プロローグ
割と滅茶苦茶に暴れさせる予定ですがそこまで残酷な話ではありません。よろしくお願い致します。
「”毒”というものは……非常に甘美で洗練された美しさを放っています。液体なら一滴、粉末なら一摘み、気体なら一呼吸摂取するだけで…死よりも恐ろしい苦痛が体を蝕む…」
古ぼけた小さい木造の小屋。風の強い日中はガタガタと小気味良いリズムで壁を軋ませる。そんな空間にて彼女は、妖しい手つきと動作で長々と口弁を垂れ流していた。
「数秒前まで生気に満ち溢れた人間が、一瞬にして苦悶の極地へと誘われた時…!ようやく私の毒薬は一つの”芸術”として華を咲かせるのです!!」
"決まった"と言わんばかりに両手を天井に掲げ、恍惚の表情で演説を終えた彼女。すると数秒後、小屋の軋音に裏打ちするように、一つの拍手が響き渡った。
「おおお……!!絶妙にキチガイ感出てるよ団長…!!」
「も、もう!!キチガイとか言わないでよフィル君!…これでも結構恥ずかしいんだからね…!」
拍手と共に目を輝かせながら賞賛を送った白い髪の彼はフィル・マーケン。齢14とまだ幼い少年だが、顔と腕には幾つもの切り傷と火傷の跡が目立っている。
「え、恥ずかしかったの!?…まるでどこぞのマルチ商法仕切ってる教祖的な風格を感じたよ…」
「どこでそんな事覚えて来たの…!!? 子供は素直に可愛らしく教育テレビでも見ておきなさい!」
「マフィア映画と深夜ドラマと深夜バラエティと深夜アニメしか見てないんですけど」
「完全に手遅れだよ!!…はぁ~……やっぱ盗賊の遺伝子って、とことん悪影響与えるものに惹かれるのかなぁ…」
フィルのすぐ後ろには一台の小型テレビがあった。以前彼女が”退屈な時にでも見てなさい”と、彼に送ったものである。”この世界でも”電波が繋がるというのはやはり有難い。
…彼女の名は井ノ浦褥。赤く短い鮮やかな髪に全身を覆う黒いコート。格好はともあれ、容姿は明らかに美人の類だ。それに褥の扱う魔法はこの世界でも屈指の力を有し、かつてはあまりの強大さにギルドカースト最上位のパーティが連日勧誘に彼女を訪れていた程だ。
…あ、言い忘れていたがここは異世界。ありとあらゆる種族が色々こう…ガッと集まって稀に戦争やら起きるけれども何とかよろしくやってるっていう…アレです。もういいよね。別に説明しなくても察して頂けますよね。やっぱりこのご時世どんな状況にもすぐバシっと察して適応するってのが大事なのではないだろうか。
「よし団長!念のためもう一回練習しとこうぜ!!」
「えぇ~…」
しかし、そんな力を持つ褥がこのような脆弱な小屋の中で、何故少年相手に怪しい演説をしていたのか…。
お察しの通り、彼女には色々と問題があるのだ。
ひとまず皆様には、彼女がこの異世界へと舞い降りる”三ヶ月前”に遡って頂くとしよう…。