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姉よ。

姉よ。 (6)

作者: 荒城夢兎

 姉よ。

 お前は一体何がしたいのだ。


 クラスの男子からのクリスマスプレゼントが、宅急便で姉宛に届いたらしい。

 それを、これ見よがしにリビングのテーブルに上げて置いた姉。

 帰宅した母から、『これどうしたの?』と、聞かれると、自信満々に、


「貰った! 男子からな!」


 と、腰に手を当てて答えて居た。

 あらあら、まあまあ。 と、微笑ましそうに母に頭を撫でられた姉だが、その時点で一般の高校二年生女子の反応では無い事を理解はして居ないらしい。

 何故宅急便なのか、とか、何故クリスマスが過ぎてから到着させるのか、等、ツッコみ所が多すぎるが、一番興味深いのは、この姉に興味を持つという、異性の存在である。

 差出人は、岩田正二郎。 名前はまともだが、一体何者なのか。


「姉さん。 開けてみてよ。」

「え? 今か?」

「そのまま年を越す気なの? 寝かせて美味しいのは漬物だけよ。」


 我ながらババ臭い言い方になってしまった。


「よ、よし。 じゃあ、開けるぞ。」


 なんだ。 結局は男子にプレゼントを貰ったのが嬉しくて自慢したいだけだったらしい。

 いそいそと笑顔でプレゼントのリボンを解き始めた姉。

 そして、白い包みに到達し、その白い包みを丁寧に開くと……。


「え。」


 姉は一言、そう言って私を見た。 勿論、目を逸らす私。


「あら。 素敵なドレスじゃない!!」


 母はそう言うが、それはドレス等という素敵な物ではない。

 いや。 ある意味ドレスだが、国民的美少女アニメのコスプレドレスである。

 しかも、○ートキャッチ○リキュアのキュアマリ○のプリンセスフォームである。

 岩田君。 ピンポイントすぎるわ。


 プルプルと手を震わせる姉。

 その様子では、そのコスが何なのか理解したようね。

 流石中学校三年生までプリ○ュアを見ていただけあるわ。

 私も付き合わされて見ていたが。


「これ、タグが無いわ。 どこのメーカーかしら。」


 ドレスの襟の部分を不思議そうに見る母。


「ちょ、ちょっと……部屋行って来る! 直美、お前も来いよ!!」

「い、いやよ。」


 コスの服をプレゼントの袋ごとテーブルの上にかき集めて抱き締めてそういう姉に、心底嫌そうな顔をする私。 変な事に巻き込まれるのは御免だわ。


「た、頼む。 今夜のアイス、あたしの分食べて良いからさ。」


 姉がアイスを譲る、だと!? そんなに切羽詰ってるのか。


「……わかったわ。」


 ◇


「で、どうすりゃ良いんだこれ。」

「着てあげたら?」

「や、やだよ!」


 姉の部屋の絨毯の上に広げられたキュア○リンコス。

 それに向かい合って座って腕を組んで悩む私達姉妹。


「なんだよーもー。 なんでこんなのプレゼントに送るんだよー。」

「そりゃ姉さんに着てほしいからじゃない?」

「あたしに着せて楽しいのかよ!!」


 プンスカ! と、怒る姉だが、数居る○リキュアの中から、たった一人を選び、しかも同級生の女の子にコスを作って送るという岩田君の願いの中に、姉に着て欲しく無いなんて有り得ないのだが。


 と、ピン! と来た。 きっと岩田君、これ作り終えるの、クリスマスに間に合わなかったのね……。


「まあ、宅急便で送られて来た以上、それをどうするも姉さんの自由よ。」

「ブーツまで作ったのかよ……。」


 コスの下に、ブーツまであった。 どれだけ本気なんだろうか、岩田君。


「姉さんから何かお返しはしないの?」

「あ、あたしから!? やだよ!!」


 まあ、そうでしょうね。 こんなモノを押し付けられて嬉しい高校二年生は……


「なんでマリ○なんだよ!! なんでブロッ○ムの方じゃないんだよ!!」


 流石姉さん。 怒るポイントが違ったらしい。

 岩田君では無いけれど、良く考えてみればうちの姉はえ○かっぽい。

 ……そういえば、今日は姉さん、三つ編みだったわね。

 解いたら程良いウェーブにならないかしら。

 ちなみに長さは腰の下くらいまでの長さ。

 前髪はパッツン。 ○りか以外の何者でも無いわ。


「お、おい。 なんだよその手。」


 私は、手をわきわきと開いたり閉じたりしながら、姉の服を脱がそうと近づいて行った。


「折角だから着て、写真送ってあげましょうよ。」

「お、おま! そんな積極的だなんて、何か変だぞお前!!」

「ここからが重要よ。 聞いて。」

「な、なんだよ。」

「良い写真が取れたら、それを使ってこのコスをオークションで売りましょう。」

「売るのかよ!! 黒いぞお前!!」

「取り分は、私4、姉さん6でどうかしら。」

「これあたしへのプレゼントだろ!? なんでお前が4割も取るんだよ!!」

「誰が写真を撮るの? 誰がオークションの手配をするの?」

「ぐ……くぬぬぬ。 わかった。 それで良い。」


 ◇


「お、おい。 これめっちゃ着心地良いんだけど。」


 さて、プリンセスフォームに包まれた姉さん。

 岩田君の見立て通り、似合いすぎる。

 父から借りた高性能カメラで、それを色んなアングルから撮る私。

 にしても、女の私が羨むほど腕も足もつるっつるな姉さんの肌。

 ロリコン岩田君はこれに魅せられたに違い無い。


「パンツは撮るなよ。」


 あら。 ちょっとローアングル過ぎたかしらね。

 さっと腰を引いてスカートの裾を引っ張る姉さん。

 良い表情だわ。 それも戴くわ。


「ネットにはアップしないけれど、岩田君へのサービスよ。」

「勝手にサービスすんなよ!!」

「大丈夫。 見せパンよ。」

「んなことあるか!! いつものパンツだよ!!」


 何故かしら。 今日は姉さんのからのツッコみが多いわね。 ちょっと面白いわ。


 ◇


 小一時間で父のパソコンで画像処理を完了した私は、オークションのサイトを表示する。


「お前……器用だな。」


 その一連の作業を見ていた姉さんが、感嘆の声を上げた。


「パソコンの事? 姉さんと母さんが、要らないものを売るのに私に作業を全部押し付けたんじゃない。 お父さんに教えて貰ったのよ。」

「へー。」 

「アカウントだって母さんのアカウントなのよ。」

「へー。」


 姉は、意味が分っていないようである。 本来なら、中学生の私はオークションには参加出来ない。

 母がアカウントを自由に使わせてくれるからこうして利用出来る訳なのだが、まあ、母からの信頼は厚いので問題無い筈だ。


「これで完了よ。 さっさと売ってしまいましょう。」

「一万円からスタートすんのか? 売れんのかよ。」

「売れなければ値段を下げるだけよ。 まあ、大丈夫。 相場はこんなものよ。」

  

 買うほうも売る方も、私は100回以上取引をこなしてきた。

 大体の相場は分っているので、問題は無い。


 ◇


「なあ、なんか質問入ってるぞ?」

「え?」


 オークション開始から二時間後、いきなり質問が来た。

 それに気付いた姉が私に声を掛けて来たのだ。

 ちなみにリビングにあるノートパソコンで姉さんが動画を見ていたのだが、気になってオークションのサイトも見てみたらしい。


「何かしら、ね。」


 詳細は全て書いた筈だ。 ノンクレームノンリターンの個人製作コスプレ服にそんなに質問なんてするものなのかしら。 サイズも全て書いたのだし……。


『質問


  商品はクリーニング済みですか?』


 ……ふむ。 一回モデルが着ただけですと書いたのだが、それでも気になる物なのだろうか。


『回答


  一回モデルが着ただけですが、ブーツ以外はクリーニングした後発送させて頂きます。』


 これで良し、と。

 まあ多少クリーニング代は痛いが、売れれば問題あるまい。


 ◇


「おい。 また質問来てるぞ。」

「え……?」


 まだ何かあるのかしら。 正直クレーマーには落札して欲しく無いのだけれど。


『質問


  クリーニングしないで発送して頂けますか?』


 ……これは……どういう事だ。

 質問をした人のIDを見ると、先ほどの人と同じ人だ。


 つまり、姉の着たコスプレ衣装を、クリーニングしないで送って欲しい、と?

 変態だ!! これは変態だ!!


『回答


  問題ありません。』


「は? 姉さん、何勝手に回答しているの。」

「いいじゃん別に。 クリーニングの手間省けたし。」


 でも確か規約ではそういうのはダメと書いていたような……と、思い、規約を調べる私。


 …………ふむ。


 下着でなければ、特に問題は無い様だ。

 それでいて制服や水着がダメというのは意味が分らないが、ある用途が想像出来て、はっ、と、なる私。

 

 ……いや。 この取引相手、その用途に使用する気なのであるまいな。

 一応目隠しで加工はしたが、姉のコスプレは完璧だった。

 ローアングルや振り向きざまのショット等、完璧すぎた故の悲劇か。


 まあいい。 ここはもう何も考えず、売り切ってしまえば良い。

 お金に換えてしまえば全てが思い出になるわ。


 ◇


 そして二日後の夜。

 皆、年末に何やってんのという言葉しか出ない。

 コス衣装が25500円になっていた。

 そして終了まで残り二時間である。


「こ、これ……まじか。」

「世の中、分らないものね。」


 ノートパソコンのモニターを、肩を並べて見る私と姉さん。

 もう、何を買おうかとAM○ZONのサイトを開いて居た姉さん。 現金なものだわ。


「このIwaIwa199○っての、質問してたヤツだよな。」

「そうね。 そして、現在の最高入札者ね。」

「あたしのパンツ付けたらもっと高くなんねーかな。」


 出た。 出ました短絡的思考。


「それやったらオークションのIDが無くなるわ。 それどころか、補導されるわよ。」

「え? ダメなのか?」

「ダメに決まってるでしょ。 何考えてるの。」

 

 全く。 こう言う事に関しては無防備なんだから。

 しかし、何者なんだろうか、このIwaIwa…………まさかね。


「姉さん。 岩田君の電話番号分かる?」

「分かるぞ。 なんだ? お礼でも言えってか?」

「うん……まあ、そんなものよ。 でも、私に任せて。」


 私は、姉の○ぼんの付録の手帳に書いていた岩田君の電話番号を貰い、自室に向かう。

 そして、家の電話の子機から、岩田君の携帯電話に掛けてみた。

 正直ドキドキするが、間違っていたら間違っていたで済むだろう……多分。


「もしもし。」

「こんばんは。 こちらlivingdeadnaomi○です。」

「っ!?」

「IwaIwa199○さんね。 こんばんは。」

「――何故分かった。」


 この人、なんでシ○ジ君のお父さんみたいな話し方をしているのかしら。


「捨てられるだけかと思っていたが、まさか着て写真を撮ってオークションで売るなんて考えても居なかったよ。」

「私もまさか作者本人が自分の作品を買い戻そうと必死に入札するとは思わなかったわ。」

「……何が望みだ。」

「アップした写真の他に、未加工の写真もあるわ。」

「っ!?」

「……欲しい?」

「……み……未加工……。」

「ローアングルのもあるわ。」

「っ!?」

「ちょっとスカートの()も……見えてしまっているかもしれないわね。」

「なん……だと? なん、だと!?」

「ここで商談よ。 即決4万で良いわ。」

「そんな!! 4万だって!?」

「嫌ならこのまま競り落として頂戴。 その代わり、追加の写真は出ないわ。」

「卑怯なっ!! 製作者を強請る気かね!?」

「姉さんに贈った時点であのコス衣装は既に姉さんのものよ。 それよりも、要るの? 要らないの?」

「……わかった。 4万で手を打とう。 早期終了するのかね?」

「ええ。 それじゃ、今から処理に入るわ。 良い取引を有難う。」

「……ちっ。 …………次は、八九寺ま○いのコスを贈」


 プツ。 話がやばい方向に行きそうになったので電話を切る私。

 口座の話を言い忘れたが、まあ良いわ。

 取引連絡で処理すれば良いのだし。


 ◇


 姉よ。

 私が電話している間に、お前は何故自分の画像を未加工のも含めて適当にアップしているのだ。


『質問


  他の写真はありませんか?』


『回答


  めっちゃあるますよ。 どうやってネットに上げたら良い?』


『質問


  Ya○oo フォトを使ったらどうでしょう。』


『回答


  わかった。 上げてみた。 見れるかな?』


『質問


  可愛いですね。』


『回答


  ありがとうござりまする。 他のも見るますか?』


 姉よ。

 お前は敬語以前に日本語を少し勉強した方が良い。

 というか、自分でパンツが少し見えてそうな写真をアップしてどうするの。


 そしてあっさり最高入札銀額が4万を超え、遂に46500円で落札された。

 とても複雑な気分だったが、買い手が居るのだから問題無い。

 ……問題、無い。


 livingdeadnaomi○評価:とても良い出品者です(103)


  梱包が完璧でした。 まるで香りが包みの中に詰め込まれている感じでした。 モデルの方は小学生なのでしょうか。 商品の作りもとても良く、毎日抱いて寝ても全然ほつれてきません。 

 

 その評価を受けた日の夜、オークションに気付いた母から滅茶苦茶怒られた。

 贈り物を売ってどうするの! と。

 論点はそこで良いのかと思うが、売れた代金を、ドレスを贈った人に全額返しなさいと言われた。


 岩田君に連絡を取ったところ、お金は要らないから八九寺○よいのコスで写真を撮って、着た後そのまま送り返してくれと言われた。


 有無を言わせず振込先を聞いた後、私は、二度と変態に関わるオークションをしないと心に決めたのだった。


 後日、AMAZ○Nのギフト券が岩田君から届いた事だけは、私の心の中にそっと仕舞っておいた。

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[良い点] とても面白かったです 思わず笑ってしまいました [一言] これから過去の作品も見る予定です
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