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051:紳士は子供を導く存在

「ハルト、何突っ立ってるんだ?」

「ん? ああ。ごめん、ボケっとしてた」


 ベンが馬車の中から声をかけてきて我に返った。

 いつの間にか周囲には誰もいなくなり、乗り込んでいないのは僕だけだ。

 慌てて、御者さんに割り符を渡して馬車へと入る。


 中学生二人が、遅せぇよって感じの嫌な目付きで睨んでくるので「すいません」と角が立たないように謝罪してからベンの隣に座る。

 僕が座ったと思ったら、カタカタと馬車が動き出した。

 牽引しているユニコーンの加速力は高いので、直ぐに速度が安定して快適になった。


「うっは。すげー早いな」

「時速40キロぐらい速度でてるんじゃね?」

「ご主人様、はやーい」

「かなりの速度が出ているのは間違いありませんね」


 累計三回目の乗車になる僕は特に感想はない……

 あるとすれば、この中学生たちとは話が合わないので道中が苦痛になるという予感。


「山賊とかでねぇかな?」

「ご主人様の刀にかかれば一撃ですね!」

「間違いないな。俺の格好良い所、見せてやるからな」

「はい! ご主人様♪」


「全裸盾に鞭が足手纏いだから俺らが頑張らないとな!」

「主殿がいれば不足な戦力もカバーできるでしょう。私も力になりますから」

「ああ。ありがとう」


 チラリ。と隣に座っているベンを見ると笑顔だけど目が笑ってない。

 顔の筋肉もピクピクして我慢している。トラブルだけは勘弁なので、大人の対応をお願いしたい。

 ……ちなみに、笑ったときのように乳首は連動してピクったりしていない。不思議だ。


「ベン、フレンド登録しよう。会話的に、ね……」

「そうだな。そうするか」


 フレンド登録にして、会話を『フレンド・従者限定』に設定する。


「まったく。聞こえてるのに嫌味を言うとはたいした奴らだ」

「まあ、会話を聞く限り子供だから仕方がないって。僕らのような紳士は生暖かく見守らないと」

「パパは大人だもんね! 私もみまもるよ」

「タティは良い娘だなあ。パパは嬉しいぞ」


 ベンは猫耳ロリの頭を撫で、相好を崩す。


「あの子供が言うように、山賊でも出現すれば盾の本領を魅せてやるんだが」

「そうだね。僕の鞭のお披露目も出来て丁度良いんだけど……」


 ガタン。馬車が揺れる。モンスターを轢き殺したのだろう。

 御覧の通り、ユニコーンが強いので早々にモンスターに囲まれて戦闘になるということはない。

 馬車には謎バリアも搭載されているし、この御者さんもプレイヤーより強い……つまり、隙はない。


「あいつら俺らと話すつもりねーのかよ」

「道のりは長いのにすぐにフレ通話とか、ないわー」


 話す土壌を崩した存在がそれを言うか?

 温厚な紳士でも流石にイライラが募ってくる。

 メイドさんの外見を分析して性癖を暴露する準備でも整えてやろうか。


 ……いや、コレをやるとベンが自己嫌悪で潰れる可能性があるな。

 実の娘というのは、かなりの修羅道なジャンルだ。

 変態紳士スレに姉や妹を渇望する人間は大勢いるが、娘好きは全くと言っていいほど存在しない。

 ・最速誕生としても、年齢が18歳以上離れていること。

 ・嫁がお腹を痛めて産んでくれた存在であること。

 このポイントがあるために忌避され、己の性癖をカミングアウトできる強者が少ないからだ。

 あ。再婚して娘が……というシチュエーションのほうか? それならまだセーフだな、うん。


「ハルト。無視で良いよな?」

「いや、会話しとこう。無視するとコッチが悪いみたいだし、癪だから」


 会話設定を元に戻し、中坊二人の会話に混ざる。


「僕らと話したければ初めから言ってくれれば良かったのに」

「挨拶もせずに俺らをシカトした癖にうぜぇ」


 まあ、それは……僕が悪くもあるな。

 彼らをスルーしてベンと話してたのは事実ではあるし。


「ご主人様は、あなたが鞭という弱装備をしているのを気に掛けてらっしゃったんですよ?」

「弱装備、だと……そこの巨乳エルフ胸揉むぞ、オラァ!」


「いきなり何言ってんだよ」

「うぜぇというか、キモいな。頭オカシイんじゃね?」


 我慢しようと思ったけど心の声が出てしまった。

 頼むから鞭を会話に引っ張りだすのはやめてくれ。鞭を蔑まれるだけでものすごいストレスが溜まる……


「ハルト……」


 ベンまで僕に哀れみの視線を――いや。これは違う。

 彼のパパっ娘メイド。タティは貧乳ロリだ。

 この視線が意味する理由は、さっきの「巨乳揉む」発言……

 つまり、僕を巨乳信仰と理解したからこその相容れぬ決裂だったんだよ。誤解はしっかり解かないとな。


「いや、僕は巨乳派だけど貧乳も悪くないと思ってるよ」

「…………」

「おい」

「真性かよ……」


 場の空気が一気に冷えたのがわかった。でも原因がわからない。

 この場から逃げたいんですけど駄目ですか?


「俺らが悪かった。俺らは俺らで話してるから、そっちはそっちでやってくれ」


 少年がそう言うと、直ぐに二人とそのメイドの頭上にフレンド会話中の吹き出しが表示された。

 僕がチラリとベンの方を向くと、彼は無言で頷いてフレンド通話の申請を僕に出してきたので承認する。


「ハルト、なぁ……いくらなんでもアレはないぞ」

「いや。ベンが貧乳ロリの方が良いって目で僕を見るのが悪いんだよ」

「見てね―よ。オレがいつそんな目をした!」


 ・

 ・

 ・


 ベンと変態トークに花を咲かせていたらあっという間に二時間が過ぎた。

 今、彼はパパっ娘のタティを膝上に座らせてナデナデしている。


 微笑ましい光景に見えるけど、ヤツが膝上の尻の感触と胸に寄りかかる肌の温もりを感じて内心ヒャッホゥしているのを知ってしまった僕としては複雑な心境で見守るしかない。


 タティ・シルドーラという少女の設定は、父親を父として以上に慕う少女。

 ベンは、タティを娘以上に愛しているが、娘からの気持ちに気付いていない親父という設定。

 ……母親は寝取られて云々などの凝った設定が決められていて、かなりレベルが高かった。

 この話を聞かされた時に、うちのサクラさんは最高にまともやで。と思ったものだ。変な設定ないし。


 ガタン! 

 馬車が激しく振動して、急停車する。

 何があったのかと思ったら、御者さんが「罠にかかりました、敵襲です!」と叫んだ。


「俺の出番だな!」

「いや、俺たちのだろ。いくぜ!」

「応!」

「お供します、ご主人様!」

「盾と変態は下がってな。火傷するぜ?」


 中坊軍団がテンションを上げ、馬車の外へと飛び出していく。

 僕とベンは苦笑してそれに続く。


 馬車から外に出ると、周囲に結界のようなものが貼られて閉じ込められていた。


 ≪ クエスト:『盗賊襲来』が発生しました。 ≫


 空や背景は見えず、黒いドームのような感じになっている。

 光源があり視界は制限されていないのがありがたいな。若干、薄暗くはあるが。


「私は、この結界を破るのに集中します。

 皆さんは、申し訳ないですが賊の相手をお願いします!」


 御者さんが何か呪文を唱え始める同時に、結界の外から粗野な格好をした盗賊が二人入ってくる。


「きたこれきたこれ!」

「いくぜえええええええええ」


 中坊A、中坊Bは同時に抜刀し、左右に割れると盗賊に斬りかかる。

 カァン。金属同士がぶつかり合う音がして、その攻撃はそれぞれメイスに防がれた。


「やるじゃねぇか、雑魚のくせに! 焔斬りッ! ハァァァ!」

「喰らえ、柳二段ッ!!」


 バックステップをして、それぞれ技を放ち盗賊の体勢を崩す。

 なんというか、タイミングが同じで仲良しだ。


 そこに、二人のメイドが追い打ちを掛ける。

 レイピアと槍での、スキルを使わない純粋な突きによる攻撃。


「ハァ!」

「タァァ!」


 踏み込みが浅い。

 盗賊が体勢を剃らせたのでたいしたダメージにはなっていないな。


「ハルト、傍観か?」

「火傷するぜ? とか言われたし。

 もう少しピンチになったら颯爽と登場して鞭の格好良さをアピールする」


 お、第二陣が入って来た。今度は、片手剣に盾を持った男が二人と、槍が二人。


「スイッチ!」


 中坊A叫ぶと、四人は現在相手をしている盗賊を無視し前に突出する。

 背中がガラ空きだぞ? 悪手だろう。スイッチってのは僕らに任せたって意味の単語か?


 ベンがタティに目配せをすると、タティが盗賊に弓を放つ。


「フェアリー・アローッ! パパっ」

「任しとけ。ハルト、いくぞ」

「了解」


 タティの攻撃を当てられた盗賊は怒りの表情で走ってくる。

 僕は右に、ベンは左に分れて迎撃開始だ。


「見せてやる、鞭使いの力というものをな」


 二本の鞭で左右から同時に攻撃を放つと、盗賊は背を沈めてそれを回避する。

 フハハ。足下を狙っていない時点で回避する余地が残してあったことに気付くべきだったな。


「誘導だ」


 鞭に魔力を流し、軌道を制御することを意識。

 若干上側に手元を引き上げ、はい。下に降ろす――――ひゅん。パシィン。


「ぬうあ!」


 体勢を崩して転ぶ盗賊。

 ずざぁー。と僕の足下まで頭が転がってきた。

 それに、容赦なく追加で鞭を叩き込む。右、左、右、左、右、左……


 ビクンビクン鞭を当てる度に盗賊が跳ねる跳ねる。

 うめき声だけで泣き叫んだりはしないが、痛覚ダメージがかなり入っているようだ。

 ≪拷問≫スキルを覚えたことによる恩恵がかなりあるな。

 鞭がさらに強化されているという事実が嬉しいね。うん。


 ≪ 警告:対象はもう倒れているので、攻撃を控えて下さい。 ≫


「おっと。脆い盗賊だ……」


 モンスターに比べれば堅かったが、物足りないな。経験値はそこそこか。

 死体が即座に消えないってことは剥ぎ取りできるのか。服とか脱がして全強奪できたりできるのかね?


「ベンは……余裕そうだな」


 タンバリンを叩くかのノリで、左右の盾で盗賊をガンガン叩いてる。

 グロテスクな規制がなかったら完全にスパイクで穴だらけ――――お、消滅した。

 ベンが僕にマッスルポーズを見せて勝利をアピールする。

 ぴくんぴくんと胸筋を動かして誇らしげだ。やめてください変態さん。


 で、問題の中坊’sは……うーん、均衡してる。

 丁度タイマン環境だから、それほど苦戦する相手ではないと思ってしまうんだが……


 巨乳エルフさんの果実が揺れているのをもう少し眺めたら、助けに入ることにしよう。

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