8# ‐頼ること2‐
キレそう。あ、いやその。ごめんなさい、ゲームの話。
「えっと、茉野さんすごいね…」
音ゲーコーナーにある新しいゲーム、KOUNITHMというものに私は最近はまっている。そして今日私たちは大通りに遊びに来ていて、たまたま大通りのゲームセンターに立ち寄ったのだけれど、まあやらないわけにはいかないでしょう?なのでプレイしてみたんだけれど、1ミス。フルコン間近だったのに何なのこれ、悔しすぎるんですけど。
「茉野さんすごい顔してる」
高坂さんそりゃそうでしょ。あと1ミス逃さなければフルコンなのよ。この悔しさを何かにぶつけてやりたいんだけど。とりあえずお腹もすいたしこの食欲に怒りをぶつけてやりましょう。
「じゃあ時間も時間だしそろそろご飯いこっか」
待ってました、朝ちょっと急いでたから今日まだ何も食べてないのよね。行きしなに駅中で買ったコーヒー牛乳を口にしたくらいで、ほんとにさっきからお腹空いてたのよね、てゆーかお腹空いてたのが原因でさっきフルコンのがしたんじゃないのってぐらいお腹空いてるのよね。いやまあちょっとこれは言いすぎてる感あるわね。
「んとみんな何食べたい?」
「ラーメン!」
「私は何でもいいよ」
何が食べたいか。私に好き嫌いなんて特にないけども。
「じゃあラーメン食べにいこっか!」
なんだかんだで久しぶりに日曜日を堪能した気がした。と言っても私鼻にかかったとかはないんだけども、立花さんがやたらUFOキャッチャーで景品取りまくってて気が付いたらそれなりに買いものした人みたいな状態になってるんだけど。私の荷物じゃないのに何でフィギュアを三つほど持たされてるのよ。
「なんか損してる気分」
いやまあ別にこういうの慣れてるからいいなだけどね。そんなことを考えていた私の思考を遮ったのは立花さんだった。いや正確には立花さんが買ってきた缶ジュースだった。頬に突然の冷たい感覚にとてもびっくりした私は持っていた立花さんからの預かりものの景品を落としてしまう。
「まりちかこれ持たせてるお詫び!」
「あ、ありがと立花さん」
私は落としてしまった袋に入った景品を拾えば、立花さんから差し出されたジュースを受け取る。私のその様子を見ながら立花さんは苦笑とは違った純粋な笑みを浮かべる。
「あのさまりちか、なんで私や篠たちのこと苗字で呼ぶの?」
はぁ、そこまで強要されるのか。
「てゆーか前から思ってたけどまりちかって私たちとなんか一線おいてるような気がするんだよね」
ああ、そういえばそうだったかしら。でもまあ確かに一線おいてるのかもしれないわね。そりゃそうよね、私は後から入った部員。たった一週間だけれどそれでも深い絆で結ばれたこの三人の中に入るなんて私に出来るわけないじゃない。
「そもそも私って、このバンドにいてもいなくてもそんなに変わらないと思うんだけど―――」
「そんなことないよ!」
二度目の驚き。まさかの静が大きな声を出した。
「でも私は所詮数合わせ、居ても何もできないし」
うん、実際そうでしょ。だって楽器の演奏しないし、聞いてるだけだし。聞いてても私よりも宮本さん―――穏乃さんの方が私より助言できるだろうし。
「まりちかはただの数合わせなんかじゃないよ」
だったら何なのよ。私は阿なあたたちの音楽を少し近くで聞きたくてそれであなたたちと一緒にいることを望んで―――私は彼女たちと一緒にいることを望んでいるの?
「だってさ、もう私たち友達でしょ」
友達、ね。とても簡単で、とても重く感じる言葉。今まで友達なんて呼べる人間がいなかった分、この言葉を余計に重く感じてしまう。
「でももし、まりちかが私たちに心を開けないていうのなら―――」
ちょうど立花さん―――静がそう口にしようとした時だった。見計らったかのようにお手洗いに行っていた二人が戻ってくる。
「見ててよ、私たちがまりちかが心を開くにふさわしいのか」
心を開けるかどうか。私が彼女たちに心を開いてないっていうの。
「智佳ちゃん、なんていうかさ。私たちのこともっと頼ってくれていいんだよ?」
―――頼る。そんな言葉をお養父さんに言われて以来だ。お養父さんにもよく頼ってほしいと言われていたっけ。私を養子にしてくれた時も、それからも。ずっとひとりで生きてきた私にとって頼るということがどうすればいいのかが分からないのだ。それも知り合ったばかりの彼女たちに頼るなんてこと。
「私はドジだし音楽の知識なんて全然ない」
そういって私の手を握ってきたのは篠だった。
「だからこれから一緒にいる以上智佳ちゃんに迷惑をかけると思うの。だから私たちにも迷惑かけてほしいな」
何言ってるんだろうこの子は。バカみたいなこと言ってるわね。アホなの本当に。よくこんな恥ずかしいことぺらぺらと口走るわね。でも、どうしてなんだろうか。こんなに私なんかに本気で気持ちをぶつけてくるバカがこの世に存在したなんて。頼るなんてすぐには出来ないかもしれないけれど、それでもがんばってみようかな。私の最後の物語をつづるために。