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005:ふたりの距離感

 お互い、会話の切っ掛けが掴めないまま硬直し、どちらともなく苦笑を浮かべる。

 どう声をかけるべきだろう?


 対面に座った少女を改めて見ると、若干透明であることに気付いた。さすがゴースト。

 服装は案内をしてくれたメイドさんと同じドレスシャツを基調としたものを着ているが、肌だけでなくこちらも若干透けていて非常に不思議だ。

 思わず、舐め回すように観察してしまう。


 髪型は要望通りにセミロングで、毛先にパーマがかかったように捩れがあり優美な雰囲気を出している。妹を少し大人びた雰囲気にした感じの顔をしており、和風の美人。

 胸は要望通りにDカップぐらいの大きさがある、やったね! 形も素晴らしい。

 今は緊張しているのか若干堅い表情をしている彼女だけども、笑えばとても可愛いだろう。


「あまり見ないで欲しいのですが」

「す、すいません!」


 不躾な視線を送った僕は、初対面で好感度を下げることに成功する。


「異世界から来た、宍戸遙人(ししど はると)……じゃなかった、ハルト・レオンです。よろしくお願いします」

「私はサクラ・ヒメノです。本日より暫定的にハルト様に仕えることになりますので、お見知りおきを。

 名前に関しては、好きに呼んで頂いてかまいません」


 うーん、言葉は丁寧なんだけども刺々しい。

 妹も異性に対して厳しいのでこんなものだと思う反面、冷たくされて精神的に堪えたりもする。

 それに名前が完全に日本人……いや、これは妹の名前をモジって、性格の補正から命名されているのか。

 異世界人が流れ着く世界だから、その子孫だと考えれば世界設定的にもおかしくない範疇だし。


「じゃぁ、ヒメノさんって呼ばせて貰います。

 僕のことも仰々しい装飾をつけなくても良いんで、普通に呼んで貰えると嬉しいです。

 あと、年齢もそんなに違わないいし、もっと気軽な口調で話して―――」

「分かりました、善処します。

 ハルト様の方も、私に敬語を使って頂く必要はありません。命令口調でかまいませんので」


「……普通に、気取らない感じで話させてもらうよ。

 そうだ! せっかく食堂にいるんだから何か食事でも食べようか。僕が奢るよ」

「結構です、昼食は済ませましたので」


「じゃぁ、飲み物でも頼んで一服しようか」

「必要ありません。飲みたいならハルト様だけでどうぞ。お待ちしていますので、ごゆっくり」


 なん、という……僕の心を折りに来ているのか。

 だが、ここで挫けるわけにはいかない。まだ序盤なのだ。

 ゲームらしく戦闘に行って、手早く絆を深めることにしよう。


「それなら早速ギルドに依頼を受けに行こうか! 場所まで案内してくれるかな?」

「……戦闘は素手で行われるのですか? 魔力で武器生成ができる練度があるようには見受けられませんが……」


「「……」」


 何も考えていませんでした。


「短剣、剣、槍、弓あたりでしたら兵舎で余っているものを無償で提供して貰えると思います。

 加えて、城内の兵士と戦闘訓練ができるので、顔を出したほうが良いでしょう」

「了解。じゃぁ、案内して貰って良いかな?」


 ≪ クエスト:『戦闘訓練』が発生しました。 ≫


 ヒメノさんに案内してもらい、兵舎に移動する。

 人がほとんどおらず閑散としているが……食堂に大勢いたからこんなものなのだろう。

 HME側で時間を表示させると『12:00』となっていた。現実時間は『13:17』。

 通常、時間は現実と同期しているので、現在はクエスト進行中のため停止しているみたいだ。


「すいません、こちらの方に武器を見繕って貰いたいのですが」

「おー、異世界人か。ふむ……」


 屈強なオッサンに腕、脇、腹筋、太股と撫でられた。


「ふむ。こっちに来る前の武道の経験はないようだな。

 右腕の筋肉だけ鍛えてあるが、他とのバランスが悪いのが気になるが……」

「学校の授業で微妙に軍技があってナイフをお試しレベルで使ったぐらいです。

 右腕については、趣味の影響ですね」

「そうか。なら、次は魔力がどれくらいあるか見せてくれ」


 オッサンの問いに頷き、狼戦の時の感覚を思い出して魔力を纏う。

 僕の身体を、淡い赤色の光が包み込んだ。


「なるほど。オッケーだ。楽にしてくれてかまわんぞ。

 ワシの見立てだと、短剣がオススメだ。筋力的にも丁度良いだろう。

 しかし、魔力は十分にある。解放状態なら大剣のような大型武器でも使用することができると思うぞ。持ち歩く際は少し重いかもしれないが……」


「要するに好きにしろってことですか?」

「ハッハッハ、その通りだ。武器庫へ案内してやるから付いてこい」


 案内され、武器庫に入ると、なんとも圧巻な光景が広がっていた。

 左右の壁には全身鎧がランスを持って鎮座しており、奥の壁に側には槍や斧などが丁寧に立て掛けてある。手前側には大量の剣や盾が所狭しと並んでおり、何が入っているかわからない木箱も山と置いてある。

 見てる範囲では僕が求める武器がないが……


「そのへんの木箱はダガー、このへんは弓矢だな。

 武器は普及品でかなり余分があるので、好きに選んでいいぞ。

 防具は王都の紋章があるからやるわけにはいかんので諦めろよ、ハッハッハ」


 見えていない範囲にもないようだ。

 ダメ元で「鞭ってありませんか?」と聞いてみると「ない」と即答された。薙刀と同じで、初期には選択できない装備なのだろう。マイナー路線だし、しかたない。店売りしてると良いんだけど。

 ヒメノさんにそれを聞こうと思い視線を向けると、何故か射貫くように鋭い眼光で睨まれた。

 僕は何もしてないですよ……


「鞭なら婬魔の人に頼めば譲ってもらえると思いますよ、変態さん」


 くっ。ボケているのか、まじめに僕の性癖で鞭を求めているのと勘違いされているのか判断がつかない。

 迂闊な発言をすると倍返しで罵られそうなので、我慢してスルーすることにしよう。


「どうしても鞭が欲しいなら、武器屋で金を払って買えば良いさ。

 ひとまずは、コレでも使え」


 鞘に入った短剣を僕に投げ渡すと、オッサンはニカッと白い歯を見せて笑う。

 短い間の代理武器だし、そのまま従うことにする。


「了解です。あと、投げナイフってありませんか?」

「ないな」


 あれー。ここは「おう、あるぜ」って流れじゃないのか。

 普通、兵士は懐に備えているもんだからあり余っていると思ったんだけどそんなことなかった。


「投げナイフなんぞ、隠密の連中しか使わないからな」

「魔法で遠距離攻撃ができるので。

 投げナイフは、魔力が尽きた時や、魔力を感知されたくない時ぐらいしか用途がありませんから。

 ただ、これも一般の武器屋には手広く売っています。王都の兵士のように、武術魔術の両刀使いばかりではないですから」

「なるほど、そっちも武器屋で買うことにするよ」

「よし! 話は纏まったな。

 じゃぁ、早速戦闘訓練といくか。俺がイロハを叩き込んでやるぜ」

「……お手柔らかにお願いします」



 兵舎を出て、すぐの広場の片隅。

 鞘から短剣を抜いて、右腕で逆手持ちをして構える。

 対峙する相手は、訓練用のわら人形だ。


「よし、まずは魔力を纏わずそいつを斬り付けて見ろ」

「はいっ!」


 僕は、オッサンと訓練を開始した。

 持ち手から矯正され、何度も何度も動作を教え込まれた。

 オッサン呼びしたら「軍曹と呼べ!」と怒られた、文字道理に鬼軍曹である。


 厳しい訓練を行うにことに対しては、現実とは違って筋力疲労はないんだけど……精神的には疲れる。

 だが、その甲斐はあって基礎スキルだけでなく、エクストラスキル(必 殺 技)を取得できた。


 その名も、≪ディバイン・ディザスター≫。

 威力の方は、これから行う模擬戦で本格検証だ。


「よし、では最後に締めくくりだ。相手は俺ではなく――――、嬢ちゃん、頼んだぜ」

「了解しました。では、お相手させて頂きます」

「……ゴーストって単体での戦闘能力は低いって聞いたんだけど?」


 ヒメノさんは僕の問に応えず、短剣を構えて挑発的な視線をこちらに向ける。

 だからなんでこんなに敵愾心を――――

 いや、ここで大勝利して仲良くなるパターンか。

 そう思うと、戦闘をするモチベーションも上がるってもんだ。格好良い所を見せてやろうではないですか。


「俺が二人に防御魔法を掛ける。先にその耐久値を削ったほうが勝ちだからな」

「了解です」「わかりました」


「じゃあいくぞ、模擬ファイトォォォッ! レディィィイイイ! ゴォォォォー!」


 戦いの火蓋が切って落とされた。

 先手を打つのは、僕だ。魔力を纏い、訓練中に覚えたスキルを駆使して接敵する。


 姿勢を頭半分低くし、地面を意識して蹴り≪ステップ≫を発動させる。

 その体勢で短剣を順手で全面に突き出し、勢いを利用してヒメノさんの腹部に直撃を狙う。


「甘いですね」


 キィン、と互いの短剣が交差する。

 ヒメノさんは身体を右に半歩ズラし、僕の突撃を弾いた。


 ―――――が、「甘い」はこっちのセリフだ!


「スラシュエッジ!」


 連続してスキルを使用。

 システムの補正により若干崩れかけていた体勢は持ち直し、斬撃のエフェクトと共に横なぎの一文字斬りを放つ。

 直撃したそれは、ヒメノさんのHPを二割ほど削り、彼女は吹き飛んで身体を無防備に晒す。

 バランスを崩しているな、追撃のチャンスだ!


 僕は短剣を逆手に持ち替え、ヒメノさんに飛びかかる。


「軍曹直伝、ディバ――――」

「スラッシュエッジ」


 必殺の一撃を打ち込む前に、ヒメノさんの攻撃が僕の頭部に直撃する。

 身体が吹き飛ばされるが、空中で≪受け身≫を発動して体勢を強制的に持ち直す。


 急所への攻撃に、HPが六割消失。

 一瞬で形勢逆転される……が、やられっぱなしってワケにはいかんだろ。


「ウィンドエッジ!」


 魔力の風刃が発生し、ヒメノさんに向かって直進。

 同様の技ですべて相殺されるがこれは想定済みッ。


 そのまま≪ステップ≫で距離を詰めようと思ったのだが、


「おっ」


 舞い上がったスカートに気をとられ、初動が遅れた。不覚ッ……

 このポカをチャラにするには、”後の先”を取るしかない。


 ヒメノさんは、短剣を大きく突き上げる。

 このモーションは、≪ディバイン・ディザスター≫だ。

 分かる、分かるんだが、通常攻撃を当てただけではモーションをキャンセルできる気がしない。

 かと言って、短剣スキルを使えば僕が後手になる。


 ならば、”短剣よりも動作が速いスキル”で対処すれば良いだけことだッ!

 

 右腕を振るうようにフェイントをかけ、本命の左手に魔力を込める。

 そして―――――


「ゴオオオォォォッド・ハンドッッッ!」


 スキル≪魔力伝播≫を発動させた。

 その拳はヒメノさんの顔面に正面から直撃をし、大ダメージを与えてヒメノさんの攻撃をキャンセル―――――させることはできなくて。


 発動した≪ディバイン・ディザスター≫によって僕は串刺しにされ、この世界で二度目の敗北を経験した。



 ≪ クエスト:『戦闘訓練』が完了しました。

   スキル:≪武器適正:短剣≫を取得

   エクストラスキル:≪ゴッドハンド≫を取得

   クリアボーナス:300EXP

   LEVEL.UP 1 ⇒ 2

   ステータス画面の制限が解除されました。

   ギルドカード、またはHMEから能力値の振り分けができるようになります。 ≫

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