7# ‐頼ること1‐
まさかまたこの物語を高坂篠が語ると思ったであろう人、残念でした。今回の物語はこの私、茉野智佳が担当させていただきます突然で唐突な主役交代に驚いた人が過半数かもしれませんが、別に主役が交代したわけではありません。これは私たちしーしゃーぷの物語、高坂篠だけでなく他のみんなが主役。なので今回は私が担当させていただくだけということをご了承ください。
さてはて話をそろそろ本題に戻そうと思います。前回のあらすじはまあ、前回の読んでいただけたらと思います。色んなことがありしーしゃぷとしてスタートした私たち四人ですけど、部活動以外でも仲良かったりします。なのでそういうワンシーンも読者の皆さんに見ていただきたいと思います。
「…」
音楽室の端っこで今日図書室で借りた本を読みながら私は彼女たち軽音部の演奏を眠気と戦いながら聞いていた。音楽を聴きながら本を読んでいると眠くなるというが、本当に眠くなる。さてさてどうしたものか。コーヒーでも飲んで眠気覚ましでもしようかしら。
「えっと、茉野…さん?」
ベースの音が止んだと思ったら宮本さんが私に話しかけてきた。あれ、宮本さんだっけ。まずそこからだった、部員の名前をまだ覚えてないのが実のところ。あ、高坂さんの名前だけは覚えてる。でもそれだけでどっちが宮本さんでどっちが立花さんだったか覚えてなかったりする。
「なにかしら」
「茉野さんはその楽器演奏しないの」
ああ、絶対言われると思ってた。
「ごめんなさい、私楽器の演奏には興味ないの」
そう、私は彼女たちの演奏を聴くためにこの部活に入部したのだ。楽器の演奏はやろうと思えばたぶんできるのだと思うけれど、でも私は聞くの専門でいたい。
「でも入部したからにはさすがに何もしないってのは確かにまずいわよね」
ため息交じりに私は椅子から立ち上がる。立ち上がったところで特に何もすることないんだけども。
「ねえねえまりちか」
「「「まりちか!?」」」
私こと茉野智佳をまりちかなんて無茶苦茶なあだ名で呼んできたのはしーしゃーぷのムードメーカー的存在であろう立花静さんだった。
「えっと、一応確認しとくけどそのまりちかって私のことかしら…?」
「そうだよ、茉野智佳だからまりちか」
ちょっと待てちょっと待て、確かにまりのちかだけど、まりチカなんて呼ばれたのはじめてだわ。小学生の時でもまりちかなんて呼ばれたことないわよ。
「まあそれはそれとして立花さん、あなたリズムもう少し宮本さんに合わせるようにしたらもっとよくなるわよ」
「えっ」
とりあえず話を変えたくて先程の練習を聞いての私の正直な感想を指摘してみた。その言葉にとても驚いた様子を見せたのは宮本さんだった。そういえば彼女ベースを長い間やってるんだったわね。きっと心の底では私と同じことを思っていたのだけれど、ほかの二人がまだ初心者だからってので黙ってたってところかしら。
「まりちかって楽器経験あるの…?」
―――もう突っ込まないわよ。
「いや、別に」
あーあ、変に口を出さなければよかった。別に楽器はある程度いじれはするけれど楽器の演奏なんてしたことないし、正直楽器を触ることなんてもう二度とないと思ってたから。だからこれ以上なんか言われるのはちょっと。
「あの、私から少し提案があるんだけど」
切り出してくれたのは高坂さんだった。
「今週の日曜ってみんな暇かな?」
今週の日曜って、多分何もなかったわよね。
「私は何もないよー」
「右に同じ…」
「…」
ほかの二人に続いて私は無言で大丈夫、と小さく頷く。
「私と静はともかく他の二人とはまだちゃんと話せてないから、親交を深めるために出掛けない?」
あらあら、まさかのお出掛けかしら。
「まあ別に私はいいよん」
「私も大丈夫」
私も何も予定もなかったし、彼女たちと交流を深めるならと思って大丈夫、とだけ伝えた。
「え?」
「「「え」」」
笑う。えっと、この光景をどうやって読者の人たちに伝えたらいいのかしら。いやマジ草生えるんだけど。まず最初から説明するわね―――っぷ、だめこれ笑いがこらえきれない。まず日曜日に大通りの公園に待ち合わせってことで私は待ち合わせの時間に私服で待ち合わせ場所に行ったの。説明終わり。え、今の説明で何がおもしろいのか全然わからないって?いやだから、高坂さんも宮本さんも立花さんもTシャツに上着、ズボンって服装なのに私だけワンピースにツバの大きい帽子。なにが言いたいのかというと、どう考えても私の私服だけ浮いてる
「その、個性的な私服だね茉野さん」
宮本さんそれはフォローのつもりなの。
「…く…くふぅ…」
立花さんはどう考えても私の私服を見て笑ってるわよね、そうよね。私も笑いたいわよ。
「…はぁ、行きましょう」
なんというか、私やっぱりこの部活で何かと浮いてる気がするわ。