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006:反省会と新たなる力

 倒れた僕に軍曹が手を差し出し、それを握って立ち上がる。


「少年、それだけ動ければ十分合格だ。負けてしまったがな」

「女性の顔面を平然と殴りにくるなんて最低です」


「……で、俺目線で駄目だった部分を伝えようと思うが……聞いていくか?」

「はい、よろしくお願いします」


 次回で三度目の正直(勝利)を体験するために、アドバイスに耳を傾ける。


「まずは、悪かった点。

 これは、序盤で気持ちが逸って≪ディバイン・ディザスター≫で決着をつけようとしたこと。嬢ちゃんの”やられた振り”が巧かったのもあるが、ここは≪ウィンドエッジ≫で追撃するのが正解だったな」

「≪ステップ≫から≪スラシュエッジ≫の連携には焦りました。あのタイミングで追撃技が成功していたら、それだけで決着までHPが削られていたかもしれません」

「確実にダウンしたと思ったからなぁ」


「次に……≪ウィンドエッジ≫から押せたタイミングで躊躇(ちゅうちょ)した所だな。あれでテンポが遅れたのは頂けない」

「そうですね、なんで躊躇(ためら)ったんですか?」

「ヒメノさんのスカートが舞い上がったからさ」


「……御覧になった感想は?」

「パンツじゃなくてドロワーズじゃないか、くっ。だがこれも良し。と思いました」


 軍曹は回答を聞いて笑い、大きな腕で僕の頭をぐしゃぐしゃにした。

 ヒメノさんは、ゴミを見る表情をして僕から三歩遠ざかった。

 嘘を言うよりは……と素直に話してみたんだけど、適当に誤魔化しておくべきだったと後悔した。好感度がまた下がって……


「しかし、単独戦闘が苦手なハズのヒメノさんにこうも簡単にやられるとは……」

「戦闘前に軍曹から強化魔法を掛けて貰いましたから。肉体性能的には拮抗していたので落ち込まないでください」

「そうだな。スキルの選択や立ち回りは良い感じだったし、嬢ちゃんがズボン穿いた格好なら勝っただろうな」

「……悔しいですね」

「その気持ちをバネに精進だぜ。新しい武器の練習や、単純に模擬戦をやりたくなったらここに来い。

 俺や、戦いたがりの兵士が相手をするからよ」


 頭を下げて、軍曹と別れる。

 次は、お目当ての鞭を買うために街へ出て武器屋だな!


「ヒメノさん、武器屋に案内して欲しいんだけど!」

「……その前に、先程の戦闘でレベルが上がりませんでしたか? そちらの説明は大丈夫でしょうか」

「えーっと、歩きながらでお願いします」

「あとは、魔法についても訓練を受けておいた方が良いと思うのですが」

「えーっと、歩きながら「無理です」」


 くっ、長いなチュートリアル。

 現在時刻は『14:12』か。亮平が連絡欲しいって言ってのが15時……あ。

 芳野にPvPのことを伝えるのを忘れていた、とりあえず電話して話してみるか。


「ヒメノさん、少し待ってて」


 廊下の片隅に移動して、HMEのフレンドリストから芳野をコール…………お、繋がった。


『お疲れー。もう合流する流れになった?』

「いや、まだチュートリアル中」

『そっか。私はちょうど魔法の訓練が終わったところなのさ~。『勇者に導かれる異界人』コンプリート』

「くっ、やっぱり僕は出遅れてるな。で、今回電話したのは亮平からPvPに誘われたからなんだけど――――」


 状況を説明すると、「良いよー」と快諾してくれた。

 芳野は渋ると思っていたんだけど、全くの杞憂だったな……


『戦闘訓練で熊さんを屠った実力の私です。叉木くんなんて路傍の石も当然、蹴散らしてやるゼ』

「え? どんな訓練したんだよ!」

『フッ……見せてやる、私の≪ディバイン・オーバーブレイク≫を!』

「なん、だと……それは――――」


 どんな技かと聞こうとしたら、通話ウインドウを閉じられた。

 くそ、「見てからのお楽しみ」ってヤツですか。『ディバイン』の冠を持つエクストラスキルを学習しているとは……芳野、やはり天才か。

 次は、亮平に「PvPオッケェィ」とメールを打って……送信完了。


「ヒメノさん、お待たせ」

「待ちました。では、買い物は後回しにして、魔法訓練の訓練をするために移動しましょう」


 で、移動する最中にレベルアップの説明を受ける。

 まずは実際に画面を開いてみようということで、確認すると以下ような感じになっていた。


 ――――――――――――――――――――――――――――

 >ステータス<

 Level.2

 HP:110/110

 MP:105/105


 筋力:12+(2)=14

 骨格:13+(2)=15

 俊敏:15+(3)=18

 魔力:20+(4)=24


 残りポイント:1

 プレイヤースキル:11

 ――――――――――――――――――――――――――――


 ……非常に簡素だ。

 これなら、尖ったステータス構成にしなくても均等になるように振り分けで良い気がする。


「まず、ステータスの左側の数字。

 こちらは、この世界で鍛えても成長しない”以前にいた世界で鍛えた肉体の強さ”になります。

 今現在、魔力で肉体強化をしていない状態ですね」

「ってことは、()内の数字が魔力で肉体にかかる補正ってことか」

「そうですね。この数値は、レベルアップする迄にハルト様がどのように行動したかで変動します」

「やっぱり、努力したほうがその数値は多くなったりするの?」

「いえ、固定数値からの振り分けになります。

 何もせずにレベルアップするということがあれば均等割になりますね」

「なるほどね」

「残りポイントは、各種ステータスに振り分けが可能です。HPMPに振り分ける場合は1ポイントにつき『5』上昇するので、覚えておいて下さい」

「了解。あとは……プレイヤースキルってのはそのままの意味?」

「はい。戦闘技術の指標となります。

 一概には言えませんが、差し引きして上回った数字のぶんならレベル差を凌駕できると思って頂ければ」

「僕の11って数字は……」

「平均が10程度なので、普通ですね」


 二連敗の男にしては悪くない数字だろう。

 おそらく、勝敗判定じゃなく”善戦した”というのが大切なんだろうと思う。


 しかし、魔力で肉体強化をしていない状態だと現実の身体スペックという仕組みは上手いと思う。

 仮想世界で強くなりすぎて、現実とのギャップに……なんてことにならないもんな。しかも、現実で鍛えると能力値が底上げされる仕組み。

 ゲーム廃人が能力上昇のために筋トレする、なんてことがあるかもしれない。

 少なくとも、僕は日々の筋トレ量を少し増やして、ジョギングの距離も少し伸ばそうと思いましたから……不覚にも。


 そう考えると兄貴は食生活適当だし、部屋に筋トレ器具を運んだ話も聞かないしどうなんだろう?


 ・

 ・

 ・


「到着しました」


 案内されたのは、どこぞの学校の教室といった感じの部屋の前。

 通路に木版があり、そこに掲示物だったり学内成績ランキングだったりが貼り付けてある。


 ≪ クエスト:『魔法を覚えよう』が発生しました。 ≫


 お。クエスト開始メッセ―ジが表示された。

 ヒメノさんは扉を少し開けて中の様子を覗き――――コン、コンとノックをする。

 手順が完全に逆な気がするんだけど。


「先生、異世界人をお連れしました」

「はい、どうぞー」


 教室の中には、子供達がいる。

 年齢的には小学校四年生~高校一年生ぐらいだろうか。ファンタジックな外見の美女美男で、いかにも貴族って感じの装いの子らが会話をしながら弁当を食べている。

 僕のことはチラ見しただけで、別に興味がないようだ。

 耳を傾けると、勇者さんがボス狼を倒したことが話題になっていた。


「守護獣殺しとかクールだぜ」

「無傷で戻ってきたそうですよ、バケモノですわ」

「変態」

「もう少し色々と正常なら格好良いと素直に思えるのですが」

「以前にドラゴンも殺してるし、戦闘能力は申し分ないのにね」

「ご……勇者様は格好良いですよ! みんな見る目がないですね!」

「えー」

「格好良くはないですね」

「変態」

「理解不能」


 ……総合的に残酷な評価が下されている。

 しかし、先生ってのはどの人だろう。子供しかいないぞ?


「先生、食事中申し訳ありませんが……」

「はいはい、異世界人の方でしたね。昼休みが終わる前に魔法について教えちゃいます」


 立ち上がったのは、中学生くらいの女の子だった。

 肩で切りそろえた金髪に花柄のヘアピンを付けており可愛らしい。他の子供が豪華な服装をしているのに比べると、この先生は控えめな感じの黒いローブを着ているので多少は落ち着いて見える。

 顔は可愛らしいので成長すれば美人になるとは思うんだけど……どっからどうみても子供だよなぁ。


「えっと、失礼ですが年齢は?」

「13歳です。私には心に決めた人がいますから口説こうたって無駄ですよ!」


 ふふん、と胸を張って言う先生。いや、年下は好きだけど幼子には興味ないんで……

 僕の隣にいるヒメノさんが「会って数秒で女性に年齢を聞くなんて最低です」とまた好感度を下げていのがなんとも悲しい。

 従者を決めるアンケートに『優しい』と書いた記憶があるんだけど、『厳しい』と書き間違いでもしたのだろうか?


「じゃぁ、手始めに防御の魔法を教えましょうか。えーっと、お名前は」

「宍戸……じゃなかった。ハルト・レオンです」

「はい。ではハルトさん、教壇の上に登って下さい。ヒメちゃんは教卓を窓側へよせて下さい」


 言われるままに教壇に登ると、先生は食事を中断し教室の後ろ側に移動する。


「では、手始めに防御魔法を覚えて貰います。左腕を前に突き出し、私に続いて詠唱してください」


『根源たる魔力の渦よ、我が前に堅牢なる壁を築け――――、プロテクトウォール』

『根源たる魔力の渦よ、我が前に堅牢なる壁を築けッッッ! プロテクト・ウォォォル! おおおおおッ!』


 僕の左腕から魔力の渦が生まれ、半円のバリアになって展開した。

 スキルに比べて非常に派手なエフェクトだ。

 初めて覚えた魔法なのに、すごく強い気がする。こう、何でも防げそうな。


 ≪ 魔法:≪プロテクト・ウォール≫を取得しました。 ≫


「これが、プロテクトウォール。前面からの攻撃を防ぐことができる魔法です。

 そのまま状態を維持して聞いて下さい。

 まずは左上のMPゲージに注目。黒くなって減った部分と、黄色くなっている部分がありますね?」

「はい。あります」

「黒くなった部分は魔法を使ったことによって減った魔力。黄色は魔法を解除することによって体内に還元することができる魔力です。≪プロテクト・ウォール≫を展開している最中は微量ですがMPが減っていきます。

 では、どれだけ防御力があるのか試してみましょう」

「先生、ここ教室内なんですけど―――――」


「皆さん。ハルトさんにフェアリー・アローを徐々に威力を上げながら放ってください」



 ―――――2046年、教室は魔力の炎に包まれた。

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