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007:無意識の願望

「これが、魔法の力……」


 ドガン、バッゴーンと生徒たちの≪フェアリー・アロー≫が≪プロテクトウォール≫で出現した障壁にぶつかり霧散する。

 初動が急だったので吃驚したが、この程度では僕の鉄壁を破ることはできまいて。ハーッハッハ。

 どんどん生徒が使う魔法の威力が強くなり、エフェクトも派手になるがビクともしないよ。ファーッハッハハッ。


 ……面白いぐらいに攻撃を防げるので、すごくテンション上がるよこれ。


「ハルトさん、もう一度MPゲージに注目してください。徐々に黄色い部分が減っていっていますよね」

「おっ、そうですね」

「黄色い部分は使用している魔力であると同時に、耐久力です。

 魔法の使用に慣れてくれば途中で魔力を継ぎ足すこともできますが、今の段階では出来ないのでなくなるまでに解除するように注意してください」

「了解です、えーっと、解除は……」


 解除、解除と……魔法を解くように意識。

 すると、僕の左腕から展開していた障壁は見事に綺麗サッパリ消えてなくなり――――

 無数の矢尻が僕に突き刺さる。


「ッッゥ!」

 

 くっ、顔面きた。クリティカルきた。HPゲージがぐんぐん減ってる。

 完全に解除するタイミングを誤った、くっ……


「中止! 攻撃止めです」


 先生の声で攻撃を中止すると、生徒達は何事もなかったように弁当を食べる作業に戻った。

 なにこの狂気を感じる仕様……僕は疲労感にいさなまれて膝を付いた。


「ハルト様……何をやっているんですか」

「訓練でなければHPがゼロになってますよ。迂闊な動きが死に繋がりますから注意してくださいね」


 あきれた声を出す女性二人。

 生徒が使った≪フェアリー・アロー≫は本来なら弓で放つ『矢』の魔法であり、それを武器なし無詠唱で放っていたため僕は致命傷を免れたらしい。速度による補正がないので威力が大幅に減退するそうですよ……


「では、HPを回復させて訓練再開といきましょう」


 べちょり。

 顔面にナニカが投擲され、HPが残り数ミリの状態から最大限まで回復する。

 口の中にはバニラヨーグルトの味……あれか、勇者さんが使ってたのと一緒の回復スライムか。前回と違って口径摂取はしてないけど、どうやら対象に浴びせれば回復するタイプらしい。

 顔面や服に付いたネバネバがどんどん身体に吸収されていくのは気持ち悪いな。感覚的には気持ちよいんだけど。


 HPを全快にし、何事もなかったかのように魔法の講習は続く。

 知識面で覚えたことは、下記のような感じだ。


・無詠唱で魔法を発動させるには熟練が必要。レベルと魔力のパラメータが絡んでくる

・魔法名だけを唱えて発動させる場合、威力が90%、消費魔力300~1200%(詠唱の長さにより変動)

・魔法のカスタマイズができる。大幅に変更する場合はオリジナルの詠唱(2~12節)の設定が必要

・他人の詠唱を聴いて暗記しても魔法は使えるようにならない、人物か書物による伝授が必要

・レベル差がある場合、認識阻害されて詠唱の文言は聞こえない


 この世界では”魔力で肉体を強化しての戦闘”が基本のため、MPはスキルと共通で利用する。

 魔法を使って一気に殲滅できるような状況でも、シッカリ余剰MPを考えた行動をしなくては。それだけじゃなく、魔法はシステム補正による人体へのアシストがないので放つ際の手の向きとか、身体の動きも重要だ。


 先程の≪プロテクトウォール≫を例にする。

 発動基点となる左手を自分の体や物に接触するような形で唱えると詠唱失敗と見なされて『効果は発動しないのに魔力を消費した』という現象が起きてしまう。

 スキルの場合、多少無理がある体勢でも強制的に持ち直すのだが、それがない。


 ただ、この仕様は使いにくい面ばかりではない。

 魔法を使いながら立体的な動きができるので、”魔法使いは後方支援”という既存枠からは脱却してかなり自由度が高い戦闘を行うことができる。≪プロテクトウォール≫を展開したまま体当たりとか。

 後々に覚えられる強力な呪文の場合は肉体能力に制限がかかるけど、筋力や骨格を強化していれば減退も弱まるという話なので本当に夢が広がるな。


 技能的には、先生と質疑応答しながら予定している戦闘スタイルに似合う魔法を三個ほど伝授して貰った。

 図々しくも「オマケでもう一個」と言ってみたけど「お値段は5,000G~です」と笑顔で返答されました。ですよねー。

 基本的な魔法は王都内の魔法屋さんで買うことができるので、必要になった時に買うようにします。


「質問はもうないですか? では、これで私の初心者向け魔法講習はおしまいです」

「先生、ありがとうございました」

「ハルト様がご迷惑おかけしました」

「はい。二人がもう少し……もっと、だいぶん仲良くなったら合体魔法とか教えちゃいますので。

 そのときはまた来て下さいね」

「いいですとも!」


「……私がハルト様と仲良くなる日は来るのでしょうか」


 ≪ クエスト:『魔法を覚えよう』が完了しました。

   クリアボーナス:300EXP           ≫


 最後に悲しいことを言われたが、大事なのはお互いの歩み寄りなんだよ。

 僕はこう、頑張って仲良くしようとしているんだけどさ……


 廊下を移動しながら「私を気に入らない場合、解任することができます。王城はメイド育成学校の側面も兼ねているので――――」と、従者をチェンジする方法をレクチャーされているんですが……

 変更する気ありませんから! 意地でも好感度上げてみせますからッ。


 どうやって好感度を下げずに話を中断しようかと考えていると、亮平から電話があった。グッドタイミングだ。

 自然な流れで「ちょっと電話」と断わりをいれ、応答をする。


「よくやった、褒美をやろう」

『すまん、意味がわからん」

「気にしないでくれ。で、時間決まった?」

『おう。16:15から商業区、『旋律の青』って宿屋に集合してくれ』

「鯖チャンは?」

『フレンド同士は同期する仕様だからな。気にしなくて大丈夫だ、問題ない』

「すごいな、さすが国家公認……」

『だな。喋った内容をメールでも送ってるので、妹さんにも転送してやってくれ。倉橋さんには送信済」

「了解。で、商業区とか宿屋の場所とか分からないんだけど」

『メイドさんに聞けば大丈夫。何でも教えてくれるぞ。あぁ、メーラ(俺のメイド)は可愛いなぁ。でゅふひひ』


「……おい、変な声出てるから、気持ち悪いから」

『うへへ。キャラメイクに全力を注いだらメイドさんが自分好みになりすぎてな。

 正直、オマエの妹に格好良い所を見せようと思ってたのが既にどうでもよくなってきた』

「おい」

『フッ……だけどハルトも可愛いメイドさん雇ったんだろ? 気持ちは分かるハズだ』

「ごめん、全くわかんない」

『なんと。もしやメイドさんへの幻想を断ち切って執事を雇ったとでも言うのか……』

「いんや、雇ったメイドさんの性格が厳しすぎて罵られたりしてる」

『変態野郎だな』

「ちょい、なんでそうなるんだよ!」

『そりゃぁ、キャラメイクには自己願望がでるからだよ。

 開発者インタビューに”従者は自分の側面である”って記事があってそんなようなコトが書いてあったぜ』

「くっ。確かに……アンケート書いた結果がこれだが……」

『まぁ、罵られる様子を拝むのを楽しみにしてるぜ。じゃーな』


 ガチャン、ツーツーツ-。

 自分を擁護しようと思ったが、そんな間もなく通話が切れる。


 妹に似た外見を持つ人物に罵られて喜ぶ……そんな咎を背負わなくてはならないような性癖は自分に存在せんぞ。かと言って昔に流行したツンデレみたいなのは苦手だし、何が反映されてこうなったの良くわからん。

 まぁ、別に今の性格も嫌いじゃないので不都合はないし、原因は気にすることでもないか。


「ヒメノさん、武器屋へ行く前に、商業区の『旋律の青』って宿屋に案内して欲しいんだけど」

「活動拠点を『旋律の青』にするのですか?」

「そこで友人と待ち合わせるから場所を確認したくてね。拠点については別途説明をお願い」

「承知しました。では『旋律の青』の場所を確認後、武器屋へ行きましょう。拠点はハルト様と私が寝泊まりする場所です」

「一緒の部屋に寝たりする?」

「……ご冗談を。詳しくは、この冊子を参照にしてください」


 ≪ アイテム:『魔王公認宿屋リスト』を入手した。

   HME ⇒ 電子書籍 ⇒ MBOのカテゴリに収録されました。

   以降、『書籍カテゴリ』のアイテムを入手した場合にも同様の処理となります。 ≫

※好感度が高ければ一緒の部屋に泊まることができます。

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