036:事後処理
「おーい、大丈夫か少年少女?」
声に反応して振り返ると、オッサン三人に美丈夫が一人歩いてくる。
どこかで見たことがあるような……
「ギルドで会ったパーティです」
小声でヒメノさんが補足してくれて思い出す。アカハネさんに退室を促された人たちだ。
僕らとは別口で依頼を受けていたってことか?
「おおっと。手柄を奪いに来たとかじゃないから安心してくれ」
「俺たちは、紅刀の姉さんに言われてオマエらの行動を監視していた『保険』だよ」
「ストーカーですね」
「違えよ!」
僧侶のオッサンが僕らに回復魔法をかけ、淡い光に包まれる。
そういえば、今回の臨時パーティは誰も回復魔法を持ってないのか……これも考えておかなければならない点だなぁ。スライムが優秀なので不要な気もするけど、費用がかからないのは便利だし。
「とりあえず、ギルドに戻って話をしようぜ」
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僧侶がゴツン。とメイスで地面を小突いたと思ったら僕らは下水道から室内に転移していた。
これまた見覚えのある、ギルドで以前に案内された部屋だった。
「ゲロ以下の臭いがしますね」
「「申し訳ありません」」
いきなり辛辣な言葉で出迎えてくれたのは、アカハネさん。腕が四本あるメイドの人だ。
下水道から転移してきたんだから、そりゃぁ臭いだろう。
従者二人が即座に謝罪をし、来栖さんは自分の腕の臭いをくんくんと嗅いでいる。
「サクラとジライヤが謝る必要はありません。大方、そこの馬鹿が身だしなみを整える間もなく転移の魔法で連れてきたのでしょう」
その通りだけど、転移をされなくとも同じ結果になった気がしないでもない。そのままギルドへ報告しに行くつもりだったし。
来栖さんは「大丈夫、大丈夫です?」と小声で自問している。そうとう臭いが気になるようだ。
下水道にしばらく籠もっていたので、鼻が馬鹿になっている僕らはイマイチ自分の臭いがわかんないよね。
「沈黙は肯定と受け取ります。サムソン、あなたたちはもう少し気配りが出来るようになりなさい。消臭の魔法が使えるでしょうに……それは置き、後詰めありがとうございました。報酬はギルドの窓口で受け取ってください」
「へーい」
「しかたねーな」
「これだからお高く留まった女は」
「毎度すいませんね紅刀さん」
四人はそれぞれに返答をし、部屋から去って行った。
「あの、私もお話の前にシャワーを浴びてきて良いですか?」
「それには及びません。少々失礼します」
アカハネさんが来栖さんに近づいたと思ったら、二人を取り囲むように磨り硝子で出来たような円柱、おそらく結界的なものが展開して中から「ひゃぁ」という可愛らしい悲鳴とシャワーを浴びたような水音が聞こえてくる。
「あ、自分で洗えます、洗えますから。あっ……」
三〇秒ほどして結界が解除されると、湯気でほかほかしてお肌がツルツル。顔が真っ赤になった来栖さんがお目見えした。
髪の毛が乾燥している点はマイナスだが、やはり湯上がり? の光景は色っぽいものだ。眼福しておこう。
「結界と水温調整、湿度調整、特定物質の除去などを応用した高度な魔法です。さすがアカハネ様……」
「次、僕もお願いしますッ!」
……元気よく手を挙げたら二人の女性から冷たい視線を頂きました。心が冷えてしまったので暖めて欲しいです。
来栖さんが呆けていて僕に意識を向けていないことだけが幸いか。とりあえず、「冗談ですよ」と笑って誤魔化しておく。
メイドさんに体を洗ってもらうのは健全な男性としては経験しておきたいイベントなんですよ。ヒメノさんがレベルアップしてスキル上昇したら同じような魔法が使えるようになるのだろうか。その際には是非とも僕を洗って貰いたいものだが。
「ごほん。それでは、今回の件について報告をお願いします」
「潜ってボスが出て討伐しました」
簡単に説明したら詳細を求められたので、僕に代って来栖さんが説明する。
モンスターの攻撃方法や特性まで説明し「情報料を上乗せします」とアカハネさんに言わせるキミは何者だ。
少し常識に欠ける部分があるけど、合気道的な技や杖を使った戦闘ができるプレイヤースキルだったり順序立てたトークスキルだったり、中の人は英才教育されてるだろコレ。やはり天才か……
「では、今回の報酬を渡しますので付いてきてください」
ギルドの地下に案内されると、そこには僕らが倒した『異合竜ドラゴ・スワン』が横たわっていた。
何故ここにあるのか尋ねると、「転移魔法で場所を移すように指示をしてありました」と言われました。魔法、万能です。
ただ、もう少し大型のモンスターだと個人では転移させるのための魔力を捻出することができず、人力任せになるらしい。複数人で魔法を使えばよいじゃない、とも思ったが波長が合致していないと難しいようで。
「これを今から解体します。心臓と肉片の一部は魔王様の研究材料に還元しますが、それ以外は差し上げます。私が処理をしますので見ていてください」
言った側から、アカハネさんは二本の紅に染まった刀を取り出し、アヒルの解体を始める。
血ではなくポリゴンが飛び散るクリーンな作業だが、なかなかにグロイ気がする。雑魚モンスターのように≪剥ぎ取り≫スキルを使って簡単にお掃除とはいかないようだ。
四本の腕を器用に使い、一人であっという間にアヒルを肉片にバラしていく。
「ポリゴンじゃなかったら、返り血で真っ赤になってるよね……」
「そうですね。だから紅刀と呼ばれているんでしょうか」
ヒメノさんは知り合いなんだっけかと視線を向けると、こくんと頷かれた。
来栖さんが言ったように、返り血で赤く染まるので紅刀で間違いないようだ。
聖女様の近衛だっけ? なんか人選が物騒な気がしてならない。
「さて、これで完了です」
刀を鞘に収めると、目の前の物騒な人が笑顔で言う。
右手には、心臓的なモノを持っていますよ。血飛沫は規制されてるのになんでここはグロテスクな表現なんだ、スタッフッ!
「今回は私が解体しましたが、大型モンスターを討伐した際にその場で解体することになる場合が多々あると思います。普段から≪剥ぎ取り≫を使い練度を高めておくと良いでしょう。必要分の素材は確保したので、残りは二人で分けてください。この素材とギルド窓口で受け取りが出来る支給金が今回の報酬になります」
「あ、ありがとうございます……」
>>クエスト:『下水道に蠢く影』をクリアしました。
かなり余っているんだけど……アカハネさんの取り分は全体の一割程度だ。全長が五メートル程度あったこのアヒルさんのほとんどの肉片は未だに転がったままの状態になっている。
来栖さんと等分するとしても、かなりの量。全身鎧にして骨を剣に加工するとかしてもかなり余る気がしてならない。
あと、肉片……魔王様の魔力による突然変異なんだよな。食べれるのか? 来栖さんを見ても、困惑した表情だ。
「遙人さん、どうしましょうか」
「僕は武器防具に加工して、残りは売却しようと考えてる」
「そうですね。それが無難ですか……」
ただ、これだけの物量。ゲーム既存のアイテムボックスには格納制限があり、300kgしか収納できないので荷馬車を手配して武器屋まで運んで貰うことにした。このあたりは従者の二人がやってくれるそうなので、お任せすることに。
アカハネさんは残った素材の用途が決まると「私はこれにて失礼します」と立ち去った。
僕と来栖さんはギルドで依頼の完了報告をする。依頼:『下水道調査』が完了だ。
報酬金額は3,000Gと少ない。回復スライムと毒消しの費用を考えるとマイナスになる。ただ、下水道のモンスターのドロップアイテムと今回のボス素材があるから売れば黒字にはなるんだけど。
納品系の依頼ではないし、こんなものか。
「じゃぁ、先にマップ移動して待ってようか」
「そうですね。行きましょう」
これから向かうのは、下水道に潜る前に立ち寄った武器屋『ドラゴンキラー』だ。今回倒したアヒルは異合竜ドラゴ・スワン。名前に竜の文字が含まれているので、丁度良いだろう。
当然、ヴァレード・レヴンで鞭を作る程度の材料は別に確保済ですよ。ドラゴンウィップとか竜鱗の鞭とか夢があるよね。まぁ、まぁまぁ楽しみはあとに残しておくと言うことで。
「店員さん、素材持ち込みで武器と防具を作って欲しいのですが」
「お任せ下さいませ。素材の提示をお願いします」
「あ、素材は結構量があるので馬車で来ます」
「なるほど。では、鍛冶場へ搬入の準備をしておきます」
僕ら二人は別室に通され、武具作成の説明を受ける。
既存の製品を流用したデザインなら安価で、個性を持たせると徐々に高くなる仕組みだ。ヴァレード・レヴンではデザイン料金を取られなかったので、あそこはやはり優良店だと感じ入る。まぁ、鞭で介入する余地があるのはグリップぐらいだかならなぁ。
「――以上になります。では現物が届くまでしばらくお待ち下さい」
「説明ありがとうございました」
店員さんは説明をすると部屋を退室していった。
「さて、来栖さん。どうするか決めた?」
「考え中です。防具は布製でないと動きが阻害されそうなので悩み所で……杖と槍を新調するのは確定していますけど」
「だね。僕は鞭は確定ってところかな。あとは、こんな感じの――――」
HMEからペイントソフトを呼び出して、簡単な図を描いて来栖さんに見せる。彼女は視線を彷徨わせて、返答を探しているようだ……うん、絵心がないから仕方があるまいて。
「すいません。違ったら申し訳ないですが……鉄球、ですか?」
「不正解。でも、用途は間違ってないかも。どちらかと言えば防御する役割の側面が強いかな。今回の戦闘で耐久力の無さを自覚したからそっちをカバーする方向で」
なんだろう、という顔をしていらっしゃる。完成してからのお楽しみということで秘密にしておこう。
武具談義を来栖さんと一五分程続けていたら店員さんが素材到着と呼びに来てくれた。
作成を依頼して、今日はログアウトすることにする。完成は三日後。楽しみだ。




