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032:雑魚を散らす

 下水道探索は順調だ。たまに黒スライムに遭遇して汚臭に顔をしかめるぐらいしか問題はない。

 困難もなく前回死亡した敵が大量に沸くエリアにやってくることができた。


「こっから先は僕らも進んだことがないから、警戒しながら行こう」

「はい、わかりました」


 自然と僕と来栖さんが並んで歩く形になった。歩道が広くなり縦列に陣形を組む必要がなくなったからだ。

 後ろには、ヒメノさん、執事さんの順番で続く。


「どうですか?」


 何度目かの問い。杖についての評価改めだ。来栖さんは結構頑固で、ある程度モンスターを倒す毎に聞いてくる。

 認めたくないなんだけど、杖を使った彼女は強い。リアルで心得があるようで、少ない動きで相手のバランスを崩すような戦い方をするのだ。見事と言わざるを得ない。


「鞭を使う来栖さんの方が圧倒的に魅力的だけど、杖の実力については素直に凄いですよ、ええッ」

「ふふ。ようやく遙人さんに認めて貰えました。強情でしたね」


 杖を抱きしめるような仕草をしながら、来栖さんが言う。

 この微妙に可愛い仕草が腹立たしい。こうなっては、彼女が杖を使うのを止めるのは無理だろう。僕としても鞭が格好良いと思われるように華麗な動きでモンスターを倒したりと努力してみたんだが、効果がない……というか心配された。昨日に比べて無駄が多いと遠回しに言われたよ。確かに、魅せることを優先していたので迂闊な動きも混ざってますよ、くそう。


「くっ。これで鞭布教計画は完全に失敗か」


 思わず、吐き捨ててしまう。


「さすがに露骨なので気付いて反抗しました」

「気付いていた、だと……」

「遙人さん、わかりやすい性格していますから。でも、この子はしっかり完成させて見てもらいますから」

「……はい。楽しみにしてますよ。あ、奥からゲスイコウモリの大群がきますね」


 背後に振り返って、フォローを任せたとヒメノさんに目配せする。

 僕と来栖さんはゲスイコウモリに突撃し、できる限り倒して討ち漏らし&こちらを無視した敵をヒメノさんと執事さんが倒す作戦だ。余裕があればヒメノさんがこっちを魔法で支援する手筈になっている。


 来栖さんは、杖を槍のように扱って戦闘をする。それ、魔法の補助武器でないの? と疑問はあるが、近接して格闘してしまうのが彼女のクオリティである。

 杖を槍――長柄武器のカテゴリで使うのには制限があるらしく、使えるスキルが<スターダイヴ>という刺突技しかないんだけど、使い所も非常に上手い。


「散れ、ゴッドハンド!」


 エクストラスキルで、景気付けに先制攻撃。

 続いて、来栖さんが敵の集団に潜り込みターゲットを引き付ける――上手い。昨日とは別人だろ、これ。

 杖の先端と石突(尻部分)、両方を使って的確にゲスイコウモリの頭を叩いていく。通常攻撃なので一撃では死なないが、僕が追撃をすることによって殆どが地面へ落下する。

 この落下したゲスイコウモリを杖の石突でゴツンと叩いてトドメを刺しながら、足で踏みつけながら集団の中で暴れ回る。

 僕はそんな器用な足捌きはできないので、鞭で狙える範囲を各個撃破。来栖さんの死角をフォローする。


『氷結の女神の御名を持って我が命ず。舞い降りる白銀の妖精、天を舞う結晶の力を持って降り積もれ――霰降らしッ!』


 ヒメノさんの詠唱が終わり、魔法が発動する。

 僕と来栖さんは<ステップ>で後方へと撤退し、出来るだけ巻き沿いになるのを避ける。

 そこに、強烈な霰が襲いかかる。礫の大きさは4ミリ程度で小さいが、数が多いし勢いがある。空を飛んでいるゲスイコウモリには効果的だ。「キキィ」と声をだして地面へぽとり。HPは3割残っているのであとは鞭で打つだけの簡単な作業。


「ハッハッハァ!」


 いやぁ、殲滅戦は楽しいですね。

 パシィ、パシィ! と地面に落ちた連中を狙う。元気そうなのは残り3匹なので、来栖さんに任せておけばすぐに終わる。


 ・

 ・

 ・


 討伐が完了し、立っているのは僕ら4人だけになった。

 来栖さんが顔がニヤけそうになるのを必死に堪えている。うん、気持ちは非常にわかる。

 ゲスイコウモリが、たぶん20匹ぐらいはいたものね。それだけ倒せば満足感も一押しだ。


「お嬢様、余所様にみせるには不相応な顔になっていますぞ」


 執事さん、触れないであげてくださいよ。

 来栖さんは恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「死体が消える前に剥ぎ取りましょう」

「そうだね。僕とヒメノさんで剥ぐから警戒よろしく」

「はい、私とじいやに任せてください」


 今回は、6匹も剥ぎ取りできる状態で敵が残っている。運が良い。

 僕が奥から、ヒメノさんが手前から手早く解体する。ゲスイコウモリは刃物を使わずに剥ぎ取れるので簡単だ。こっちの成果は全部コウモリ肉だったけど、ヒメノさんが解体したほうはコウモリの牙×3だ。微妙に悔しい。

 ちなみに、通常敵を倒したドロップ同様、解体報酬もプレイヤー個別で入手できるのでドロップ品で揉める心配はない。


「解体終了です、先へ進みましょうか」

「はい――いえ、待ってください。そろそろ12時になるので一旦休憩しませんか?」

「了解です。なら、13時合流ということで大丈夫ですか?」

「はい。じいや、1時間ほど留守に「まちまちまち」」


 来栖さんの発言を止る。

 公式FAQを読んだ感じ、従者と時間に関して約束すると現実同様の時間が流れて大変なことになるんだよな。そのことを伝えると「じいや、先程の発言は忘れてください」と慌てて来栖さんが訂正する。

 その様子を見届けた僕は、ログアウトをして現実世界へ帰還した。



 *


「ふぅ」


 目を開けると自分の部屋で、例によって妹が布団を敷いてゲーム中の状態になっていた。

 昼飯の時間まであと13分か。どことなく微妙で手持ち無沙汰だな。


 食卓へ行くと、父さんが新聞を読んでいた。僕はTVを付けて映ったチャンネルをそのまま眺める。くだらないバラエティ番組で、芸人が漫才をしている。早く、飯を食べて続きをやりたいなぁ。

 来栖さんとの共闘が思いの外楽しい。なんか、彼女が僕の立ち回りを理解してるのかしらないけど非常に連携しやすいんだよな。おかげで全然ダメージを受けないし。

 執事さんも影で良い仕事をしていて、ヒメノさんへのダメージを肩代わりしてくれている。おかげで、回復スライムの消費がまだ1個だけだ。

 ……お。何かメールが来た。


 >>来栖八重さんからメッセージが届いています。


 午前中はありがとうございました。

 再確認のためメッセージを送ります。


 『午後13時丁度からプレイ開始』


 で、良ければお返事ください。

 ログインのタイミングがズレると、敵の只中に孤立してしまいますよね。


 それと、ゲームをやっている最中に言えなかったのですが、遙人さんは私の先輩です。

 敬語を使わず、適当に話しかけて貰えればと思います。


 <<



 来栖さんからのメッセージだ。確かに、ログイン時間がズレるのはまずいな。5分前行動しようと思ってたから、メッセージこなかったら危なかった。で、僕が来栖さんの先輩?

 そういえば、SNSでフレンド登録したからプライベートな情報をある程度向こうは知っているのか。


 ……MBOで完成してもらった鞭を見せて貰うことにしか興味がなかったので、こっちは中の人情報を何も見てなかった。

 とりあえず、適当に返信しておくか。


 >>以下の内容で返信します。


 >『午後13時丁度からプレイ開始』

 了解! それでは、お言葉に甘えて普通に喋るよ。午後もよろしく。


 <<



 うん、これでオッケー。

 ついでに来栖さんの個人情報を見ておくと……中学3年生なのか。その年齢の割にしっかりしてるけど。

 世間知らずなのは納得だ、近所のお嬢様女子中学に通ってらっしゃる。趣味は読書ね。うん。これぐらいしかプロフィールが入力していない。まぁ、中の人にはそれほど興味がないのでどうでも良いか。鞭使ってくれなかったし。

 今のご時世、ゲームであった人にリアルで会うと確実に顔面劣化現象が起きてガッカリイリュージョンするからね。幻想は殺されたくない。来栖さんには金髪ツインテがよく似合うのさ……それすらも僕の好みではないが。

 ふんわか黒髪こそ至高、そう、ヒメノさんみたいな感じの。


「遙人、姫香を呼んできてくれない? もうすぐラーメン出来るから」

「ういー」


 台所から母さんに言われ、2階の妹の部屋をノックしてから気付く。そういやぁ、僕の部屋――というか、MBOの世界に居るんだよ。

 ラーメン伸びるのもアレだし、無理矢理起こすか。


 妹の体を揺さぶる。

 これで、HME経由で警告メッセージが出てガバっと起きてくるハズだ。

 予想通り、妹は起きてすぐさま立ち上がると現状を認識する。


「……兄さんがお昼に起こしに来た。で正解ですか?」

「正解です。そんな姫香さんにはラーメン1食をプレゼント」


 家族4人で昼食を済まし、歯磨きをして自室に戻った僕は匿名掲示板の変態総合スレを見て時間を潰すことに――いや、公式でまともな攻略情報を……いやいや、こっちは完全に行き詰まるまで封印しよう。やはり、変態総合だな。

 一応、称号は『変態紳士』に設定してある程度の変態である僕だ、やっぱりちょっとえっちぃ話題があったりするのは楽しかったりする。たまーに、際どいアングルの写真も貼り付けてあるし。

 僕がヒメノさんに「写真撮影して良い?」なんて言ったら罵られるのは確実。早く仲良くなりたいね。


 ・

 ・

 ・


【MBO】Maid Butler Online 変態総合スレ【#93】


1 名前:名無しメイドさん[]

ここはMaid Butler Online変態紳士のスレ、チラ裏最下層です。

制作者が「公式掲示板の意見にはスタッフが目を通す」と語っていますので、

ブラジル水着実装しろカス、胸の柔らかさ可変機能実装はよ、と言った要望は公式掲示板に書きましょう。

プレイ感想、批判、妄想なども同様です。


MBO公式→http://xxxx.xxx.net/xxxx/xxxxxx/


他人のメイドを貶めるレス、それに対しての返答は控えましょう。

また、MBOとは無関係な長文を貼る人物も相手にしないこと。

反応する人も荒らしとみなされます。


次スレは>>950を踏んだ人が立てて下さい。

もし規制などで立てられなかった場合は代わりの誰かに立てて貰うよう依頼しましょう。


192 名前:名無しメイドさん[sage]

下水道へ潜ろうとしたら変態が女王様に罵られていた件w


196 名前:名無しメイドさん[sage]

>>192

kwsk


197 名前:名無しメイドさん[sage]

これ見とけ。

(画像のURL)


198 名前:名無しメイドさん[sage]

グロ注意


199 名前:名無しメイドさん[sage]

全身にモザイクかかってるじゃねーかw 晒せよ


200 名前:名無しメイドさん[sage]

いや、公式の仕様なんだわ

このゲームはフレンド登録してない人をスクリーンショットに撮れない

ゲーム内装備の場合は体にモザイクかからんのだが、そうでないと>>197の現象が起きる


で、>>192 kwsk


202 名前:名無しメイドさん[sage]

蝶仮面の女王様ロールプレイをしている変態女に、俺たちの誰かが土下座して踏んで下さい。と懇願

そっからサービスタイムが始まったった。

最終的に、メイド2人も加わった3人に罵られて幸せそうだったぜ……


203 名前:名無しメイドさん[sage]

羨ましいなぁ、俺も課金してメイド増やすか


204 名前:名無しメイドさん[sage]

増えると最高だぜ、罵られるのはゴメンだがw

ダブル添い寝が幸せすぎて現実に戻れん


205 名前:名無しメイドさん[sage]

1,000円で増やせるんだよなぁ

悩ましい、実に悩ましいぞォォ


206 名前:名無しメイドさん[sage]

雑魚共が。

俺のメイドは3人。両手と股に温もりを感じる


208 名前:名無しメイドさん[sage]

股ェ……


209 名前:名無しメイドさん[sage]

クソッタレ、課金してくる。


210 名前:名無しメイドさん[sage]

添い寝してくれる好感度がない


211 名前:名無しメイドさん[sage]

キャラメイクでキス魔、淫乱と書いた俺は勝ち組


212 名前:名無しメイドさん[sage]

おまいら現実に戻って来いよ、リアル女の温もりこそ至高。


214 名前:名無しメイドさん[sage]


215 名前:名無しメイドさん[sage]


216 名前:名無しメイドさん[sine]

>>212 タヒね


217 名前:名無しメイドさん[sage]

>>212

消えろ、ぶっとばされんうちにな

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