第二話 「なんでもないところに、驚きは隠れています」by大学の一講師 その一
こんかい、くろかみしょうじょがれいぷめでくるみます。
拝啓。少しずつ日差しが厳しさを増してくると共に、湿度さえも頼んでいないのに上がってくる糞みたいなこの季節。お母上はどのようにお過ごしでしょう(以下略且つU字路は自宅生なん
ジメジメムシムシとうっとおしい天候の中、黒鬼とリンが現在いる場所は、日が指さない故かひんやりとして、非常に居心地の良い環境だった。
岩屋の中、というのは、こんなにも過ごしやすいのか、と、リンは一人心の中で妙な納得をしていた。
外を眺めると、真緑の絨毯と、熱気に当てられて少しぶれる岩山が網膜に写りこんだ。
もしあの中にいると、余りの蒸し暑さに元から少しやばかった状態が悪化して、気が狂っていただろう。
いや、むしろ現在進行形であそこにいる動物は、苦しみぬいているのだろう。それに比べて、こんなにも素晴らしいところでいることの出来る自分は、何と幸せなのだろう、と彼女はぼんやりと思う。
―――――――今のこの現状でなければ、の話ではあったが。
「そういえば知っているか?マンゴーはなんとウルシ科らしいぞ。」
「それ絶対今の状況に関係ないですよね。あとまんごーって何ですか。」
「コンマ数秒でこの返し。流石我が弟子だな。師匠冥利につきる。」
「え、えっと、ありがとうございま……………
ってそうじゃなあああああああああい!!!!騙されませんよ!現実逃避しようとしたって騙されませんよ!!」
「うるせぇ!ちったあ静かにしろ!!」
「「アッハイ。」」
そう言えば昨日何食べたんだっけ、位の軽さで非常に返答に困る雑学を披露した黒鬼と、それに神速でツッコミを入れるという活躍を見せた、今後の成長に期待だが少しチョロさも見えるリン。
二人揃って両手を縛られていなければ、何時もの馬鹿馬鹿しくも楽しい心地になれたろうにな、とリンは一人語ちる。
岩屋の壁に背を並べた彼らを監視している模様の、羽を背中に生やした男(誰得。
岩屋の出口の先を見ると、一面の新緑に混じり、空を羽ばたく、と言うよりもすっ飛んでいく、と言った方が良い感じで飛行する異形達。
どう見たところで、現在我等がバカ師弟は、妖怪の一群に捕まっているのであった。
緊縛少女はぁはぁ
「どうするんですかこれ!?しかもなんか気持ち悪い幻聴が聞こえますし‼」
「どうするも何も、全部お前の自業自得であろうが。」
「ぐっ………い、いや、でも元はと言えばあなたがまたあんな下らないことするからーーーー!!」
「だからと言って、何の躊躇いも無く師に向かい弓を引くか?久しぶりに意識が途切れたぞ。」
普段あまり変わらないその顔を僅かに歪ませ、黒鬼は頭をこれ見よがしに振った。
その黒髪には未だどす黒く変色した血や、肉片がこびりついており、何れ程の重症を彼が負ったのかを、如実に表していた。
色々一寸規制に引っ掛かりそうなその姿をちらと見て、リンは顔を背けた。
と言っても、その姿に怯えを感じたとかそういうわけで無く、単に図星を刺された故の行動であるのだが。
「うぐぅ…………。」
「可愛い声を出しても、過去は変わらんぞ。お前はもう少し、落ち着きを覚えた方が良い。」
歯噛みし悔しがるリンに対し、黒鬼は唇を愉悦に染めるかのように曲げ、さもありげに説教を食らわせる。
が、どや顔も惨めに捕縛されている身では全くうざったらしいのみであり、第一言っている事は実のところブーメランであるとリンは心の中で呟いた。
しかし彼女の突き刺す視線に気付かないのか、彼は調子に乗ったかのように、次々と臭い台詞を吐き出し始めるのだった。
ブーメランなのに一々ぐさりと刺さる台詞を製造する目の前の存在に、リンの感情は天限突破寸前、遂には見張りAまでが貧乏ゆすりのペースを増し始める。
この状況でこの態度であるのは、自分の実力にかなりの自信があるのか、はたまた只の大馬鹿か――――――
「おい、五月蝿いぞ!!!」
ザクッ
「あふんっ。」
見張りAが三流漫才に耐えかね、ついに剣で彼の頭をぶち割った。
情けない声と脳漿をぶちまけ踞る彼を見て、リンはざまぁとほくそえんだ。お先が思いやられるのです。
謎の妖怪黒鬼。彼の真価はリンにも未だ判らず、見張りAに至ってては、幾ら頭をかち割っても生き返るナマモノとして認識されている始末であった。
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「……………暑っ………………。」
朝なのに、なんでこんなに暑いんだろう。
扇風機の風に当たりつつ畳に伸びていたリンは、とろけそうな思考でそう考えつつ、さながら悪夢に魘されているかの様なドスの効いた声で呻いた。
未だ朝日はそこまで高く上っている訳では無いが、既に気温は耐えきれない域に達し、不快指数も最近の株価なんか眼じゃないくらいにうなぎ登り。
汗が衣服に染み布地がへばりつき、非常に着心地は悪く、のみならず少し首をもたげ外を眺めるその顎からも、ポタリポタリと垂れ落ちている。
彼女らの住む家は、人間の中々立ち入らない様な、森の奥深くにある。
その為、本来なら、真夏であろうと気温はかなり押さえられている筈であった。
だが、現実にはこの始末。原因も判らないままであり、その上リンの頭は既に焼き付き、原因を考える、という思考すらできない状態である。
そして僅かに残った理性で考えることは、只もう暑さへどう対処しようか、と言うことだけであった。
先程は、かき氷の一つでも作ろうと思い立ち、怠さを増す身体に鞭打って冷蔵庫まで行ったのだが、昨日の時点で全て消費してしまっていたらしく、製氷室は見事に空っぽだったのである。
黒鬼に頼もうかとも思ったが、下手にやらせればここの周囲一帯が凍り付く事を思いだし、また、何処に居るのかも判らなかったため、依頼するのをやめたのだった。
他にも、頼むと負けた気になるというのも、一つの要因ではあったが。
結局、数少ない手段も不可能と判断したため、当面の間、リンはこの状況の中生きる羽目になったのである。
「…………あ。」
意識と無意識が既にちびくろさんぼのバター虎状態になりつつあるが、それでもリンは、この現状を打開する一つの手段を思いついた。
ふふふふ、と彼女は少し壊れかけた笑みを、無残にそして無様に傾いた唇から漏らした。
どうしてこんなことを思い付かなかったんだろう、リンは自らの、眼鏡をかけた珍妙キテレツな少年を軽く越える頭脳を、最近はいつも青狸に頼るしか能がない、永遠の小学五年生並みにしたこの煉獄を恨んだ。
あと煉獄はマジレスすると地獄で罪を償った死人がその罪を清められる(ry
(…………?)
今脳裏に見えた謎の少年と狸と饅頭は、一体なんだったんだろう?
またも受信した電波に首をかしげながらも、ゆるゆるとリンは手を伸ばし、鼻先一メートルに落ちている薄い箱形の物体を目指した。
少し距離が足りず、指先が何とか端の方に触れるのみだったので、気合いを張って数㎝伸ばし、漸くリンはエアコンの操縦権を手に入れた。
「ふ…………ふふ、この科学の利器さえあれば、この暑さなんて一網打尽だよ…………。」
もう自分が何を言っているのか判らないのか、只のリモコンに謎のルビを振りだす、自称稀代の天才八意リン。
この間あんな目に遭ったのに、未だ懲りていないらしい。
仕方ないね。そういう年頃だから。
「くらえっ……………私を苦しめる灼熱の悪意よ……………!無垢なる光をその身に刻むが良いっ………………!!」
着々と、運命がその扉を叩くかの如く、少女は自らの罪を積み重ねて行く(悪のり)。
彼女の師匠がその光景を眺めていたら、ネタにすること間違い無しだが、とろけきった彼女の思考回路は最早機能することは無いだろう。
哀れリンは、後から思い出してきっと悶絶するであろう、厨二満載の、聴くだけでこっちのハートが音を発ててひび割れていく様な寒気のする台詞を自覚もなく吐き、そしてリモコンを背後に向けて降り下ろしつつ、
「栄光なり…………赤熱の破壊手!!!」
起動ボタンを押した。
カチッ
「…………あ、あれ?」
カチッ、カチカチッ、
「も、もしもーし?」
カチカチカチカチカチカチカチ
「…………………。」
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
「何とか言えやゴラァァァァアアアアアアアアァァァァァァァアアアアアア!!!!!!!」
思考回路が既にワンアクションであるが故に、暑さでいい加減イライラの溜まっていた彼女は、うんともすんとも言わない背後のエアコンに向かって怒鳴り、拳を振り上げ振り向いた。物に当たる現代の若者。
その勢いはリアルに空気がブゥンと唸る程であり、そして彼女の容貌たるや、両眼は血走り、髪はザンバラに乱れ、口から火を吐き鼻の穴から蒸気が吹き出ると言う、正に鬼神も裸足で逃げ出す代物と化していた。
怖い(小並感)。
ここに来て自らに癒しを与えることも無く、その職務を堂々とそぉいした白物家電。
今のリンに反逆を開始したプラスチックと金属の産物を超許す余裕など有る訳は無く、スカイネットの尖兵に、今、少女の怒りの鉄拳が突き刺さり―――――――――!!
ずぼっ
「…………へ?」
エアコンを殴ったにしてはおかしい、ずいぶんあっさりした間抜けな音が、リンの鼓膜を揺らした。
と言うか、拳に何の感触もなかった気がした。じゃなくて、無かった。
少し深呼吸して、リンは目の前の状況を再確認した。
右手が、壁に開けていた穴を通っていた。
「…………。」
とりあえず手を引き抜いて、リンは床に飛び降りた。
距離を開けて、現状を再確認。
コンセント。なにも刺さってはいない。文字通り、なにも。
壁。こちらにも、先程物理的に確認した通り何も存在してはいない。排気用の穴がぐっぽりと空いているのみだ。
只どうしてか、日焼けしたその壁には、長方形の影が、まるでそこに何かあったかの様に存在するだけだった。
回りくどく言ったが、要はそこに有る筈のエアコンが、存在していなかった。
「わ…………忘れてた………………。」
そう呟いたリンは、がっくりと膝をついた。どうでも良いが、わたしが膝に矢を受けるのは何時になるんだろう。
少女の脳裏に広がるのは、三日前の出来事。忌まわしき黒歴史。漆黒の魔界との通信記録()を晒された、あの事件。
何て事は無い。
フィーバーし過ぎたリンが、黒鬼をひっ捕まえぶん回したせいで、ぶつけて壊してしまったのだった。
どさっ、と、リンは畳の上に倒れ伏した。
己の犯した罪を、そしてこの世にはもう救いが無い事を漸く思いだし、それが為に絶望に飲まれたのだ。
このまま、自分は灼熱の地獄の中、永遠に苦しみ続け、水分を奪われ干からびていくのだ。ミイラになってしまうのだ。
そう思い込んだリンは、もう動く力も残っていなかった。
「私って………………ほんとバカ。」
レイプ眼で仰向けのまま、て言うかもろにさやかあちゃんな感じで、リンは呟いた。
今までさも元気そうに書いてきたが、実は彼女の体温は既に38℃。
水分もかなり減り、手足が痙攣を起こし始めている。
その呼吸も、暑さの為に荒いものになっていた状態から、次第にゆっくりとしたものに――――――――
「天狗じゃ!!!天狗の仕業じゃ!!!!!」
その時、胸から膝までを凍った浴槽に埋めた全裸のバカが、ドアを開け降誕した。
「一体何があったのよ一体!!!!????あとせめてそこは隠しなさいよ!!!!」
瀕死でも未だ突っ込む辺り、彼女はプロだと思いました(中学生並の感想)。
みんな、おはよう!!!
この間仲間になった幽々子ちゃんと一緒に、町に潜む怪人を探していた私。
すると保険委員長の永琳先輩が、怪しい竹藪に入っていくところを目撃!!
怪しいオーラが漂っているというアヒルさんの言葉を信じ、中に入っていったけど、そこは恐ろしい場所で――――――!!!
次回、「危険‼サバゲーマスターてゐ!!~す、すいません、先生、ちょっと筋肉痛で起きられなくて、今日はお休(スキマ送りにされました)~」デュエルスタンバイ!!!