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銅潔のエリート奇譚  作者: 雨乃月夜
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episode.02 エリートと落ちこぼれ①

「おはようございます、潔さん」

「その呼び方やめて」


 あの入学式の日から、八城はやたらと潔につきまとうようになった。自称反乱軍のNo.2というのは本気らしい。


「えぇ〜?  反乱軍のリーダーを呼び捨てにするわけにはいかないでしょ」

 ──別に呼び捨てにしろとは言ってないけどな。


「ちゃっす潔さん!おつぁれっす!」

「しっれいしやーっす!」


 すると後ろから歩いてきた不良と思われる男子生徒たちが非常に聞き取りづらい滑舌で挨拶をし、去っていった。


「……何なの、あれ」

「落ちこぼれ反乱軍の連中ですよ。俺の部下なんで、潔さんの部下でもあります」

「やめさせてよ! あんなのに挨拶されたらバカの仲間だと思われる!」

「気にする必要ないですよ、潔さんは堂々としていれば問題ありません」

「問題あるわ!」


 ツッコミを入れつつ教室のドアを開けると、あのショートカットの編入生女子、仮沢夕梨がそわそわしながら内部生女子の塊の近くに立っていた。完全にハブの扱いをされておいて、まだ懲りていないらしい。

 内部生の女子たちは気付いているだろうが、視界に入れないようにしているように見えた。


「ねぇ知ってた? うちに来る編入生って、8割は落ちこぼれになるんだって」


 すると内部生の一人が夕梨にも聞こえるようにそんなことを言い出した。


「本当?」

「そうよね、何の素質もないのにうちに来ればエリートになれると勘違いしてる人も多いから」


 その言葉はグサリと潔を突き刺す。


「能力も家も普通なら、もう落ちこぼれ確定よねー」

「……………」


 それは夕梨に対する嫌味だった。


「ん、どうかしました潔さん?」


 女子たちを睨み付ける潔に八城が声を掛ける。


「何なんだよあいつらは。落ちこぼれを差別しないと死ぬ病気か何か?」

「あー……エリートの奴らは落ちこぼれに対する偏見がすごいですからねー。エリートじゃなければ全員落ちこぼれ。全員不良。そういう思考なんですよ」

「……………」

「まぁうちに入った時点で、俺たちが進めるのはエリートか落ちこぼれ、その2つの道しかないんですよ」


 普通であることを許さない学校。それが明園だ。そうなってしまったのは、落ちこぼれが不良化したことで落ちこぼれへの偏見を植え付けられたせい……。つまり全ての元凶はあの男、鉄イズマだ。

 ──上等だ。嫌でもあたしをエリートと認めさせてやるよ……。

 潔がゴゴゴゴと闘志の炎に燃えていると、


「編入生ならまだうちのルールも知らないか……よし。潔さん、あの小娘に教えてやりましょう」


 八城がそんな提案をしてくる。


「何を」

「落ちこぼれを導くのは潔さんだってことをですよ!」

 ──導いてどうする。



 ***



「仮沢夕梨…………といったな」


 昼休み。自動販売機が並ぶ校舎裏で、八城が夕梨を前に偉そうに腕を組みながら言った。また仰々しい態度である。

 八城の隣には潔もいた。


 ──結局あたしも来てしまった……。




 ─数時間前─




「別に落ちこぼれになるつもりなんかないでしょ」

「早いうちから仲間に取り込んでおくんですよ。そうすれば潔さんの内部から崩壊作戦もバッチリです」

 ──こいつまだそんなことを……。

「潔さんのカリスマ性なら、人心掌握なんて余裕ですよ」

「…………」


 潔はふと思い至る。

 人心掌握。つまり、人の心を掴んで思い通りに動かすということだ(ちょっと違う)。

 確かにエリートには必要そうな能力だ。それにここで恩を売っておけば評価が上がるかもしれない。

 そうして潔はまんまと乗せられたのだった。

 ちなみに八城は夕梨にこっそりメモを渡して呼びつけた。



「えっ…………と?」


 八城の訳のわからない態度に当然のごとく戸惑う夕梨。


「お前を呼び出したのは他でもない……俺たち落ちこぼれ反乱軍の仲間に入れてやる」

 ──直球すぎだろ。

「は、反乱……軍……?」

「そうだ。お前はまだうちのルールを知らないようだからな……今のうちに落ちこぼれになる覚悟を決めておいた方がいい」

「えっ? な、なんで私が落ちこぼれになるんですか!?」

「お前がエリートじゃないからだ」

「……………」


 八城のシンプルな答えに夕梨は言葉を失う。


「………そ、それは、私なんてなんの取り柄もないただの凡人だけど……でも少しでもエリートに近づきたいと思ってるんです。だから落ちこぼれになるつもりなんかありません!」

「ふっ、無駄だな。エリートになれないのならお前は落ちこぼれになるしかない」

「なっ……! そんなことないですよ! 頑張ればきっといつか……!」

「なれなかったらどうする。このままずっとあのエリート共に見下され続けるつもりか?」

「………それは………」

「こっちに来れば楽になれるぞ……? こっちには最強の潔さんがついてるからな。誰もお前を見下したりしない……」

 ──危ない遊びみたいに誘うのやめろ。


 呆れながらも、潔はある期待を抱いていた。


「ねぇ」


 潔は八城を押し退ける。


「あんた、ほんとにエリートになりたいの?」

「え、はい………」


 すると夕梨は突然大きく反応した。


「もっ……もしかして、エリートになりたいって言っただけで排除対象ですか⁉ エリート狩りですか⁉」

「は?」

「勘違いするな。お前はエリートではな──」

「あ、あなたたちがなんと言おうと、私はエリートになってみせます! 落ちこぼれなんかには絶対なりませんから‼︎」


 夕梨はビビりながらそんな捨てゼリフを残して去っていった。


「……………」


 ──せっかく……同志だと思ったのに。


 しょんぼりする潔だった。


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