071:再び深樹海へ
お互い簡単に自己紹介をして、すぐに深樹海へと潜ることになった。
どのように攻略するかを話ながら入り口へと歩いて移動する。
「行動指針としては、『静』を前提としよう」
「『性』、だと……」
予想外の指針で驚きを隠せない。
ランさんは男装をしているだけで普通の人だと思っていたら、まさか変態だったとは……やはり、か。
「クルスは不満そうだね?」
「不満というか、性というのは具体的にどのような前提なんですか?」
「単純に、堅実に行動しようってことさ。精霊の加護を受けないことを意識して慎重に立ち回る。アクティブな敵には近寄らず、不意打ちできそうな敵を目敏く潰す。慌てない、叫ばない、慎重に」
「この私、『漆黒の鳶忍』に相応しい指針ですこと。警戒・索敵は任せてもらいましょう」
「……なるほど、わかりました。問題ありません」
性ではなく静だった。勘違いが少し恥ずかしい。
遙人さんとゲームをする時は、視界に入った敵で他プレイヤーと交戦していないものは基本的に全て潰していった。
趣向を変えて静かに行動するのも良いかもしれない。
それに、パーティに忍者が二人もいるのだから隠密行動なのはそれとなく自然な感じだ。
「よしよし。それなら、道行きは僕がエスコート。殿で漆黒に警戒してもらおうかな」
「この『漆黒の鳶忍』及び弟子のクロにお任せあれ」
「クルスとサクラは中衛で、僕の指示がない場合は好きに動いてもらう感じで大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です」
「問題ありません」
ランさんは、音頭を取るのが上手い。段取りがあっという間に決まってしまった。
きっと、中の人は大人なのだろうと思う。
現在のパーティメンバーは、人数制限いっぱいの6人。
募集主のランさんは鎖鎌を持った男装の執事で、精霊魔法の使い手。付き従うメイドはショートヘアの無口なエルフの少女で、名前はアララギ。小振りの刀を二本腰に差している。
忍者は『漆黒の鳶忍』を名乗るポニーテールの少女と、その弟子であるクロという犬耳少女。装備は2人とも共通で、背中に背負った忍者刀に、左手に装着している手甲鉤。
深樹海での隠密性を高めるということで深林迷彩柄の忍び装束を着ている。
私とサクラさん以外、4人に共通点するのは全員が貧乳ということだ。
現実ではBで貧乳の範囲内にいる私であるが、仮想世界では少し盛ってCサイズ。
相対的に自分のサイズが大きいことに少しだけ優越感を感じて自己嫌悪する。
変態総合スレッドの貧乳巨乳談義を読んでいた結果、私は完全に巨乳信仰になってしまったのだ。
今、重大なのはこの貧しい集団の中にいる一輪の花。
隣にいるサクラさんの胸部へと視線を向けると、彼女は形の良いDが存在感を主張している。
先日、ベッドの中で触らせて貰った時はやわらかく適度に弾力があって触り心地が至福だったな……
「クルス様、どうかされたのですか?」
「少し……いえ、なんでもないです」
サクラさんが私の視線に気付いて首を傾げるが、さすがに胸を少し触らせて欲しいなんてことは言えない。
女性同士、なおかつ友達同士でもセクシャル的なモラルというのは守らなければならない。
「では、探索開始だ」
ランさん先導の元、深樹海の入り口から一直線に進む。
獣道を無視をして誰も歩いた形跡がないコースを進んでいるため、雑草をかき分けての進行。
後ろを振り向いて見ると、私たちが通った跡ができていて少し楽しい。
「3時方向にキャタピルモンキーが2匹を発見」
モンスターを発見したようで、漆黒さんが言った。
さすが忍者、索敵能力が高い。私も警戒していたのに気付かなかったというのは、何かそれっぽいスキルを持っているのだろう。
遙人さんと同じ≪魔力感知≫にしては、方角と数の精度が高いので何か別のスキル?
そういえば、遙人さんのことに気を割きすぎてギルドで出現モンスターについて確認するのを忘れていた。
昨日の晩にはゲーム内でやることを順序立てていたのに、失敗だ。
おそらく、キャタピルモンキーというのは……芋虫を持った私の嫌いなサルのことだろう。
ランさんと漆黒さん、私と深樹海へと潜った回数は皆1回だけれど、持っている情報の差が著しい。
足を引っ張るのは嫌なので、できる限り戦闘に貢献しよう。
「少ないね。今回は僕とアララギがやるから、他の人には見ててもらおうか」
手始めにキャタピルモンキーを屠ってやろうと思ったけれど、ランさんが相手をするようだ。
彼女は私たちにその場で待つようなジェスチャーをして、キャタピルモンキーへと接近。
攻撃の射程に入ったようで、鎖鎌の分銅が付いている側を半径50センチ程のコンパクトな円周で回転させる。
分銅は風を裂くような音をさせ回転は加速。
「よっ」と軽い掛け声と共に発射され、キャタピルモンキーへと分銅が直撃する。
「キィ!」
キャタピルモンキーはバランスを崩し、木から落下する。
それに追撃を仕掛けるようにランさんは跳躍し、頭蓋骨を割るように左手の鎌を振りかぶる。
「一丁上がりだ」
鎌の追撃によりキャタピルモンキーは消滅した。
大ぶりな攻撃をして隙だらけになったランさんにもう1匹のキャタピルモンキーが迫るが、こちらはメイドのアララギちゃんが対処をする。
メイド服の袖口から取り出した銀色の物体――食事用にしか見えないフォークとナイフを投擲し空中で的当て。
吹き飛ばされた所に、先程同様にランさん鎌を振りかぶって攻撃を入れる。
致命傷らしく動かなくなったが、こちらは死体が残ったので≪剥ぎ取り≫スキルでアイテムが入手可能だ。
「どうだい? お嬢様たち。僕の執事としての力量もなかなかだろう?」
「はい、格好良かったです」
「私には劣るけどなかなかね」
「お褒め頂きありがとう。クルス、漆黒――惚れても良いんだよ?」
「女色の趣味はないので……それに好きな人もいますし」
「おっ。好きな人とは青春だね。それと、私――僕のことはゲーム中は男性として扱ってくれると嬉しいね」
ランさんはそう言うと、髪の毛を掻き上げるような動作をして、わざとらしく格好をつけた。
その後ろでは、アララギちゃんが黙々とナイフとフォークを突き刺して≪剥ぎ取り≫をしておりシュールさを感じで笑ってしまった。
「そういえば、鎖鎌ってすごく忍者っぽいですね」
「クルスに同意。どう? 私と一緒に忍び装束着て忍者しない?」
「マスター、忍者。クロも忍者。ランも忍者で一緒?」
「レディに誘われるのは嬉しいけど、迷彩服の忍者はちょっと勘弁かな」
適当な雑談をしながら、森の奥へと進んでいく。
道中にウドヌアフォレスが何本か生息していたようで、トイレの芳香剤の香りがした。
私の鼻では匂いでは正確な場所がわからないけれど、クロちゃんが犬耳獣人の力を発揮して匂いの強い場所を避け、攻撃をしかけられないような位置取りをして順調に進む。
途中出現した緑蟻は忍者の2人が間接の間に忍者刀を刺して綺麗に倒してくれました。
「12時方向にキャタピルモンキー複数……4匹? 近づいてきてる」
「じゃあ、次は私とサクラさんの出番ですね」
「いきます。憑依ッ――――」「融合!」
≪ Synchronize:Level.2 Spirit Active... ≫
背中に芯が入ったような感覚があり、目前に憑依をしたことを示すメッセージが表示される。
サクラさんは半透明の幽霊状態から可視化状態になり鎌を構えた。
「これがゴーストの特性……」
「おー」
感心したように私を見る漆黒さんとクロちゃん。
実は深樹海に入る前に憑依をするのを忘れており、憑依するタイミングを窺っていたので輝かしい視線を向けられると格好をつけたみたいで格好悪い気がして情けない。
「クルス、数がいるけど手助けは必要かい?」
「大丈夫です。私とサクラさんだけで問題ありません」
相対するキャタピルモンキーは先程ランさんが倒した個体よりも大きいのが3匹、通常の個体が1匹。
そのうち2匹がオスで、大きな弱点をぶら下げているので先にコチラを潰しにいく。
キャタピルモンキーが投げてきた芋虫を杖で払い、≪ステップ≫で大きい個体のオスへと接近。杖を下から突き上げるようにして金的を攻撃する。
「ギヒィ」とサルは鳴いて硬直したので、身体をズラして近くにいたメスの頭を殴打する。
残りの2匹が私へと襲いかかるが、サクラさんが横から鎌を差し込んで1匹の行動を阻む。もう1匹は、攻撃するタイミングに会わせて顔面を左手で殴りつけてやった。
異合竜製のガントレットを装備しているので、相手の飛び込み速度も相まってかなりのダメージになるはずだ。
私にも少々ダメージがあり、体力が減ったけれど――これで全員が捌けたことになる。
まずは、一番ダメージを受けているオスのキャタピルモンキーの金的をさらに殴り体力を削りきる。
次にメスを――と思った所で、私の身体が勝手に背後へと跳躍。
先程まで私がいた場所にガントレットで吹き飛ばしたキャタピルモンキーが飛び込んできて爪を振り、空振りをしたのが視界に映る。
何故、と疑問に感じた瞬間、『出過ぎた真似をしてしまいました』とサクラさんの声が脳裏に響いた。
憑依対象の姿勢を制御できるという、ゴースト特有のスキル。それが行使されたのか。
心配してくれたのは嬉しいが、私自身のテンポが崩れてしまったので複雑だ。
気を取り直して、空振りをして首を傾げる動作をしているキャタピルモンキーを杖で叩いて地面に転ばす。
それに踵落とし――異合竜製ブーツの踵にある爪の部分を金的に当たるように振り下ろし、残りのキャタピルモンキーが懐に飛び込んで来るのに合わせて杖で顔面を小突く。
吹き飛んだほうのキャタピルモンキーが木に当たり地面に落ちた所にサクラさんが急襲。
私は踵に踏まれて「キィキィ」耳障りな声を出しているキャタピルモンキーの顔面を杖で殴打した。
「これで、全員始末ですね」
「お疲れ様でした」
私たちもなかなかやるでしょう。
そう思ってランさんたちの方を見ると彼女は苦笑しており、漆黒さんは何故か顔を青くして股間を押えていた。
「格好良くエスコートしようと思った女の子が予想以上に強くて、おばさん困っちゃうわ……」
「クルス、強い。なかなかやる」
褒めてくれたクロちゃんの頭をなでなで。
ついでにお胸もペタペタして感触を味わっておく。
「ど、何処触ってるっ!」
慌ててクロちゃんは私から飛び退くと、犬耳をピンとさせて警戒したようにこっちを見る。
……何処と言われてもおっぱい――なんだけれど、何故触っているのかは私にもわからない。
「ごめんね、クロちゃん。頭を撫でる感覚で胸も撫でてた……」
「クルス、変態? えっちな人?」
「……少し、変態かも。性的な衝動は感じないからえっちではないよ」
クロちゃんの目が痛い。
自己フォローをする発言をしたのに、さらに後ろへと下がられる。
「フフ。クルスは変態か。それなら、僕の胸でも存分に触るかい? それとも、こっちかな?」
ランさんは私の手を取って、膨らみのない股ぐらに手を押しつける。
同性愛の気がない私はそちらに興味はないので、ランさんが手を離すと同時に胸のほうを触っておいた。
「く、クルス! 私の胸はどう?」
すると、漆黒さんが何故か両手を開いて胸を突き出し、アピールをしてくる。
折角なので触っておくが――――倫理規制が働いていて触れない状態になっていた。
女性同士だけれど、厳しい設定にしてあるようだ。
触れるかに見せかけて生殺しにするとは……さすが忍者、えげつない。
「しかし、クルスは容赦ない攻撃をするね。サルに恨みでもあるのかい?」
「人に言いにくい類のものが……ありますね」
中学で孤立したばかりの時に行った登山体験で、寂しく食事をしている私の側にやってきた1匹のサル。
寂しい私と一緒にご飯を食べてくれるのかな? そう思って唐揚げをあげようとしたら、弁当箱を奪っていった恨みは忘れない。
仕事で忙しいお母さんが手作りで拵えてくれたものだったのでショックだったし、周囲に噛み殺したように笑われるしで散々だった。
当然お弁当をわけてくれる様な人はいないので、給水所で水を多めに飲んで空腹を誤魔化した思い出。
「サルなんて大嫌いですよ……」




