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我輩、異世界に立つ



気がつくとそこはとてつもない大草原が広がっていた。

見渡す限り何もない。

自分の体を確認するが、ロリ可憐少女だった我輩の幼女ボディが、逞しい漢の体へと変貌を遂げていた。全身鎧付きで。

思っていた通り我輩はゲームのアバターから現実世界の吸血鬼の姿へと変わっていたのだ。


ふと我輩は不意を突かれないように、いつもお気に入りの棺桶型VRシステムに入る前は、全身鎧に黒マントという完全武装をしていたことを思い出す。

そして、やはり今着込んでいるのは、夜の帝王時代(だいたい五百年くらい前、決してえっちぃ意味ではない)に愛用していた全身鎧だ。

肉体も最盛期から全く変化していない。


我輩は理想であったロリ可憐少女の肉体を名残惜しむように心の中でさよならの挨拶を告げ、思いを振り切るように辺りを見回す。

すると、我輩の隣でいきなりガサゴソと音がし、人型の何かが飛び出した。

我輩は慌てて距離を取って戦闘態勢で相手の様子を伺う。

相手もこちらに気づいたのか、慌てて距離をとり、同じように戦闘態勢で様子をみていた。


両者一歩も譲らない睨み合いが続くが、未知の相手が我輩の全く知らない美しい少女であるとわかった。


だが、何やら既視感のあるマジックアイテムを持って、見たことのある構えをしていたのでもしやと思って問いかけた。


「昼飯一食分の課金アイテムを何の躊躇もなく我輩に使用するその迷いのない動き……もしや、アマリリス殿か?」


「老練されていると言わざるを得ないその卓越した完璧な構え……

まさかあなたは、人生すべてをゲームに捧げた可哀想なお爺ちゃんプレーヤー、伯爵殿下さんですか……ってあんた誰よ!」


アマリリス殿はズビシッと指を我輩に突きつける。


それにしてもその長いあだ名はなんだ。


「……今君が言ったではないか。我輩がその伯爵殿下だ。」


「……あなたが伯爵殿下さんだっていうの! なんでハリウッドスター顔負けの戦国武将がゲームなんてやってるのよ! それにあなた風格と迫力ありすぎるわよ! あの可愛らしい少女の面影全くの皆無! ギャップ萌えを目指してたなら大失敗よ、あなた!」


すごい言われようだ。だが致し方ない。

何せ我輩は六百年を生きる伝説の吸血鬼。ヨーロッパに住む生物全てが敵だったのだ。

眼力でゴリラを殺す事ぐらい容易く出来なければあの時代の王になるなど到底不可能だったろう。


「そんなことはどうでも良い。……それよりも君は女性だったのか。しかもその格好は一体何だ」


アマリリス殿は我輩が六百年間見てきた様々な美を持つ女性達に引けを取らない美貌を誇っていたのだが、いかんせん我輩は彼女の服装の方が気になった。


「へっ……?」


ようやく自分がゲーム内のアバターではなく、現実の世界の体だと気付いたのか、アマリリス殿は必要以上に顔を真っ赤にさせる。


「……ち、ちがうのっ! これは……」


慌てるアマリリス殿に我輩は無慈悲な一撃を繰り出した。


「ふむん……これが噂に聞く“コスプレイヤーさん”なるものなのか」


「ぬわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


アマリリス殿は乙女にあるまじき悲鳴をあげて、地面に蹲ってしまった。

フリフリのドレススカートに真っ白い手袋、奇怪な髪飾りをつけ、途中で髪の量が増殖しているに違いない奇妙な髪型。極め付けはこれでもかというほどに煌びやかなステッキ。


これはもしや……!


「……魔法少女アマリリス……!」


アマリリス殿は完全に昇天した。




我輩はしばらく泡を吹いていたアマリリス殿をなんとか正気に戻し、あの意識がなくなった後のことを聞いてみた。


「突然あなたがアコちゃんに殴りかかったと思ったら、アコちゃんの体がぐにゃっとなった後、するするってあなたが吸い込まれていったの。 って本当にそんな感じだったんだからね! 私だって何が何だか全然わかっていないのよ……。」


アマリリス殿はいつもとは違う弱々しい雰囲気である。珍しいことだ。


「だが、なぜアマリリス殿もここにいる? 吸い込まれたのは我輩だけなんだろ?」


なにせ我輩しか奴に触れてはいないのだから。


「それは……、私も吸い込まれたのよ!」


「では、まじかる・プリッツ殿は?」


同じ場所にいた、まじかる・プリッツ殿もこの世界に来ているかもしれない。


「わ、わからないわ」


我輩は手を顎に当てて深く唸る。


「う〜む、やはり飛ばされたのか。」


「飛ばされた?」


「ああ、あのアコちゃんなるプレーヤーの正体はな、“神隠し”だ」


「神隠し?」


アマリリス殿は不思議そうに小首を傾げる。


「その通り、やつらは我輩のような秩序を乱す力を持つ者を排除しようとする存在だ。例えば力で敵わない者はこのように異世界へ飛ばしたりとな。この世界にいるか知らんが、私の仲間もそうやって一人ずついなくなっていった。現実世界での我輩の力は強すぎる。だからやつらは電脳世界で力を出すことが出来ない我輩を狙っていたのだろう。油断して君達を巻き込んでしまった、本当にすまない。」


我輩はいつにもなく弱い声が出てしまった。


だが、アマリリス殿の言葉は我輩が想像していたものと大きく違っていた。


「……な〜に、辛気臭い顔してんのよ! あなたらしくないわねぇ、正直神隠しだとか、異世界とか吸血鬼とか中二病すぎて全然意味わかんないけど、最強と謳われたギルドを纏めていたあなたなら……きっとどうにかしてくれるんでしょう?」


アマリリス殿は笑いながら、我輩の額を軽くこずく。

人知れず笑いが漏れた。この我輩の姿をみても全く動じずに軽口を交わし、さらには喚起を促すとは……流石は我輩が認めた宿敵だ。

こんな人間に出会ったのはいつぶりだろうか。


これだから我輩は人間が大好きなのだ。


「当然だ、我輩は六百年を生きた伝説の吸血鬼! この肉体ならば“神隠し”など恐るるに足らず! 必ず君をゲームの世界へ戻してやろう!」


「……現実世界に戻してね、まぁそれでこそ私達のギルドマスターよ」


そこにあったのはいつも通りのゲームでの会話だ。


「我輩に現実世界などない、なぜならここ数年ずっとログインしっぱなしだったからな! 最早どちらがゲームなのか区別がつかない程だ!」


「そこは誇るな! てかどんだけあのゲーム好きなのよ、前言撤回やっぱりあなた、ただの廃人プレーヤーだわ」


そう言って微かに笑うアマリリス殿に先ほどまでの弱々しい態度はどこにも見当たらなかった。


「ふははは、褒め言葉ありがとう! やはりその堅苦しくない口調の方が君には似合っているぞ」


きっと今の彼女が本当の彼女の姿なのだろう。


「……なっ!! あ、あなた如きに敬意を表すまでもないと気づいただけよ!」


アマリリス殿は顔をリンゴのように真っ赤にしていた。


「それにな、アマリリス殿……前々から言いたかったのだが……」


我輩はさっきまでのおちゃらけた雰囲気を消し、じっとアマリリス殿を見つめて言った。


「な、なによ……急に改まって……!」




「……その衣装、大人気テレビアニメ魔法少女魔女っ娘ぷりりんちゃんのだろ?」


「ぬわあああぁぁぁぁぁ!!!! なんで知ってるのよぉぉぉぉぉ!!!!」


アマリリス殿はまた昇天した。




またしばらくしてなんとか再起動を果たしたアマリリス殿は自分の服装を思い出したのかしばらく三角座りをしていた。


「君のその服装に関してはもう何も言うまい。なぜそんな格好をしながらゲームをしていたのか気にはなるが。どうやら、プライバシーに関わる問題のようだからな。」


我輩も今や日本人の一員、法律は守らねばならない。


「……本当?」


アマリリス殿はかすかに顔を上げ問うた。


「ああ、だからもうしゃきっとしろ、君らしくない。それに我輩達はこの世界に来ているかもしれないまじかる・プリッツ殿を捜索しなくてはならないのだ」


そう我輩達に残された時間の猶予などないのだ。


「そ、そうよね。服装なんか気にしていられないわ!」


「その意気だ。ではひとまず情報収集を兼ねて近くの街へ繰り出すとしよう。準備はいいか! 我がギルド幹部アマリリス、もとい魔法少女アマリリスよ!」


「ぬわあああぁぁぁぁぁ!!!!」


こうして全身鎧武将と魔女少女というデコボコ・コンビは街を目指して歩いて行くのだった。





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