Prologue
遠くから、大勢の男たちの声が聞こえる―。
金属と金属がぶつかり合う―これは、剣戟か―?
漂ってくる、土と、汗と―そして、血の匂い。
―また、だ―
血まみれの騎士たちが、それでも剣をふるい道を切り開いていく。
そして、それを指揮している―『甲冑』に身を包んだ、一人の美しい『少女』。
伸ばしていたら、さぞ美しかったであろう金色の髪を、肩あたりで切ってしまっている。
だがそれを気にする様子もなく、凛々しく力強い瞳で、剣を天に向け叫んでいる。
―あの女の子だ―
その少女を見ると、なぜか私は心が締め付けられる。
この胸が、張り裂けてしまいそう。
神々しいまでに美しいその少女が、男装をして軍を指揮し―そして、彼女を心酔する大勢の騎士たちを導いているその姿に見惚れ―そして、同時にどす黒い、胸を焦がすような感情を抱く。
なぜ、あなたは私の傍にいてくれないの。
神の言葉のままに、なぜあんな危険を冒しているの。
なぜ―あのような男たちが、あなたの姿をその目に映しているの。
この目で見ている、その少女を―私は、知っている気がする。
なのに―どうしても、思い出すことができない。
彼女の瞳が、私を捉える。
和らぐその表情に、私はどうしようもなく胸が軽くなり、蕩けてしまいそうになる。
彼女の唇が開き―
私の名を呼んだ気がした。
― ― ― ― ― ― ― ―
「また、あの夢―」
深い深い眠りから覚めたように、頭が重い―。
今日も見た。
ずっと前から―繰り返し見るようになった、あの夢だ。
目が覚めて、それが夢だったと知る。
これで何度目だろうか。
いつのころからか見るようになったその夢には、かならず「あの人」がいた。
まるで太陽の光をすべて吸収してしまったかのような、煌めく色の髪をたなびかせ
深い海のように静かな、凛々しい瞳で私を見つめる、「あの人」―。
最初は、ただの夢だと思った。
夢にしては、やけに現実的で―覚めた後も、まるで体験したことのように思ったけど―
でも、繰り返し見るようになってからは、何かが違うと思い始めた。
夢であの人に会うたびに、私は苦しくなる。
夢で感じた感情に、飲み込まれそうになる。
ほかの夢のように、目が覚めたら忘れられるわけじゃなく―私の脳裏に焼き付いてしまうような、神々しいまでに綺麗なあの人。
「彼女」の姿を見るたびに感じる、この胸を締め付けるような狂おしい感情。
そして―彼女のその瞳が私をとらえた時
なぜか感じる、どうしようもなく深い悲しみと、絶望。
その理由を、知っている気がする。
彼女が誰なのか―
なぜ「私」は彼女を知っている気がするのか―
この胸に残る、夢の残滓をすくうように
私は夢の中のあの人を想った。