出られなかったのは残念ですけど、ら、来年、リベンジします」

「よし。1日で進歩した」


 ワシャワシャと頭を撫でる。


「今日は、他の学校のをしっかり見て、来年に備えるぞ?」

「はい!」


 休憩を挟みながら、閉会式表彰式まで見届けた5人は残念がりながらもここまで頑張ったのだからとお互いを励ましたのだった。

 そして、来年にもう一度出場しようと誓ったのだった。




 その晩、花火大会にと約束していたのでワクワクしていたのだが、


「先輩〜。どこにいくんですか?」

「蚊取り線香と、準備はいいな」

「あ、梨紗ちゃん。こっちこっち」


遼一の母のはるかに呼ばれ部屋に入っていく。

 しばらくして、出てきた梨紗は、可愛い朝顔柄の浴衣姿である。


「おや、似合いますよ」

「おじさま、ありがとうございます」

「あぁ、そうそう。今日は、私の友人たちも屋上で花火見物ですから、良く見えますよ」

「ここの屋上で見るんですか?」

「えぇ、穴場なんですよ。個人のマンションですから」


 行きましょうか。と屋上行きのエレベーターに3人で乗り、想像以上の人に驚く。


「おじさまやおばさまのお友達ですか?」

「そうですね。遼一」

「あ、父さん……梨紗?」

「あ、先輩。お手伝いします!」

「やめとけ。酔っ払いに巻き込まれるぞ」


 ちょこまかと走ってきた梨紗を捕まえ、連れていく。

 そこにはゴザにクッション、そして夜寒くないようにタオルケットまで準備された場所があった。


祐実ゆみ姉さん、理央りおう兄さん。俺の後輩。よろしく」

「あら、どうぞ。遼一君の後輩ってことは俳句甲子園に?」


 2人の膝には男の子と女の子が座っていた。

 赤ん坊用の甚平を着せている。

 双子らしい。


「可愛いですね。双子ちゃんですか?」

「えぇ。男の子が彰央あきお。女の子が祐華ゆうかなの」

「可愛い……梨紗お姉ちゃんですよ」

「もう、良く泣くから、理央さんが驚くの。子供は泣くのが仕事よ?」

「いやぁ……生まれた時は、2人とも泣かなかったから……」


 理央は息子の頰を突く。


「でも、夏はやっぱりここで花火だね。向こうではこの暑さはないしね」

「向こう……ですか?」

「カナダで住んでいるんだよ。僕たちはマスターの縁で結婚したんだ」

「あ、そろそろ始まったみたいよ」


 遠くから花火の光が届く。


「あの近くまで行っても、人混みがね。だからここでゆっくりさせてもらえるのがありがたいわ」

「そうだよね」


 2人子供を抱える。


「はい、兄さんたち蚊取り線香。梨紗もほら。それと兄さんはお酒?何がいいの?」

「う〜ん、そうだねぇ。マスターに任せていいかな?」

「はい。姉さんはお酒じゃない方がいいよね?梨紗も」


 人混みをすり抜け、去っていく。


「お手伝いした方がいいでしょうか?」

「良いと思うよ。それよりも、花火を楽しもうか。今年は一回順延したし。今日は天気がいいから綺麗に見えるよ」

「初恋の花火はいつか熟田津の」

「えっ?祐実さんは俳句詠まれるんですか?」

「ちょっとだけよ」


 照れたように微笑む。

 すると、ジョッキとグラスとおつまみを運んできた遼一が、


「熟田津の花火はいつか初恋に……ならいいんじゃないの?姉さん」

「まぁ、情熱的ね」

「はい、兄さん。姉さんと梨紗は、ジュース。姉さん。せっかくいい言葉選んできたんだから、入れ替えたら?」

「私はりょうちゃんみたいに上手く詠めないわ」


頰を膨らませる。


「まぁ、俳人の卵には敵わないね。ありがとう」


 ジョッキを取り、


「はい、祐実。手出して」

「はい」


理央は、もう1つの手で妻の手を包み、ジョッキを握らせる。


「気をつけてね」

「ありがとう……」

「兄さんたちはいつまでも仲良しだね。じゃぁ、俺は大輔さんのところに行ってくるよ。あそこは男ばっかりで、大輔さんも暴れてるよ。梨紗も楽しんでてくれ」


 せかせかと立ち去り、その背中を見送る。


「お忙しいですね」

「責任感が強い子だからね。はーい、泣かない」


 フニャフニャ泣き出した赤ん坊を、グラスを片手にオロオロ見る理央に、


「あ、抱っこします。私は、従姉妹の面倒を良く見ていたので」


と抱き上げる。


「花火、びっくりしたね〜。でも、大丈夫だよ?」


 よしよしとあやし、泣き止ませる。


「うわぁ、あやすの上手だね。パパ頑張らないと……」

「今日は花火を楽しんでください。私が赤ちゃんたち見てますから」

「あら、いいのかしら?」

「大丈夫です。オムツも取り替えますね」


 クーハンに近づき面倒を見ることにする。

 そしてその間に遠くに見える花火を楽しんだ。


 こちらは屋上のあちこちにお酒などを届けた遼一は、赤ん坊や子供達の世話をしている梨紗に近づく。


「こーら、お前は大輔さんところの。暴れない!」

「わーい!りょうちゃん!」

「にいちゃんって言え」


 抱え込みポコポコ叩きながら、しがみつく子供達をいなしていく。


「全く……梨紗もお疲れ」

「あ、先輩」


 ニコニコと笑う梨紗の近くに座る。


「花火、近いと人が多いからな。この家が建ってから、親父が屋上に知り合い誘って毎年こんな感じだ。で、ちなみに、あの……中学三年が、親父の友人の孫。来年、うちに入るんだと」

「そうなんですか」

「……大きく開かず哀しき夢花火」

「来年に大きく開け歌花火……だと良いですね」

「……負けたな」


 遼一は、ニヤッと笑い、梨紗の頭を撫でた。


「来年は主力で後輩指導しろよ」

「先輩も、頑張ってくださいね」

「あぁ。今日は花火だけどな。明日から夏休みの宿題を一気に終わらせないと……」

「私はほとんど終わりました」

「見せろ〜!」


 梨紗は、驚く。


「えぇぇ?先輩。私、一年生ですよ?宿題違いますよ?」

「そうだったか……じゃぁ、手伝え!」

「えぇぇ?解りません」

「あはは、冗談だ。まぁ、来年……又チャレンジだな」

「そうですね」


 遠くの花火を見る。


「来年には、絶対、優勝だ。それに最優秀作品も狙う!」

「私も頑張ります!来年は泣きません!」

「……ふーん。来年もびえびえ泣いてると思うけどな〜俺は」

「もう!泣きません!来年は笑うんです!」


 梨紗が頰を膨らませるのを笑っている遼一の姿に、


「恋の花火が花開いたかな?」

「そうねぇ……」


と、次のカクテルの準備をしながら遼一の両親が見つめあったのだった。

一応、フィクションですΣ(゜д゜lll)

今年の出場校を確認しないでね。

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