時を売る人
あるところに、時を売る人がおりました。
いらっしゃいませ、お客様。時間をいくらお望みですか?
少年は言った。5分でいいから時間をおくれ。
5分でいいとは、よく言ったもの。一体、何に使うんだい?
少年は答えた。たった今、死んでしまった母さんに5分の時間をあげたいんだ。そしたら、お礼を言えるから。育ててくれて、ありがとうって言えるから。
わかりました、売りましょう。ただし、時間はお金じゃ買えないよ。
あなたの指を一本もらいましょう。
少年は、指の一本でいいならと、5分の時間を買いました。
おかげで母との別れの挨拶、きちんとすること出来ました。
いらっしゃいませ、お客様。時間をいくらお望みですか?
学生は言った。1ヶ月の時間をおくれ。
1ヶ月とは、欲張りな。一体、何に使うんだい?
学生は答えた。明日に迫った試験がある。ちゃんと勉強しとけばよかった。あと1ヶ月の時間があれば、ちゃんと出来ると思うんだ。
わかりました、売りましょう。ただし、時間はお金じゃ買えないよ。
あなたの片足もらいましょう。
学生は、戸惑った。片足だなんてウソだろう?散々迷って1ヶ月の時間を買いました。
しかし哀れな学生よ。いくら時間があっても変わらない。まだ時間があると後回し。
結局足だけ失って、試験当日迎えました。
いらっしゃいませ、お客様。時間をいくらお望みですか?
男は言った。1年の時間をおくれ。
1年とは、恐れ入った。一体、何に使うんだい?
男は答えた。病気の妻がいるのだが、どうやら長くはないらしい。来年に控えた娘の結婚式、妻にどうしても見せてあげたい。
わかりました、売りましょう。ただし、時間はお金じゃ買えないよ。
1年という長い時間を売るのには、それ相応のものを頂くよ。
男に一切の迷い無し。1年の時間をくれるなら、何をあげても構わない。
そして娘の結婚式。会場には娘の両親。
何も知らない妻が言う。
「あなた、素敵ね。とっても綺麗。」
それに夫が答えて言う。
「ああ。とっても綺麗だね。」
夫は視力を失って、全く見えてはいないのに。