008:義妹ができました
視点:宍戸姫香(妹)
武器屋で刀を眺めている最中に、メールが届きました。
それは兄さんからで、食事の後に話していた対人戦の件です。
送名:兄さん
件名:Fw:フルボコってやんよ
友人から届いたメールを転送する。
栄光は我らの手に、ハンズオブグローリー!
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時刻『16:15』
商業区の宿屋『旋律の青』
対決は六対六、従者込みのフルバトル
チャンネルは自動設定されるので、プレイヤーは何もしなくてOK
なお、場所がわからない場合は従者に頼めば案内してくれる
(コチラをクリックしてマニュアルの『対戦方法』項目へジャンプします)
「血祭りの刻まであと一時間ぐらいですか」
楽しみです、ええ本当に。武器選びにも熱が入るという物です。
「姉さま、すごく楽しそうですね!」
「ふふ、もちろん。合法的に刀で人を斬れるなんて初めての体験ですから」
声をかけてきたのはメイドのユキコ・シシオウ。愛称はユキ。
宍戸姫香ことヒメカ・シシオウである私の義妹。チュートリアルの雇用希望調査表に『妹が欲しいです』と書いたら本当に妹が出来ました。
常日頃から私にも妹が欲しいと思っていたので、嬉しい限りです。
腰まで届く長い白髪、白い狐耳。身長は140cmと小柄、顔はお母さん似の美人系統。見事に、私の内面にある理想の妹像を再現した形。ことある毎に頭をなでなでしてしまいます。
「今宵の刀は血に飢えている、というヤツですか?」
「その通りです。刀は今、選んでいる最中なんですけどね。予算内に収めるのが大変」
「装飾が凝ってないものでしたら支給金で悪くない品が買えますが……」
「一本だけなら……そうですね。でも三本買いたいのでお値段ギリギリになりそうです」
「口に咥えて三刀流とかやるのですか?」
「ふふ、そんな下品なことやりませんよ。二本はユキに。小太刀二刀流をしてもらいます」
「そ、そんな。私なぞ訓練の時に姉様が支給されたロングソードで十分ですよ」
「いいのいいの、妹なのだから甘えて下さい」
「は、はい。姉さま、お言葉に甘えて……ありがとうございます」
ああ、花が咲きました。癒やし効果がすさまじいです。
兄さんが私を甘やかしすぎだと、たまーに思う時があるのですが、今は気持ちが理解できます。妹は甘やかしてなんぼなんですよ。この笑顔を守る為なら、私は誰でも殺っちゃいますよ!
私は、商品棚に飾ってある刀をじっくりと見回す。
少しは刀に対する知識は持っていますが、鑑定眼がないので、目星を付けている数点はどれも切れ味が良さそうに見えて装飾以外の違いがわかりません。それでも自分の目で選びたいのが人の性。
余りに悩んでいる私。鍛冶屋のおじさんに「形状や材質に違いはあれ攻撃力は同じだ」とアドバイスを頂き目から鱗。
それを受けて自分の目で刃の輝きをチェック開始。
折角なので切れ味が良さそうな感じがする刀が良いですから。
「……これに、決めました」
選んだのは、黒漆で塗られた木の鞘に、古刀の肌物を持つ刀。
ゲームなので古刀、新刀、現代刀、架空刀の性能に区別はないのだけど、見た目はそれぞれ再現されている。私が選んだのは前述通りに『古刀』。
現代刀のように小綺麗さはないのだけど、見ていて安定感があるし、何でも斬れる気がする。
予備知識があるのからこその感想でしょうけど。
選んだ刀を『売約済』にしてもらい、続けてユキが持つ小太刀を探す。
店内には私以外にも八人ほど客がおり、身長より長い刀や刀身が紅くなった刀などを買おうと悩んでいる様子。やはり、現実の範疇になる日本刀よりも、架空の商品のほうが興味を引かれるのでしょうか?
子供だし、ユキも目立って格好良い刀の方が良いのかな? 勝手に小太刀にしようと決めてしまったのだけど……
「ユキ。あなたもあの人たち見たいに格好良い武器の方が良い?」
「私は、姉様とおそろいのデザインだと嬉しいなーとか思ってました。あの方達の武器はちょっと派手で……」
「つまり、質実剛健と」
「はい」
元気よく、嬉しくなる返事をしてくれたので、頭をなでなでなでなで。
よーし、よしよしよしよしよしよし、良い子ですねー。レロレロキャンディあげたくなりますねー。
私の想像から生まれた子なので趣味も似ているよう。これは癖になってしまいそうです。なでなで。
はっ! いけません、これは公明の罠です。あにきの策略です。
あの人は頭を撫でさせない私に代わり、ゲーム内で理想の妹をメイドにして、なでなでする魅力に取り憑かれて会社を辞めて撫でる作業に夢中になってしまったに違い有りません。
気を強く持ってユキの目を見ると……くぅ、可愛いです。やはり私はあにきがゲームにのめり込んだことに共感できる側の人種のようです。さすがに不登校になったりしませんが、あにきをゲーム内で見つけた後もちょくちょくログインしてユキと一緒に人や魔物を斬り刻むことにしましょう。ふふ、とっても楽しそうです。
……そういえば、このゲームを始めたのはあにきの捜索が目的でしたっけ。すっかり失念していました。
このあたりはきっと兄さんが頑張ってくれるハズです。
いえ。兄さんも同じ血筋。もしかすると私より年下の妹がメイドとイチャコラしている可能性も……
いやいや。手酷い失恋(今でも尾を引いている)を経験しているので、包容力が高い大人の女性がメイドになっている可能性、いや、もしや、男色変貌を遂げている可能もあって―――――
「姉さま?」
「ごめんなさい、ユキ。少々考え事をしていました」
「私の武器のことに真剣になってくれて、すごく嬉しいです!」
うっ、心にトゲがささります。誤解です。ユキとは違う男二人のことを考えていました。
ユキがぎゅっと私の左手を握ってくれて罪悪感が溢れてきます。
あぁ、この暖かみはもはや現実。
ロリコニアの神よ。彼女の前で汚れた異性のことを考えてしまった私をお許し下さい―――――
……よし、気を取り直してユキの刀を選びます。
私が先程購入したのと同じような意匠のものを、おお? そういえば、刀に銘はあるのでしょうか。
「店主、私が選んだ刀と同じ人が鍛えた作品はありますか?」
「この店は全部ワシが鍛えた作品だ。上級に区分けされる武器しか銘入れはしてないが」
「なんと! では、店主よ。私が選んだのと同じ意匠の小太刀とはどれになるんでしょうか?」
「この刀か、ふむ……これなら似たような感じだ」
店主が選んでくれた小太刀は朱塗りの鞘に、黒の柄巻(持ち手)だ。少々派手なので悩ましい。自分が持つなら嫌なんだけど、ユキが持つなら……白髪の彼女には映えるかもしれない気がします。
彼女の瞳が朱なら即決したんですけど、実際は黒。なんとなく、全体の調和として微妙になってしまう気がして私を悩ませる。
「鞘なら、別料金で加工してやる。塗りたい色や文様の有無、柄巻の加工なんかで追加料金は変動だ」
「なんと! それでは加工を願います、色は黒で――――」
鞘を黒塗りに変更して貰い、会計を済ませて顔で刀匠のお店を後にする私とユキ。
懐は寒くなりましたが、心は温かいです。所持金が260Gしか余っていませんが問題ありません。敵を斬ればお金が手に入るロールプレイングの世界ですから問題なんてありません。
「姉さま、次は宿屋選びですね!」
「ユキはどんな宿屋が良い?」
「和室がある所が良いです!」
「畳と布団じゃないと寝れないものね、えーっと、公認宿屋リストで和室がある所だと……」
アイテム欄から公認リストを取り出し、ぺらぺらとページを捲る。
電子書籍なら索引できるのだけど、私はシックリこないので紙媒体が好きな人間……そんなことを考えていると、ぴたり。と和室がある宿屋の紹介ページで紙の動きが停止した。
≪ 和室の検索条件「1/3」 ≫
なんと。思考するだけで脳内検索をしてしまえる仕様でしたか。さすが仮想現実です。
三件を全て確認してみると……宿屋『緑黄色野菜』ここが良さそう。五右衛門風呂があるのと、今いる場所の近くなのがポイントですね。
この区域の建物は、一見洋風ばかりに見えるのですが、微妙に和風なテイストが混ざっている仕様。
刀を買ったお店も煉瓦造りの只中に木造瓦建築でしたから。この場違いだけど大和魂を貫いている感じが素敵です。
「しかし、異世界人は宿代が無料なのは助かります」
「魔王様に感謝しましょう。国税で賄われていますからね! でも、いつかは無料宿じゃなくて旅館に泊まりたいです。六畳間じゃなくて十二畳ぐらいの広々とした……」
「贅沢は敵ですよ?」
「き、今日は私の小太刀で素寒貧になちゃって。姉様ごめんなさい」
冗談のつもりだったのだが、ユキには誤解をさせたようで……私が虐めたみたいになってしまいました。
罪悪感ゲージが無駄に高まるけど少しオロオロしたユキも可愛くて。このままちょっと可愛がりたくもなってしまいます。
「そんなつもりで言ったのじゃないよ。ごめんねユキ」
私がそういうと、ユキはホントかなー? という目線を向け、狐のしっぽをふりー、ふりーとゆっくり動かして疑ってきます。仕草がとても可愛いです。
あぁ、狐耳の種族を選択して正解でした。
なでなでしたい衝動を抑え、小洒落た言動でフォローをすることにします。
「六畳間だと、布団を二対並べると狭くなってしまいますね。今晩は、一緒に寝ましょう。
貧乏だって、悪いものじゃありませんよ?」
「はい! 姉さまと一緒に寝るの、楽しみです!」
※好感度が高いので一緒の部屋に泊まることができます。