9# -文化祭-
あれから5ヶ月の月日が経った。
早すぎるって?楽しいことは時間を早く感じるって言うじゃない。特になにもなかったわけではないんだけれど、話すほどのことでもないのだと思ったので省略。さてさて、今回はなんと私は、宮本穏乃が語り部を担当するのだが、私は言語力にかけている。のでうまく伝えられないかもしれない。そこは了承してほしい、かも。
10月半ばといえば代表的な学校行事が二つほど待ち構えている。その一つが文化祭だ。で、軽音部も文化祭で出し物をする。軽音部の出し物なんてもちろん一つしかない、ライブだ。この5ヶ月間ずっと私たちは練習を重ねてきた。創部前と違って、人前で演奏しても恥ずかしくないくらいには。これをお披露目するのが私は楽しみで仕方がない。あと、茉野さんこと智佳。彼女は持ち前の楽器知識を生かしてPA、所謂アンプなどの音響を運んだり調整をする仕事を引き受けてくれていた。私は中学の時バンドをやっていたからライブは初めてではないけれど、このメンバーでの本格的なライブは初めてだしライブ自体も今まで体験してきたものとは全然違うものなので緊張はある程度している。
さて、本日十月十三日は七海学園の文化祭―――七海祭の前日である。七海祭は二日間行われ、私たち軽音部の出し物は二日目のお昼になる。そして私たちにはクラスでの出し物があり、一日目はほぼクラスの出し物でつぶれる予定である。私たちしーしゃーぷのメンバーは全員が全員同じクラスではない。七海学園の一年生はクラスが六つあり、私は五組、篠と静は三組。智佳が一組。つまりはバラバラなのである。これがもし語り部が智佳だったらきっと「草生える」とか言ってたんだろうなぁ。私音楽は得意なんだけど、国語とかホント苦手だから語彙力なさ過ぎて物語語るなんて無理だと思う。でもまあ今回は私が任されたわけだししっかりしていこう。
話戻るけども、そう、クラスの出し物があるわけなの。私のクラスはその、なんというか、アレなの。―――言いたくないんだけども。その、メイド喫茶。わ、笑わないでよ。私だって恥ずかしいんだし。とりあえずライブ話は置いといて、先にライブの前日の話から私なりの表現で物語をつづっていこうと思います。
「宮本さん、三番さんのオーダーよろしく!」
「は、はい!」
十月十四日、私のクラス一年後組は思いのほか繁盛していた。七海学園の文化祭は一般の人でもはいれるようになっており、生徒の関係じゃ以外の人も文化祭に入れるようになっている。なので私のクラス、一年後組のメイド喫茶はその一般の男性客がかなり多くお客さんとして入っていた。しかも教室の外に列ができるくらいに。なんでこんなに行列ができるのさすがにおかしいでしょ。
「お、お帰りなさいませ…ごすじゅんさまっ!」
また噛んだ。私こと宮本穏乃は人数的な問題もあり、ホールを担当しているのだがまあ定番のあれを言わなくてはいけない羽目になっている。が、今のところオーダーを受けに五回ほど行ったけれど全部噛んでいる。いやなれないでしょ、このいい文句。
「荻野さんオーダーここ置いておくね」
私は先程受けた注文を描いた紙をマグネットで挟めば、少し前に帰ったお客さんの席の片づけをする。個人的には裏で皿洗いとかしていたかったんだけども、じゃんけんで負けてしまったのだからしょうがない。でもこういう片付けの仕事とかなら全然平気だからずっとこの片付けの仕事でもよかったりする。そういうわけにもいかないんだけども。
「宮本さん九番さんがご指名だよ」
でた、ご指名システム。入り口でメイドを指名するとそのメイドさんがオーダーに来てくれるという(お客様だけにとって)素晴らしいシステムだ。私は片づけを別の子に任せてご指名してきたお客様のテーブルへ向かう。
「ご指名ありがとうございます、お帰りなさいませ―――」
「やっほー、穏乃!」
―――誰かと思ったら、ドラム担当の立花静だった。その隣にいるのは篠。うん、まァ静年のが同じクラスだし、私のクラスがメイド喫茶だってことを言ってしまっていたから時間が空いてきたのはまだわかる。
「なんで智佳まで一緒にいるのよ」
確か智佳のクラスは今日のお昼に演劇をする予定のはず。しかも智佳は主役と聞いていた、なんで。
「いや、主役は二人でローテーションってことになってるから」
主役ローテーションって何、時間によって主役のキャストが違うってことなの。それちょっと斬新すぎないかしら。
「それはそうとご主人様、ご注文は」
ただでさえ恥ずかしい姿なのに、みんなに見られるなんて問題外。さっさとオーダーを取ろうとポケットからオーダー用紙とボールペンを取り出す。
「穏乃、まずは0円スマイル」
―――なんで!?てゆーかまさかの智佳のボケ!?
「…ここはワックじゃないから0円スマイルはありません」
「えぇ、スマイルもできない店員さんってどうなのー?」
便乗した静は後でお仕置き。スマイルスマイル、えっと。
「こ、これでどうでしょうか、ご主人さま」
「こ、怖いよ穏乃…」
私のステキな笑顔を見るなりさっきから黙っていた篠が涙目になりながら私の方を見ている。ちょっと待って、私の笑顔ってそんなにひどいものなの。いやまぁ確かに笑顔作るのとか苦手な方だけども。それでも篠が泣くほど酷いの。これはなんかショックだわ。
「笑顔は置いといて、私コーヒーね」
笑顔注文した本人がなんで笑顔に対してツッコミを入れてこいなのよ。はぁだめだ、この人たちと居るとツッコミが追い付かない。ただでさえ静のボケは普通の人の3倍くらいボケるのに、智佳までぼけ始めたら収集がつかない。
「私オレンジジュース」
「あ、じゃあ私ウーロン茶で」
「注文承りました、少しお待ちください」
「穏乃、棒読みすぎ」
智佳はさっきからうるさい。なに、智佳メイドマニアだったりするの。なんかそのうち別のことまで要求されそうだからそろそろ撤退しないと。私はそんなことを考えながら袖裏に退散した。




