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026:綺麗な鞭には棘がある

 順調に進むと思っていたのは気のせいで、下水道には嫌らしい仕掛けが待ち受けていた。


 地図の目標地点に向かい進んでいくと『スウェッジスネーク』という大きめの蛇が出現するようになったのだが、こいつが難敵だった。

 物陰だったり、水面だったり、背後から忍び寄ってきたり、不意に登場して噛み付いてくるのだ。警戒はしてるんだけど、防げない場合が多い。

 ダメージとしては微々たるものだが、確実に毒状態になりHPが削れる。その量も微々たるものなんだけど、毒の状態異常の効果でたまに視界が歪む。これが厄介。


 おかげで、モンスターの攻撃を避け損ねたり、鞭を当て損ねたりというのが稀にあって、フラストレーションが……

 スウェッジスネーク自体は弱いから先手さえ打てれば無傷撃破できるんだけどなぁ。


「ぐお」


 また噛まれた。

 こういうのは免疫抗体を含む血清をドロップするのが常識のような気がするんだけど、そんなことはなく『ヘビ肉』だけを落として消滅するんだよ。

 ≪剥ぎ取り≫出来た個体からは『ヘビ皮』だし。


 毒自体の治療は回復スライムで可能だ。

 これが万能らしく、軽度の毒状態なら余裕で治療してしまう。


 ただ、噛まれる頻度が高いので毎回使っていたら余裕の赤字になるのでHPが三割以上減ったら使うようにしている。

 下水道に来る前に10個買って、一時間で4個使用のペースだ。


 鞭を振り上げて叩く。が、珍しく回避された。地面を叩く空振り音がして――おっ。

 スウェッジスネークの動きが止まる。こいつ、音に弱かったりする?


「ヒメノさん、待機。少し試す」


 二度、三度。地面を叩くが、そのたびにヘビさんは体を硬直させれるのでこれは確定だ。よし。

 ≪ロングウィップ≫で絞め殺して『ヘビ肉』を回収する。


「こいつら、どうやら音に弱いみたいだね」

「そのようです。慎重に警戒して隠密行動をしていたのが仇となりましたね」

「だね。んー、会話しながら歩いてみる? そんなに話題が豊富じゃないから厳しいんだけど……」

「私も……そうですね。では、しりとりをしませんか?」

「おっけー。それで行こうか」


 会話モードを『パーティ限定/外部音声視聴』に切り替えて、準備万端。

 別に聞かれて困る会話をするワケではないが、スウェッジスネーク対策に大声を出してのしりとり。流石に通りすがりのプレイヤーに聞かれてると恥ずかしい。


 みせてやる、子供の頃に妹を泣かせた『る』攻めの力というヤツをな!


「では、私が先手を取らせて貰います――――メイド」

「ドリル」「ルビー」「イスラエル」「ルームサービス」「スキル」「ループ」「プール」「瑠璃」「リール」「ルクセンブルグ」「グール」「ルナ」「ナックル」「ルアー」「アップル」「ルーム」「む……ムニエル」「ルーペ」「ヘービーメタル」「ルシフェル」


「る!? ……くっ、馬鹿なッ。この僕が負けるだぐほぉッ!」


 しりとりに熱中していたら、岩石頭魚さんに激突されて大幅にHPが削られる。

 ヒメノさんが僕に回復スライムを投擲し、僕は次の攻撃に備えて鞭を構える。


 まったく、やってくれるな!


 *


「……会話すると集中力が削げるなぁ。しかし、まさか敗北するとは思わなかった」

「ルシフェル、ルイス・キャロルは最終手段です。ハルト様も覚えておかれると便利かと」

「そうするよ……喋るのをやめて、普通に警戒して歩こうか」


 会話モードを通常に戻し、雑魚を蹴散らしつつ適度に鞭で地面を叩いて音を出して歩く。

 確実に勝つ勝負だと思ってたんだけど、ヒメノさんのことを甘く見ていた……地球人しか知り合えない単語も普通に使ってくるからね。メイドとはいったいどういう教育をされているのか。


 しばらく歩くと、鞭屋と食堂で見かけた金髪ツインテさんを発見したので足を止める。

 槍を持った執事を連れて戦闘をしており、茨鞭の勇姿をコッソリ眺めようと思ったのだけど――――


「なん、だと……」


 その戦闘内容は、ガッカリする物だった。

 信じられないことに、鞭を使わず素手で戦ってやがる。


 こう、妹がやってる羽鳥覇源流の相手を殺しに行くような動きではない。

 受け身を中心とした普通の合気道とか、そんな感じの。


 防戦を主体にして、崩れた場所に執事さんが槍で攻撃するスタイルだ。

 ツインテさんが防ぎ、執事さんが攻める。

 普通、キャラの役割が逆のような気がするんだけど、気にしてはいけないのか。


 しかし、もどかしいッ……


「ええい! 何故そこで鞭を使わんッ!」


 思わず叫んでしまった。

 その声に釣られ金髪ツインテさんが振り向いた隙に、スウェッジマウスの噛み付く攻撃が顔面に直撃した。金髪さんは体勢を崩して尻餅を付き、一方的に攻撃される。

 執事さんは槍で払おうとするも、ゲスイコウモリが寄って来てそれを妨害する。


「ハルト様……」


 ああ、言わずとも分ってる。

 僕が原因で戦況が悪くなったので、助けた上で回復スライムを譲渡するぐらいのフォローは必要だろう。


 まったく仕方がない。が、良い機会だ。


「見せてやる。本当の鞭術ってヤツをな!」


 金髪さんを襲っているスウェッジマウスを≪ウィップスピアー≫で串刺しにする。

 丁度鞭先が金髪さんの眼前に迫る感じになったので「ひぃ」と情けない声を出されるけど不可抗力だ、許して欲しい。

 続いて、ゲスイコウモリを鞭で払い、汚水に浸け溺死させる。こうすることによって、死体が浮いて≪剥ぎ取り≫可能な状態になりやすくなるのだ……体感だけど。

 びちゃびちゃと溺れるコウモリを見て、金髪さんが顔をひくつかせている。


「あー、余計な声かけてすいませんでした」

「い、いえ。変態さんのおかげで助かりました」


「……」

「……」


「ハルト様が変態なのは否定できませんね」


 何故、ほとんど喋ったことがない人に変態認定を受けているのか。


「じ、事実ですから謝りません」

「そうですね。事実ですので謝る必要はありません。

 が、事実を直視して心が傷ついた人がいることをお忘れ無く」

「……」


 お姫様ロールプレイなんだから生暖かい目で見守ってあげよう。

 ヒメノさんに視線をやり、追加でお小言を言いそうなのを止めさせておく。


 むしろ、ヒメノさんの言動に僕が傷つく可能性が高いからね、残念ながら。


 しかし、この金髪さんは……なんでこんなとこにいるんだろ。

 正直、スウェジマウスとゲスイコウモリを駆除するのに苦労してたらこんな奥まで入り込めないと思うんだけど。

 とりあえず、それは置いといて回復させるか。


「えーっと、回復スライムのカルビ味とコンソメ味どっちが良いですか?」

「……他の味はないのですか?」

「ないです」


 本当はあとストロベリーが一個残っている。が、これはヒメノさん用だ。

 親しくない人に渡すだけの残数ではないので、好みの味ではなくても我慢して貰おう。


「執事さんは、どっちが良いですか?」

「助けて頂いたのに、そんな施しまで受けるのは申し訳ありません」


 ……めんどくさかったので、金髪さんにはカルビ味を。執事さんにはコンソメ味をゆっくりと放り投げた。

 執事さんは見事にキャッチして礼を。金髪さんは顔面で受け止めてキツイ視線を。


「す、すいません」

「……いえ」

「…………」


 気まずい空間が形成される。くっ、この空気。

 話題を切り替えなくてはならない。えっと、あれだ。何故鞭を使っていないのか。見た感じではかなりの完成度だというのに理由がわからない。

 途中試作で四本しか茨が付いていないことで、なにかバランスが悪かったりするのだろうか。


「ちょっと触らして貰って良いですか?」

「……倫理規制でフィルタかけて良いですか?」

「…………何故でしょう」

「セクハラされましたから」


 くっ……何故だ。今の言動の何がいけなかった。

 ほぼ初対面なのにこの人は何故僕に対する好感度がこうも低い。

 むしろ、感謝されても良いレベルだ。最適な鞭を選んで、その鞭のカスタマイズにも一役――――くっ……僕の自腹でイジらせて貰った薔薇のモチーフが取り外されている!

 これは気付かなければよかった、ぞ……くおそおおあああkッ。


「ハルト様、おそらく主語が抜けてます」

「くっ……? ……ああ。すいません。

 胸じゃないです。鞭、触らせてもらって良いですか?」


「……何故です?」

「いや、戦闘中に使っていなかったのでバランスが悪かったのかなー、とか気になりまして」

「そうですか。変……あなたは鞭に詳しかったですよね。どうぞ、使ってみて下さい。

 その代わり、そちらの鞭もお借りして良いですか?」

「ええ、どうぞ。大切に扱ってくださいね」


 鞭を一時的に交換する。

 ひゅん。ひゅん。ひゅん……おお、これはコレで良いものだ。まったくもって問題ない。


「おっ」


 良い感じにスェッジマウスさんがやってきた。このまま戦闘させて貰おうか。

 薄紅桜蛇よりも射程が50cmぐらい短いな。


 ちょいと距離に注意して……ほいさ。


 鞭を当てると、スウェッジマウスのHPが二割減った。僕の薄紅桜蛇より攻撃力が低い。

 やっぱり、未完成品ってのがあるのかもしれない。


 スキルの挙動はどんな違いがあるんだろう?

 ≪ウィップスピアー≫を使うと、四本の茨が一つに巻き付いて敵の体を貫いた。


「おお、これは盛り上がる」


 良い、すごく良い。茨を巻く動作があったので微妙に発動が遅い感じだったが、スキルの攻撃力は確実に高くなってるだろう。見た目が派手だ。他のスキルも使いたいな。


 おお、これまた良い所に岩石頭魚さんがきた!


 薄紅桜蛇の試し打ちに悪戦苦闘している金髪さんを狙っているので、「金髪さん!」と警告したのだが、彼女は名前を呼ばれただけでは状況を察しない。

 距離があるから庇うのは無理だぞ?


「スラッシュエッジ!」


 ヒメノさんが水面に向かってスキルを放つ。ナイスだ。

 そこで金髪&執事の主従コンビも敵が来ていることに気付いてそれぞれ臨戦態勢になる。


 ……が。執事さんは水面に槍を突いてことごとく攻撃を回避され、金髪さんも鞭で水面を叩く作業をしている。

 なんとも、もどかしい戦闘だ。

 せめて鞭スキルや槍スキルを使って攻撃すれば良いのに。


 ≪ロングウィップ≫で巻き取る戦法は今回は無理だ、たぶん鞭が短いので長さが足りない。

 ダメージ覚悟で、サクッと倒すか。幸い、現在はHPが満タンだ。


 僕は自ら汚水に飛び込み、岩石頭魚が近づいてくるのを待つ――きた。

 そのタイミングに合わせてッ!


「ディバイン・ドリライザァァァーッ!」


 エクストラスキルを、必殺技をお見舞いしてやる。「ぐぉ」と、攻撃を当てたと当時に噛まれてダメージを受けるが、この噛み付いてくれている間にさらに連続で攻撃をお見舞いする。


「ゴォッド・ハンド」


 ばしぃぃッ、ばしいいッ!

 水面越しに叩く、叩く。叩いた所で岩石頭魚さんが白目を剥いて浮いてきた。

 コイツを≪剥ぎ取り≫状態にできたのは始めてた。刺身にして追加アイテム! ヒャッハァ! とか思っていたら、裂けない。


「ハルト様、これを使って下さい」


 ヒメノさんが短剣を寄越してくれたので、ソイツで腹を破って手を突っ込む。

 入手できたのは『岩石頭魚の頭蓋』、これは武器屋とかに持ち込んだら加工して貰えるタイプのアイテムかな? 用途が分るまで、売ってお金にするのは避けておくか。

 なんだか猛烈にテンションがあがってきた。もう少し、この鞭を使わせて貰ってモンスターを狩りたい。

 薄紅桜蛇ちゃんのように堅実な物も良いんだけど、現実で使ったことがない鞭というのはやはり心が躍るワケで、色々と盛り上がってくるのだ。

 この鞭で≪ダブルスネイク≫使ったらどうなるだろ。やっぱり四本エフェクトが表示されるんだろうか――――


「いやぁ、それにしてもこの鞭は良い鞭だ。金髪さんが素手で戦っている意味がわからない。本当に素晴らしいよこれ。確かに射程は短いけどその分は痛覚ダメージが増えているハズだし、僕の使ってるストックウィップのようなタイプよりも貫通力がある。ディバイン・ドリライザーなんてまさにドリルな迫力だったし、たまらんねコレ。惜しむべくはまだ未完成なことだ。いや、これは作成途中の鞭に触れることができたので素晴らしい体験だった気がする。これで完成品も触らせて貰えれば二粒おいしいし。コイツが完成するのが楽しみだなぁ。たまらないなぁ。スーリスリ……痛っ。ああ、棘があるから頬ずりすると痛いよな、ッハッハッハ!」

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