ヒロインの悪役令嬢調教計画~目指せ!婚約破棄 編~
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私が、メルツェーデスお嬢様に初めてお会いしたのは下町の路地裏で生き倒れになっている時でした。
そして、メルツェーデスお嬢様の気まぐれでこのノイシュバンシュタイン公爵家に拾われることになったのです。
まあ、なんでこんな現実逃避交じりの回想をしているかというと、私の生家ブラン伯爵家が娘である私を引き取りたいと言ってきたのです。
貴族なのだから、色々調べますよね?
私の今までの状況やどういう暮らしをしているかについてなど。
で、現在はブラン伯爵家にいた時よりも背後や食事に毒を盛られているかを気にしないでいい私にとってはよい状況にあります。
やっと、あの家から逃れたのに今更私を探し出して引き取るって何を考えているの!?
ブラン伯爵家では、後妻である鬼義母に日々命を狙われていて、父が出張で家を空けた隙に、私を娘のように可愛がってくれている使用人たちを頼ってやっと逃げだしたのです。
なぜだか私は小さい頃から、鬼義母がどのお皿に毒を盛りつけているのかを自然と知ることができたのです。
すごいですね、生存本能って。
ブラン伯爵家からの使者の話に、興味をすでに失った私はノイシュバンシュタイン公爵様に丸投げ。
使者の人がなんたらかんたらグダグダ言っている間に、回想をしているわけです。
その使者の顔をじっと見ている間に思い出してしまったのです。
ここが、乙女ゲーム『この初恋をさがして...』の世界だということを。
内容はいたって単純でタイトル通りで何の捻りもなく、ヒロインが初恋のあの人を探して両思いになるというものです。
身分制度がある国なのに、身分制度どこ行った!?というような話ですね。
これで、どうして鬼義母が私を毒殺できなかったのか分かりました。
私がこの乙女ゲームのヒロインだからです。
私は、エカテリーナ・ブラン。
原作ではどこかで行方不明になったブラン伯爵家の令嬢で、学園入学前にブラン伯爵家が探し出す設定。
現実では、鬼義母から逃げ出してノイシュバンシュタイン公爵家に保護されています。
そして、ノイシュバンシュタイン公爵様の後ろ盾を得ています。
メルツェーデスお嬢様は、アレクサンドル・シャンボール第二王子の婚約者で悪役令嬢です。
ノイシュバンシュタイン公爵家に訪れた使者は、乙女ゲームでは別の所で登場とヒロインの回想シーンでありました。
考えなくても分かることなのですが、私にとって危険極まりないブラン伯爵家に戻るより、安全・安心なノイシュバンシュタイン公爵家にいたいと思うのが当然でしょう。
ノイシュバンシュタイン公爵様は、私が実家を逃げ出した経緯を調べて知っているので、ブラン伯爵家の申し出をバッサリキッパリ断りました。
これ以降、ブラン伯爵家が何か言ってくることはありませんでした。
鬼義母が、父に私に何をしたのか知られたくないと思って、きっといろいろ何か言って誤魔化したのでしょう。
あの女は、『自分大好き!』ですからね。
ノイバンシュタイン公爵様は、私を引き取ると息巻いていたブラン伯爵が簡単に諦めたことを不審に思い、ブラン伯爵家の動向を調べ始めました。
そしたら、出るわ出るわのブラン伯爵家のごく最近作られた黒歴史の数々。
もし私が同じようなことをしていたら、一生部屋から籠もって出たくないでしょうね!!!
ブラン伯爵は鬼義母と異母妹が問題行動を起こしまくっているので、これ以上評判を落とさないためというのが私を引き取りたかった理由です。
ノイバンシュタイン公爵家に滞在できるくらいなら、きっと彼女たちと違って『まとも』だろうと。
あの鬼義母たちとは、血が全く繋がっていませんしね!
そして、私はノイバンシュタイン公爵様がブラン伯爵家について調べた結果から、鬼義母と異母妹が『転生者』だと確信しました。
ノイバンシュタイン公爵様は、ブラン伯爵家をこれ以上調べても無駄金を使うだけだと、調査を打ち切ろうとしたのですが私がお願いすると彼女たちの動向、つまり電波な疑いのある異母妹の調査を続行してくださいました。
普通なら、子どもの言うことなんてと言って取り合ってもらえないのですが、私がきっかけでメルツェーデスお嬢様が貴族教育を受けることになったのでお願いを断られませんでした。
きっかけというのは、メルツェーデスお嬢様が階段から落ちるのを私が庇ったからです。
その後、気絶して目覚めなかった私をメルツェーデスお嬢様が心配して看病をしたそうです。
私が目覚めた時に、私に対して罪悪感いっぱいのメルツェーデスお嬢様が何でもしてあげると言ったので、「貴族教育をちゃんと受けて下さい」とお願いしました。
これには、メルツェーデスお嬢様が嫌な顔をしてノイバンシュタイン公爵様は大喜びしました。
貴族教育からどんな手を使ってでも逃げ出す娘が、これでちゃんと公爵家の令嬢の教育を受けさせることができると言って。
メルツェーデスお嬢様は、最後までごねたのですがノイバンシュタイン公爵様が「貴族たる者、約束を違えることは許されん」の一言で逃げ道を無くしました。
それによって、メルツェーデスお嬢様が貴族教育に私を巻込んだのは余談でしょう。
メルツェーデスお嬢様の貴族令嬢としてのスペックがうなぎ登りになると同時に、ノイバンシュタイン公爵様は娘自慢を周囲にしまくるようになりました。
結果、死刑宣告と同義語の権力を笠に着るただのお子様思考のアレクサンドル・シャンボール第二王子の婚約話をノイバンシュタイン公爵様が持ち帰って来たのです。
そして、ノイバンシュタイン公爵様は私を見るなり、見事なスライディング土下座をされました。
いつの日か私も、ノイバンシュタイン公爵様がしたような綺麗なスライディング土下座をしてみたいと思います!
それはともかく、この婚約話を聞いた時の私はキレすぎてとてもとても素敵な笑顔をしていたと、執事のセバスチャンに後に言われることになります。
ノイバンシュタイン公爵様は言いました。
「あの有名な第二王子に優秀すぎるうちの娘をやる気はない!エカテリーナ、あの第二王子が婚約破棄をするように仕向けろ!」
これは、私がなんとなく過去に言った一言が原因です。
「もし、王子様のどちらかとメルツェーデスお嬢様が婚約したら、権力拡大を妬んだどこかの馬鹿貴族にあらぬ濡れ衣を着せられ、メルツェーデスお嬢様は【以下、禁則事項です】【以下、禁則事項です】【以下、禁則事項です】【以下、禁則事項です】になりますね」
と。
娘大好きなノイバンシュタイン公爵様はこれを聞いて青褪めました。
それなりの野心はありますが、娘を犠牲にするほど彼は非常になれませので。
というのは置いといて、ここ最近の困った問題を婚約破棄計画に利用できるかもしれません。
それは、メルツェーデスお嬢様が私の作ったお菓子を食べまくってブクブク太っていく問題です。
私は、前世でお菓子作りが趣味だったんです。
パティシエを目指すほどにお菓子作りの情熱はないけれど、食べたお菓子を再現できるくらいの腕はあったのですよ。
それも、自分好みの甘さなどに調節して。
そう、この世界ではお約束のように前世のような甘味が存在しません。
洋菓子とか和菓子とか。
せっかく、転生できたのにそれらのお菓子が食べられないなんて死活問題。
だって、魂レベルで求めてるんですよ!
こうなったら、自分で作るしかありません!
そして、ようやく自分で納得できるお菓子を作れたところまではよかった。
そう、そこまではよかったのです。
メルツェーデスお嬢様が、私の作ったお菓子を食べ過ぎて太っていくまでは。
そこから、他のご令嬢たちまでも巻き込んで太っていくまでは。
仲良く太らなくてもいいじゃないと、私は頭を抱えました。
なんで、こんな結果になるのかと!
ですが、この悩みも今日までです。
これからは、より一層にメルツェーデスお嬢様を太らしていこうと思います!
ノイバンシュタイン公爵様は、メルツェーデスお嬢様の美貌が損なうからと大反対したのですが、王家の問題児である第二王子とその仲間たち(攻略対象たちのこと)は『外見だけでしか判断しない人たち』なので、この方法しかありませんと訴えました。
実は、この乙女ゲームの攻略対象たちはゲーム内で寒々しい愛の台詞を囁くくせに、ヒロインを外見でしか惚れていないと感じる時が多々あったのです。
この世界に転生してゲームでの攻略対象たちの評判を聞いて、どうしてあのゲームがネット上で酷評だったのか分かりました。
「ゲームのプレイ中に気付かんかったんかい!」と突っ込まれそうですが、超豪華声優陣補正で、全く気付かなかったのですよ。
声優さんって、偉大ですね...
酷評のわりには売れていたので、そういうことだったのでしょう。
太っていくごとに、貴族令嬢として淑女として完璧になっていくメルツェーデスお嬢様に、私とノイバンシュタイン公爵様は何とも言えない感情になっていきました。
やはり、ちゃんと貴族教育をさせるためには太らさなくてはいけないのかと。
ゲームでは、『奇跡の超絶美少女』設定だったのに今ではそれを見る影もないです。
なんで、なんで、こんなことに...
そして、運命の日。
下手するとノイバンシュタイン公爵家の没落フラグが立つ学園の入学式。
と、思っていた時期もありました。
あの異母妹が、電波りながらヒロインがするはずのイベントをこなして行っているのです。
きっと、この電波少女はイジメを悲劇に酔った振りして自作自演してくれるでしょう...
乙女ゲームの期間中は、精神を削らせながら電波少女の観察をする必要がありますね。
この日のために、校内のあらゆるところに監視カメラを仕込むよう、ノイバンシュタイン公爵様にお願いしたのです。
メルツェーデスお嬢様が嫌がらせされる可能性があるという名目で。
娘馬鹿な彼は、すぐに学校と交渉し監視カメラ設置の許可を取りました。
それなら、電波少女の観察を自分でする必要がないのかもしれませんが、より万全を期すためには自分でするしかありません。
というのは建前で、自作自演する電波少女を見てみたいだけなんですよね。
一回見てみたいじゃないですか、リアル電波少女のリアル自作自演。
電波少女は、次々と順調に攻略対象たちをご自慢の顔で落として行きました。
そして、攻略対象たちを落とす際の電波少女の悪評を私は攻略対象たちの耳に入らないように細工しました。ノイバンシュタイン公爵家の権力を使って。
お友達たちやメルツェーデスお嬢様には「権力の使い方が間違っている」と言われるのですが、ノイバンシュタイン公爵様の要望にこたえるためには『これが正しい権力の使い方』です。
もちろん、ノイバンシュタイン公爵家の権力を使った際にはノイバンシュタイン公爵様にご報告をしています。
使いどころを間違えなければ、怒られないのですよ。
ついに来ました。
電波少女の自作自演現場。
自作自演現場を見る時は、監視カメラの位置調整をリモコンでする物忘れずに。
ああやって、こうやって、と答え合わせをするようにその現場を見るのは、思ったよりも面白いものです。
ですが、怪我を自作自演するというのは痛そうです。
本人はやった後に達成感のある顔をするのですが、見ている方にとっては目に優しくない行為ですね。
見られているかもしれないと思って、やって欲しいものです。
電波少女がいい感じに攻略対象たちを落としたある日の午後の食堂。
「メルツェーデス・ノイバンシュタイン公爵令嬢、貴様の見た目は悪すぎだ!よって、俺の隣に立つには相応しくない。貴様との婚約は破棄する!そして、見目麗しき美しい令嬢ソアラ・ブラン伯爵令嬢と婚約する!」
もともと評判が悪く、より悪評を出しているアレクサンドル・シャンボール第二王子様が、堂々と宣言なさいました。
これを聞いた電波少女と攻略対象たち以外の生徒は笑いをこらえるのを必死。
この婚約破棄、利があるのはノイバンシュタイン公爵家ですから!
第二王子の悪評が、最低限で抑えられているのはひとえにノイバンシュタイン公爵家の後ろ盾があるからです。
他の家なら、第二王子の悪評を抑えることができませんよ!
メルツェーデスお嬢様に第二王子を押し付けて少しは楽しようと思っている王家の思惑を見事に、第二王子様は粉々に砕いてくれました。
私は早速嬉々として、ノイバンシュタイン公爵家に戻ってノイバンシュタイン公爵様にご報告を申し上げます♪
学園の先生方を笑顔で脅...じゃなかった黙...ではなく、お願いしたら青い顔色をして、ノイバンシュタイン公爵家に直接ご報告に行くことを快く即答で了承してくれました。
これが、ウワサの『ヒロイン力』ですか。
すごいですね、ヒロイン力!
私の報告を聞いたノイバンシュタイン公爵様は踊りだしそうなほどの上機嫌で「王様にご報告に行く」と言ってました。
もちろん、私もついて行きました。
ノイバンシュタイン公爵様を信用していないわけではないのですが、『第二王子とメルツェーデスお嬢様の婚約破棄の了承の現場』をこの目で見たいので。
ノイバンシュタイン公爵様は笑顔で、私はヒロイン力を発揮した笑顔で、王様に第二王子とメルツェーデスお嬢様お嬢様の婚約破棄を迫りました。
私のヒロイン力を発揮した笑顔を王様とその仲間たちが見ると、青い顔色をして見事なスライディング土下座をして、「第二王子とメルツェーデス・ノイバンシュタイン公爵令嬢との婚約破棄を認めさせてください」と言われました。
それにしても、王様が下の者に向かって土下座なんてするのはどうかしていると思います。
なぜ???
学園に戻ると、攻略対象たちの婚約者様はメルツェーデスお嬢様と同様に婚約破棄をされていました。
もしかして、今年の流行は『婚約破棄』!?
でもまあ、攻略対象たちの婚約者様である令嬢たちの家にとっては、婚約破棄はされましたが無駄で無意味なストレスが発生する家同士の繋がりを強固にするためこの婚約は、慰謝料を取れる上になかったことにできるのでいいことかもしれません。
学園という名の一種の閉じ込められた空間とはいえ、ウワサが漏れるのを防ぐことはできません。
婚約破棄を宣言された令嬢たちよりも、婚約破棄を言い渡した攻略対象たちの方が、世間では致命的な醜聞となりました。
学園から広がってしまったウワサもあるくらいです。
いくら身分の尊い方がいたとしても、緘口令が敷かれていませんでしたしね。
流行かと思われた『婚約破棄』が攻略対象たちだけですんでしまいました。
その結果、アレクサンドル・シャンボール第二王子様と電波少女ことソアラ・ブラン伯爵令嬢が王家の命によって絶対に破棄することのできない婚約をしたそうです。
ちなみに、両者ともに愛人を作ることが許されないとか。
私はというと、彼らの婚約現場に乗り込み、電波少女の今までしてきた数々の自作自演の証拠をその場にいる王様や王妃様他の人たちの前で提示しました。
第二王子は電波少女の自作自演行為にショックを受けているようですが、そもそもこの王子は電波少女の顔目当てで婚約を決めましたので、そのうち気にしなくなるかもしれません。
城内に残っている残り少ない王子の取巻きたちが私の電波少女の自作自演の証拠を王様に見せるのと止めようとしたのですが、私がヒロイン力を発揮した笑顔を見せると、なぜか脱兎のごとく逃げだしました。
乙女ゲーム期間も終り、電波少女と攻略対象たちが『退学処分』され、平凡な日常が徐々に戻ってきました。
そして、メルツェーデスお嬢様とそのお友達たちのお菓子を食べる量もそれに比例して増えていきました。
ストレスの原因が学園から去ったのに、なぜ???
疑問は尽きませんが、これからは『メルツェーデスお嬢様の調教計画』を進めたいと思います。
正直なところ私には分かりませんが、なぜかメルツェーデスお嬢様とそのお友だち達は優秀なプロのシェフが作るお菓子より、私の作るお菓子の方が好きみたいです。
なので、私はカロリー控えめなお菓子を次々と作りだしました。
お菓子によっては、カロリー控えめの方が美味しいんですよ。
が、メルツェーデスお嬢様とそのお友だち達は「いつものがいい!!」と大ブーイング。
なので、私はヒロイン力を少し抑えた笑顔で、「少しでも痩せたら、いつものお菓子を作りますよ?」と言いました。
なぜか彼女たちは顔色を悪くして、コクコクと高速で頷きました。
高速っ!?
それから、彼女たちは私の調教計画により、徐々に痩せていきました。
そして、鬼気迫る勢いでダイエットを実行して形にしていきました。
二年後、私は彼女たちの調教計画を終え、カロリー控えめでない普通のカロリー標準のお菓子を作ることができるようになりました。
私の『ヒロイン設定』どこ行ったっ!?
読んでくださり、ありがとうございました。