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031:あなたを洗脳したい

 結論から言えば、ログアウトしないことになった。

 僕としては来栖さんの杖購入を阻止できなかったことに遺憾の意で失意のどん底なのだが、鎌を装備したメイドさんと杖を装備した金髪さんが下水道へ潜る気満々だったのだ。


「サクラさん、今日は一緒に頑張りましょうね」

「はい。鎌の錆にしてくれます」


 仲良く会話している女の子の手前で「お疲れ様でしたー」なんて言えるワケがなかった。

 そもそも、買い物にしか付き合う気がなかったというのパーティ組んだのが失敗。何故だか今日一日一緒にゲームをします。そんな雰囲気になってしまっていた。

 来栖さんの下水道攻略状況を尋ねると先日が初回で、ギルドでのイベントを発生させてないことが分ったのでそれを消化してもらうことにする。


 僕らは、回復スライムの調達だ。

 知識面での摺り合わせをしている際に『謝罪するために僕が死に戻りをするのを律儀にまっていた』ような感じの話を聞いてしまったので「時間効率分ぐらいは金銭を負担させて下さい」と申し出たのだ。

 本人は遠慮していたんだけど、それではこちらの気が済まない。

 木の棒的な杖を選んだのも予算の都合だろうと思うと気まずい感じだし。


「味はどうしますか?」

「前回とはまた別にしようか。カルビもコンソメも美味しかったけど、来栖さんの反応は良くなかったし。

 女の子同士の方が味覚的に合致すると思うから、10個ほど選らんで買ってあげて」

「承知しまし――」


 言葉が詰まる、どうしたのだろうか。


「ストロベリーが、今日は売っていません。残念ですね……」

「ホントだ。定番だと思ってたら日替わりだったとは。と言うことは、ヒメノさん用のも味を変更しないと駄目か。5個追加でヒメノさんの好きな味を購入でお願いします。

 僕が使うことも考慮すると――納豆は避けて欲しいかも」


 こくん、と頷いてヒメノさんは商品を吟味する。

 こっちは無難にソーダ×2、コーラ×3にしておくか。炭酸系ラインナップで攻めよう。

 加えて、毒消しだな。スウェッジスネーク用にある程度持っておいた方が良いだろう。初心者用の商品だと1個50Gなので非常にお買い得だ。この値段なら、あの蛇がわらわら沸いてきてガシガシ噛んでいくのが納得できる。


 会計を済まして、集合拠点に設定していたマンホールに移動する。


「おっ……」


 来栖さんが男性プレイヤーに絡まれていた。

 やっぱり金髪ツインテールでお姫様的なドレスを来た姿は目立つと思うんだ……ブラックリストへ入れて視界から消してしまえば良いのに丁寧に対応をしていらっしゃる……というか――


「気持ち悪い。私は人を待っていると言いました。すぐに消えなさい」

「ご主人様は本当に最低の人間ね。言われたこともすぐ忘れる鳥頭なんですから」

「ふ、ふひぃ」


 どうみても絡んでいるプレイヤーが変態です、本当にありがとうございました。

 来栖さんと婬魔メイドに暴言吐かれて恍惚とした表情をしてやがる……


 来栖さんは本気で嫌がっていると思うんだけど、如何にもな外見でロールプレイしているからそう受け取られなくても仕方が無い。相手としては「ノッてきてくれている」と本気で思っているのだろう。

 正直、周囲に他のプレイヤーもいるので関わり合いになりたくないのが本音だ。

 他人の振りをしつつパーティチャットでブラックリストに入れるように伝えよう。


 そうな風に考えていたら、ヒメノさんが合流して罵り合戦に参加してらっしゃる。


「このような人間のカスを相手にしても仕方がありません。

 あなたはカスです。私の使える暫定ご主人様以下です。

 迷惑だとこちらの方が言っているのがわからないのですか?」

「カスという言葉は酷いです。

 粗大ゴミあたりのマイルドな表現にするべきではないですか?」

「いえいえ、ご主人様なんて生きる価値もありませんから。

 そこの下水道に流れる汚物以下です。ふふ、なに喜んだ顔をしているのですか」

「ありがとうございます、ありがとうございます、ぶひゅうう」


 ……この状態で彼をブラックリストに入れるとすると、ヒメノさんの視界からも消えてくれるんだろうか。

 ブラックリストを使おうと思い項目を表示した際に説明が表示され、疑問は氷解する。


 ≪ ブラックリストに登録すると、従者には相手が急に視界から消えたように認識されます。

   パーティを組んでいる場合、全員のブラックリストに登録されているプレイヤーのみ非表示になります。 ≫


 なるほどね。

 視界に映っているプレイヤーを選択してブラックリストに追加――


 ≪ ハルト・レオンが『ドレイ・アナタノ』をブラックリストに追加しました。

   適応するにはパーティメンバー全員の認証が必要です。

   未認証:クルス・クリスティ                      ≫


 やはり天才……変態か。

 パーティを組んだとしても「奴隷さん」とメンバーに言われるプレイヤー名になっている。

 名称はHMEと共通設定だから普段からこれ、なんだよな……末期症状だろ。

 HMEを複数契約して使い分けてる金持ちで、現実ではまともな人だと信じたい。


 ≪ 全員に認証されました。 ≫


「ようやく消えてくれましたか」

「そうですね……」


 苦笑いをしつつ、来栖さんは僕に目礼。手をひらひらさせて返しておく。

 そういえば、ヒメノさんは積極的に首を突っ込んだけど執事さんは完全に放置だったな。

 チラッと視線をやるけど綺麗な澄まし顔をしていらっしゃる。何故だ。


「じいやは今朝方遙人さんに突っかかったばかりなので、私が頼らない限り介入しないよう言い含めてありました」

「不本意ですぞ」

「取りあえず、会話をパーティモードに切り替えよう」


 設定を変更して下水道へ逃げるように潜り込む。

 追従して残りの3人も降りてきてくれた。ボスがいると思われる方向へ足を進める。


「来栖さん、メッセージで顔を隠すとか言ってませんでしたっけ。悪目立ちしてましたよ」


 スウェッジマウスが寄って来たので≪ウィップスピアー≫で刺し殺す。

 ついでにスウェッジスネーク対策と来栖さんへの牽制に地面をパシパシ叩きつつ会話を続ける。


「顔は隠しています。宿屋で遙人さんが離席しているときに設定しました。

 フレンドと別にしてあるので――」

「了解です。こっちから設定変更して確認します」


 設定から来栖さんの外観を『制限されたペルソナ』に変更すると……なるほど。

 蝶マスクをした女王様がそこには存在していた。決して、一般人には見えない。アレだ。


 ……天然変態ホイホイ体質なのだろうか、この人は。

 これは「私が変態女王様よ」と自己主張しまくっているようなものだろう。

 不本意ながら使用予定がないとはいえ、腰に茨鞭を装備したままだし……


「どうですか? 顔は隠れていると思うのですが」

「……顔は隠れてますね」


 頭隠して尻隠さず、そんな表現だと近いかも。

 いや。隠すも何も本人が意図していない新たな可能性が発芽してるので、たとえとしては間違っているか。


 臀部隠して性癖隠さず?

 ……これも違うな。良いたとえが見つからない。


 今度は3匹ほどスウェッジマウスが近寄ってきたので≪ロングウィップ≫を発動して薙ぎ払い、折り返し通常攻撃でパシンと痛める。

 鞭の先が乱れたとことで再度≪ロングウィップ≫を音声起動してトドメを刺す。

 このスキルは複数攻撃にも使えるので便利だ。物理的に鞭で薙ぎ払うよりもダメージの減退がない。


「今からセクハラ発言をします。寛容な心で許してください。太古より蝶仮面というのは――」


 来栖さんの年齢はわからないが、オブラードに包んで現在の格好が特殊性癖を持った男性の心を虜にするのに相応しいことを伝える。彼女は初心なのか顔を赤くしており、こくこくと頷いて聞いてくれる。

 まじめだ――……そう、まじめだ。ここに付け入る隙があるのだと閃いたぞ! フヒィ!


 近づいてきたゲスイコウモリ2匹を≪ダブルウィップ≫からの連撃で始末する。

 話題を罵倒性癖のドMから苦痛を快感とするドMに転化、そこから鞭の成り立ちと起源を説明して武器として使用される鞭にまで話を繋げれば完璧だな。魔物を叩くなら杖より鞭、それを魂から理解させねばらるまいて。

 ロールプレイしてるぐらいで王女様に思い入れがあると思うので、王女様キャラが鞭を使っている部分にも触れたほうが良いだろう。それなら自然と杖よりも鞭が使いたくなるハズだ。

 僕が知ってる作品でそれっぽいのはあっただろうか――


「ぐフォッ!」


 考え事に没頭していた僕に岩石頭魚さんが突撃してきた。

 あばらにダメージを負わせてくれて、またコイツかよ、ぶちのめしてやるぜヒャッハァ! と思いながら岩石頭魚に押し倒される。

 そこにすかさず鎌、槍、棒が繰り出され、体力を削り、


「「スターダイヴ」」


 女性コンビが同時にスキルを使い、命を奪う。

 狙いは正確なんだけど、僕の腹上に敵がいる状況でちょっと恐い。


「この鎌、なかなかの切れ味のようです」

「開き直ってスキル名を叫ぶのも、悪くないですね」

「くっ……少しは心配してくださいよ」

「ハルト様、傷は浅いですぞ」


 執事さん、ありがとうございます。

 今回はモンスターが剥ぎ取り可能状態で残ったので、ヒメノさんが僕の腹に転がっている死体を短剣で掻っ捌く。どかしてからでも良いと思うわけです。

 一仕事した、みたいな表情で満足しているので野暮なツッコミは控えるけどさ。


「遙人さんが片手間にモンスターを倒していくので、活躍するチャンスを窺っていたのです。

 私の杖捌き、どうでした?」

「キミのその姿には鞭こそよく似合う。杖は……まぁ良いんじゃないですか」


「私の鎌捌きは如何でしたか?」

「僕の命が刈り奪られるかと思いました……やっぱり長柄武器に適正があるから短剣よりも強力だね、良い感じに素晴らしい」


 ヒメノさんに手を貸して貰い起き上がる。

 その顔は満足そうだ。今まで、攻撃力不足なのを気にしていた感じだったのでそれが解消されたのだろう。

 反対に、来栖さんは少ししょんぼりした表情をしている。


「お嬢様、顔にでていますぞ」


 執事さんに言われ、来栖さんは慌てて笑顔を取り繕う。

 行動のタイミングと対処に関しては、僕の見えていた範囲ではヒメノさんと差はない。


 ……おざなりな感想は不満にも思うか。

 だけど、こっちには杖ではなく鞭を使って欲しいという邪念があるから正当評価なんてできませんよ。

ブラックリストに登録する際にプレイヤー名が表示されていたのは、来栖さんに対して「アナタの奴隷です」と奴隷さんが自己紹介していたためです。

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