表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

五百文字の小説

希望

作者: 銭屋龍一

 世界は終わろうとしている。


 それでも私は寝ぼけたとろんとした表情でただ無為にたばこを吸っている。

 いまさら世界が終わったからといって、それが私に何の意味がある。

 とうに私というものは終わっているのだ。

 終わりを過ぎたものに新たな終わりなど何の意味もない。


 高架の上を満員電車が通りゆく。

 傾げた車体が冗談のようにこっくりをする。

 どうやら電車も寝ぼけているらしい。


 最後に会っておきたい人はいないの?

 物憂げな調子で紅い唇が言葉を吐き出す。

 私にはすでに他者との関係性はなくなっている。

 想い出も、なつかしさも、とうに失くした。

 私がなくなっているのに、その私が誰に会って、なんと言葉を掛けるというのだ。

 見詰め合う瞳の熱さえ、もはやなんの感情も喚起しない。


 海は澄み渡り美しい輝きを見せていた。

 その記憶はきっと嘘だ。


 そのような美しさが私に理解できたはずもない。


「世界が終わろうとしているのに、我々はこんなところでこんなことをしていていいのか?」

 駅前の広場に木箱を置いて、その上に立ち、こぶしを振り上げ、ダークグレーのスーツが叫ぶ。

 集まった群衆からかすかな笑いの波が起こる。

 そして静かに沈む。


 助けてやれよ。


 悪魔か天使かが私の耳元で囁く。


 私はダークグレーのスーツを蹴り飛ばす。

 助けてやったらいいじゃねぇか。


 悪魔か天使かは溜息の音を残して消えていく。


 新しいたばこに火をつける。

 深く煙を吸い込もうとした瞬間に世界は終わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] すごく興味深い小説です、 ぜひ世界が終わった、とかの意味の解説をまとめた 小説を出していただきたいです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ