プロローグ
今日もまた、私は丘に立つ大きな木の、いつもの枝の上に立つ。
私にはしなければいけないことがある。
分かっている。
それでも、私はずっと迷い続け、そしてまたこの場所に来る。
迷って立ち止まりたくても、私にはその権利が与えられていない。
胸元のペンダントが揺れた。
私は迷いを払うように頭を左右に振り、また街を見下ろした。
生まれた時からずっと住んでいるこの町で、私は使命の為に生きる。
それが正しいのか間違っているのか、もう私にはわからない。
もうずっとこうして生きてきたから。
それでも、私は誰一人として責めることは出来ない。
私の運か、はたまた神の悪戯か、私は自分の手でこの“力”に触れてしまったから。
途中で投げ出すことなんか出来ない。
誰かがやってくれるなんて、そんなことないから。
私にしか出来なくて、私に唯一与えられた使命だから。
たとえ誰かがこの“力”を罪だと言っても、この罪は私しか背負えなくて。
よく分かっているから。
私は木を降りて、崖の縁まで歩いて行った。
この町には私の大好きが詰まっているから、この“力”をまた、私は使う。
この身が滅びると知っていても、それでも私が笑っているために。
風が静かに私の髪を撫でていく。
この丘は心地よい風が吹く。
そして唯一、私の大好きなこの町を眺められる場所。
私は丘に背を向けて歩き出した。
セーラー服のスカートの裾を風がはためかせる。
太ももにベルトで縛り付けた、革製の短剣のケースがちらつく。
傷を隠すために履いている黒タイツと、セーラー服の黒、生まれ持った真っ黒な髪。
全身真っ黒で喪服のようだと思う。
確かに私はずっと、葬式の会場にいるのかもしれない。
いや、むしろ墓場だろうか。
私はやらねばならない、この町を守る為に。