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052:素材はシルクに限る

 巨乳エルフさんのいるほうにゆっくり走って向かいながら、動きを注視する。

 彼女が持っているのはレイピア一本、近接で魔法を使いながら戦っている。魔法剣士という感じだな。

 身体とレイピアに風が渦巻いているので、色々と見応えがある。


「ドロワーズじゃなかければもっと良かったんだけど」


 格好良いけど、継続戦闘能力低そうだと思う。

 僕やベンは、スキルの発動なしで屠った相手だからね……


 巨乳さんがレイピアで突く。

 延長線上に風の刃が三本出現して盗賊を穿とうとするが、盗賊は≪ステップ≫を使用してこれを躱す。

 何度も同じ攻撃をしているので、間合いがバレてしまっているようだ。

 こうなっては魔法のメリットを生かせない。

 相手は槍で、同じ刺突武器……武器相性が悪いので、ただMPを消費して相手と同じ射程を得ているだけという状況。放っておけば、劣勢になって敗北するのは間違いない。

 今回は、鞭使いとして今回はサポートさせて頂きますか。


「加勢するよ」

「頼みます!」


 エルフさんが迂闊な動きをして攻撃が誤爆する可能性があるので、シッカリと声だし。

 来栖さんのように異常な立ち回りと対術がある人間だと色々と察してくれて楽なんだけど、エルフさんは一般人枠なので意思の疎通を。


「僕が抑えたら攻撃して!」


 走りながら右手に碧腕緑桜を持ち直し、盗賊の槍へと向かって横振りで放つ。

 ――――指で、掴む。イメージ。


 僕の思考とシンクロし、碧腕緑桜の先端にある指を模した部分が盗賊の槍をガッチリと掴む。

 成功。僕はニヤリ。盗賊は驚愕の表情を浮かべる。


「くそ! 離せッ!」


 馬鹿なことを言ってないで、そっちが離せば良いのに。

 まあ。離さないならコッチから離して貰うだけなんだけどね。


 左手で薄紅桜蛇を抜き、そのまま≪ロングウィップ≫で槍の持ち手を叩いてやる。

 同時に、


「ニードルペネレイトッ!」


 エルフさんのレイピアスキルが盗賊の胴体を狙いに行く。

 盗賊は、慌てて武器を捨てようとするが、その前に僕の≪ロングウィップ≫はヒットしてダメージを与える。

 レイピアの攻撃は辛うじて躱して、ゴロゴロと地面を這って受け身を取った。


「テメェら!」

「これであなたの武器は封じました!」


 そのセリフはフラグだから。 

 盗賊は腰からナイフを抜き、≪ウィンドエッジ≫を発動させる。

 僕も軍曹に教わった、風の刃を出現させて遠距離攻撃をするスキル。


「きゃぁ」


 不意の攻撃を回避出来ず。

 エルフさんはレイピアを盾にしたようだが、所詮は細剣。ろくな防御にならず尻餅を付いた。


「へへ、嬢ちゃん。覚悟しな」


 続けて盗賊が≪ウインドエッジ≫を発動させようとするが、そうは問屋が卸さない。

 僕は碧腕緑桜で掴んでいた槍で盗賊の頭を殴ってやる。


「うぼぁ!」


 体勢を崩し、スキルの発動はキャンセルされた。


「人数の差を理解しないとね」

「はああああああああああああああああ!」


 そこにエルフさんが飛び込んで、盗賊の腹にレイピアを押し込む。

 格好良いが、悪手である。

 人数の差を理解してないのは味方もか。ヒットアンドアウェイをしてくれれば良いのに……

 盗賊は苦し紛れに短剣で抱きかかえるようにエルフさんの背中を突き刺す。


「んうッ……負けま、せん!」


 エルフさんがダメージにもめげず「はあああああ」と声を出し、己を奮い立てる。

 なんだかさっきから微妙に忘れられている気がする僕は、盗賊の背後まで歩いて移動して鞭で背中をパシンパシンと二回程叩いてやった。


「う、ああっ……覚えて、やがれ……」


 捨て台詞を言うと、盗賊の身体からはぐったりと力が抜けてエルフさんへと倒れかかった。

 念のためにもう一発叩いてみたが、いつもの『攻撃を控えて下さい』のメッセージが表示されたので完全に死んでいると判断して問題なさそうだ。

 元々エルフさんと戦っていて累計ダメージがあったため、かなりアッサリ。


「はぁ、はぁ……強力感謝します。変た……鞭の人」

「……うん。回復スライム使って体勢整えて。

 キミのご主人様のほうは――――もう、終わりそうな感じだし」


 フォローに入ろうと中坊Aのほうに目をやると、刀で心臓をひと突きする瞬間だった。

 地面に矢で抉れた跡が何カ所かあるので、タティが援護射撃をしてあげたのだろう。


 ベン達のほうも、完全に制圧できてるな。盗賊の死体が伸びている。


『フフフ。さすがはやるな異世界人共よ』

「誰だ!」

「どこに居るッ! 姿を現せッ!」


 脳内に声が響き、黒い結界が蠢く。

 結界から影で出来た触手のようなモノが生え、盗賊の死体を吸収して威圧感が強くなる。


「シッカリしてください! 御者さん!」


 タティが倒れた御者さんの身体を揺すり、ユニコーンが心配そうにそれを見ている。

 そういえば、御者さんは結界を抑えるとかなんとか言ってたな。失敗した反動か?


 中学生やメイドたちが結界の主が出てこないことを卑怯者呼ばわりして罵っている最中、僕は呪文を唱える。

 おそらく、ボス戦的なものが始まるから補助をかけておいたほうが良い。

 死亡した身体能力低下のペナルティで、僕の能力は各種ステータスが一割減、HPとMPが三割減となっているので下手に立ち回ると簡単に死んでしまう。


『根源たる魔力の渦よ、我が前に堅牢なる壁を築け。プロテクト・ウォール』


 安定のプロテクトさんである。

 僕が唱える度に割られているような気がしないでもないが、序盤の行動傾向を見るのには丁度良い。

 それに、コイツは先程の馬車で移動する最中にカスタマイズしてある、改版だ。

 二時間も変態トークをしていただけではない。盾愛好家のベンにアドバイスを受け、魔法を改造する作業も並行して行っていたのだ。


 従来なら腕を基点にし、身体の半分ほどを覆う大きさの魔力の渦で身を守る≪プロテクト・ウォール≫。改版の場合は頭を基点にし、傘のよう頭上から背中を覆うような特殊仕様となっている。

 腕と連動しないので多方面からの攻撃には弱いが、そのぶん一定方向からの攻撃に強い。

 これで、盗賊を吸収したような触手が背中に伸びてきても防げる、ハズ。

 消費MPは若干上昇したが、そんぶん範囲を少し狭めて通常とトントンの所までもってきている。デスペナルティが解除されたら範囲を通常まで戻して運用するつもりだ。


「おっ」


 敵が攻撃を仕掛けてきた。

 結界の天井から触手が伸び、僕らに遅いかかる。


「黒い壁を狙うぞ!」

「盾は前に出て壁になれ! 変態! オマエは俺らに続け! いくぞッ!」

「はい! ご主人様」「了解です」「ッチ」「鞭って呼んでくれ……」


「タティ、御者を回復させろ。戦力になるハズだ」

「パパッ……わかった!」


 不満そうなベンだが、彼らの方針に従うことにしたようだ。

 指示がなかったタティに関してはベンが別途行動を支持する。


 僕としては結界が360度を囲っている以上、ベンに殿をやってもらった方が良いと思うんだが……

 反論して喧嘩になるのはアレだし。僕が後ろを守ることにする。

 走りながら肩のショルダーシールドを外し、左手に。


「シールドセット。鞭は緑桜ちゃんで」


 背後に視線をやりながら、中学生たちに追従する。

 殿にターゲットを集中する仕様があるらしく、背面からの触手は僕に襲いかかる。

 おためしで、≪プロテクトウォール≫に当ててみたい気もするが、そこまで触手の攻撃速度がないので≪ステップ≫を利用して避ける。横に踏み、前に加速し、当たらなければどうと言うことはないを演出する。


「う、お。きつ」


 鞭スキル以外は一般人なので、やはりこういう役回りは厳しいな。

 ≪ステップ≫でモンスターに張り付いてひたすら鞭を打ち込む作業とかだったら余裕なんだけど……


 触手が、どんどん振ってくる。

 鞭で迎撃してやろうと叩いても、若干鈍る気がする程度で当たり負けするし。

 攻撃が終わった触手はスッと消えるので、掴むこともできない。魔法の類か?


 妹や竜碼さん、あと来栖さんなんかだったら自分の動きに緩急を付けたりしてスイスイ躱すんだろうが……


「ぐっ」


 触手が≪プロテクトウォール≫に防がれる。

 やろうと思って出来ることじゃないな。回避の動作をしたあとに体勢が崩れ、そっからのリカバリが難しい。

 リアルトレーニングで反復横跳びとかしてみるかね……


 ベンたちのほうは……


「盾、早くしろ」

「走れ! っ、役立たずが」

「ご主人様、私たちが前にでます。レイア、いくよ!」

「ええ。いきましょう!」


 メイドさんがターゲットを引き付ける方針になったようだ。

 方針というか、自己犠牲的な思考を持ったメイドさんによる肉壁的な。

 ……メイドさんの肉壁という単語の響きが無性にエロイな。しかも、敵が触手だという。


「くっ」


 兄貴が貸してくれたようなエロイゲームなら間違いなく駄目なフラグが立ってるなあと思いながら、頭を戦いのコトに集中させる。


 盾役のベンは、攻撃をその身で受けるので進行速度が低下するのは当然だ。

 やっぱり、中坊軍団に何を言われようが殿をやってもらうべきだった。

 僕以上に本人がそれを理解しているだろうし、盾に矜持があるベンとしては悔しくもあるだろう。

 なんせ、HPがまったく減っておらず盾としては完璧に機能していたのだから。


「ハルト、バトンタッチだ」

「了解。本領発揮よろしく!」


 ベンに後ろを任せ、僕は中衛へと移行する。

 いっきに触手の攻撃が減って、余裕ができたが――――


「ぐおっ」


 前を走るメイドさん二人の尻を見ていたら、触手に横なぎされて転倒してしまった。

 咄嗟に≪受け身≫を発動したのでリカバリは出来たが、内心ちょっと恥ずかしい。余裕を出し過ぎました……


 そんなことをしているうちに、メイドさん二人と中坊’sが結界の縁へと辿り着く。


「ニードルペネレイトッ!」

「スターダイヴッ!」

「死ね! 焔斬りッ!」

「散れ! 岸壁卸し!」


 全員で一斉にスキルを使う。

 流れとしては非常に格好良いんだけど、触手に注意しないと……


 足下から生えた触手に横なぎされ、攻撃していた全員が転ぶ。


「水色のストライプ、だと……」


 褐色猫耳メイドさんのパンツがお披露目された。

 くっ。褐色には完全なる純白を併せて欲しかった。僕なら素材はシルクに――――


『ハハハ、滑稽だな異世界人』


 闇結界の中の人の声が頭に響く。

 僕は、色々な意味で激しく同意した。

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