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024:放置を推奨される

 鼻をくすぐる、甘い香り。少し前にも、何処かで嗅いだ気がする……


「また、負けたのか……」


 緩やかに僕の意識は覚醒した。ベッドに寝転んでいる感触がする。枕が微妙に高くて寝苦しい。

 目を開けると、巨大な山がある。巨峰だ。思考が一瞬フリーズして――――……なんでこうなっている?


 少し考えたが、理由がわからなかった。


「起きたようね」

「……ええ、おかげさまで」


 僕は、さっき戦った相手に膝枕をされていた。

 目を擦って見上げると、やっぱり大きな乳が自己主張をしていて……ありがとうございます。


「名前を覚えて貰う程度には健闘できたと思う?」

「駄目ですね。思った以上に、壁が厚かったです」

「そう。あなたがそう思っているならそうなんでしょう、あなたの中ではね……私は名前を覚えたわよ。シシドハルトくん」


 婬魔さんが立ち上がり、頭が布団にぽとん、と落下する。何故だかそれが心地よい。

 手をひらひら振り退室する彼女を横目で見送った。


 部屋でひとりになると、また負けたー! という思いが強くなってくる。

 これじゃぁ、ヒメノさんが実力を発揮できないぶんの穴が埋められないな。精進しないと……

 そういえば、ここは何処だ。結構ベッドとか並んでいて――兵士の仮眠室的な場所かな?


 部屋から出ると、犬耳の兵士さんに「起きられましたか」と声をかけられる。

 場所を尋ねてみると兵舎の仮眠室で、予想は正解だったようだ。案内してもらい、軍曹がいる広間に戻る。


「ありがとうございます」

「いえ。では私はこれで」


「軍曹」

「おお、少年。気が付いたか。まったく、黒薔薇と戦うとは無茶をする」


 黒薔薇か、なるほど……彼女の武器『漆黒の茨鞭(仮称)』からの異名だろう。あれは良い鞭だった。おそらく、ヴァレリアさんの作品だな。

 目をつぶって記憶を起こせば、店先に置いてあった茨鞭と同様の意匠を感じる。


「自分の力量を高く見積もりすぎていました。一矢報いれるつもりではいましたから」

「……良い負け方をしたようだな。

 次は適正な相手を見繕ってやるから、その気になったらまた俺を訪ねてこい」


 軍曹に頭をガシガシとされ、「後日窺います」と再度の訪問を約束し、僕は魔王城を後にした。

 ここ数日で五回も敗北しているので、適正な相手とはいえ挑むのはもう少し後にする。プレイ制限の時間まで……あと二時間ぐらいだな。折角なので、下水道で資金を稼ぐことにしよう。


 ――――そんなことを考えていたのに。

 マンホールから飛び降りて落下ダメージの検証中、瀕死になった場面で岩石頭魚さんが「おいすー」して六回目の敗北。

 心の汗を拭きながら再び下水道に突入し、時間いっぱいモンスターを狩ってゲーム二日目は終了した。


 *


 家族四人でニュースを見ながら平和な夕飯の済ませ、自室で夏休みの課題を消化していると妹がやってきた。


「兄さん、今日は……倉嶋サンと一緒にやったんですか?」

「いや、ひとりだよ」

「……そうですか。では、あにきと連絡を取りましたか?」

「いや、取ってない」

「……そうですか」


 そして心が痛くなる質問を二連続し、僕のHPゲージが四割ぐらい減った。もうすぐ七回目の敗北をします。

 勉強する気力が完全に失せ、ゴロゴロとシャーペンを転がし、伸びをする。

 ひとまず、入り口で立ったままの妹を座布団(妹専用)に座らせ、詳しく話を聞くことにしよう。


「ゲームをやっている最中、あにきのメイドだと名乗る人が私の元を訪れました」

「兄貴が僕らに対してアクションを取ったってこと?」


 言われた事実に、驚く。兄貴にメールを送らなくて正解だかな。焦れたっぽい。

 良い傾向ならさらに嬉しいんだけど……苦笑した感じの妹を見るに、進展はないようだ。


「その様子だと、まだ会っていないようですね。

 兄さんの拠点を聞かれたので、『深淵の楔』と答えておいたのですが……」

「拠点に戻らずログアウトしたから、たぶん入れ違いだ」


 メイド……カエデさんは、妹の元に兄貴と連絡を取らないように言いに来たらしい。

 何故かと聞いたら、「もう少し御身のことを考えて頂きたいので」と言われたと。言葉足らずでよく分らないが、姫香的にはそれに従った、と。

 どうにも、兄貴が僕らを意識してくれたワケじゃなさそうだ。

 兄貴は小洒落たやりとりが好きなので、伝言を残すなら「残念だったな、今は会うことができない」「レベルを上げて出直しな」「この戦いにはついてこれまい」的なメッセージが確実に含まれるハズだし。


 そうなると、メイドさんが兄貴の意志とは関係なく動いているというのが疑問だ。

 関係が上手く築けていないヒメノさんですら僕の意志を汲むことを最優先に行動している節があるのだけど、兄貴は一体どういう状況なんだろう。

 まあ、妹の話を聞く限りでは、明日僕がログインしたときにカエデさんと会うことになる。寝る前に公式サイトでも見ながら聞きたいことを考えておくことにしよう。


「それで、兄さんはどこのダンジョン攻略に行きましたか?」

「下水道。そっちは?」

「ギルドの初心者用ダンジョンですね。えーっと、ネタバレをして良い感じです?」

「ストーリー的なものは互いに伏せることにしようか。

 モンスターの情報は雑魚は良いけど、ボス関連は秘密にする感じで」

「了解です」


 妹とお互いの戦果を確認し、なかなかに盛り上がる。

 夕飯のときは父母が一緒にいるし話せなかったんだよね。


 僕が連敗を重ねている間に、妹はバリバリ突き進んでボスと相対し、敗北した。

 雑魚モンスターで刀が通り難い敵が何匹かいたが、目玉をくり抜いたり口の中、耳の中、尻の中など脆そうな場所を突いて突破。

 ユキちゃんも刀なので武器特性が偏るんだけど、その点は問題なかったようだ。


 僕も鞭には矜持があるので、妹の無理矢理突破話を聞いていると凄いと思う反面、悔しくもある。

 だが、聞いていて岩石頭魚さんの攻略法を思いついた。一人で下水道に潜ったときは遭遇する度に逃亡させてもらったが、明日はそうはいかない。刺身にしてやるぜ、うおお-! 魚だけに、と心に誓う。


 話し込んでいたら、22時だ。

 課題の続きをやる気も起きないし、風呂に入って公式サイトを眺めながら寝ますかね。

 筋トレとかは……『SINRIN』からプロテイン(バニラ味)が届く明日以降に開始ということで。


 今日は、こんな感じでおしまいだな。


 *


 公式よろずサイト - 初心者FAQ


 掲示板で多くよせられた質問をピックアップして掲載しています。


Q.初めに選んだ従者の種族は変更できないの? 容姿は?

A.胸のサイズ、筋肉量のみアイテムによって可能です。 → 課金項目一覧

  その他はできません、不満なら解雇して雇い直してください。あなたは最低のご主人様ですね。


Q.複数の従者を雇うことはできませんか?

A.出来ます。頑張って冒険者ランクを上げましょう。また、課金によってアンロックすることもできます。

  ランクがあがればプレイヤー&従者だけで六人パーティが組めるので、リアルソロプレイの人でも強力なボスに挑戦できます。

  ※従者が二人以上の場合は拠点を無料宿から変更or個別に手配する必要が有り


Q.従者のプレイヤーに対する好感度が低いのですが

A.あなたに問題があります。胸に手を当てて理由を考えましょう。


Q.○○が他の種族に比べて弱い気がするんだけど

A.隣の芝生が青く見えるだけです。種族毎の得手不得手を理解した立ち回りをしましょう。

  付け加えるなら、従者の強さはプレイヤースキルに依存するので、あなたが弱いです。

  ただ、戦闘に弱く生産が得意な種族も存在します。雇用する際、見た目で即決せずに説明に目を通すことを推奨します。


Q.従者の中で時間経過の概念はどうなってるの?

A.基本的には無視されます。ただ、「○時間後に」と約束した場合はそれに準じて対応が変化します。

  ダンジョン内で「また明日」などと言ってログアウトすると大変なことになるので注意しましょう。

  また、ログアウトしている時間帯に「○○をしておいて」とお願いすることもできます。


Q.攻撃力のバランスおかしくね? 簡単に死ねるんだが

A.防具を整え、回復アイテムを惜しまず使うだけで死亡率は格段に下がりますよ。


Q.キリットしたソロプレイがしたいのですが

A.拠点を決定した後は、従者をそこに待機させることができます。

  「待っていてくれ」「必ず戻る」「次の冒険が終わったら結婚しよう」のようなセリフを言えば大丈夫です。

  拒絶するような言葉で待機させるのは、推奨しません。例:「俺は……ソロだ!」


Q.NPCの会話中にある攻略のヒントが分かり難い

A.メニューからヒストリーを観覧しましょう。ヒントになる会話はスクラップされています。


Q.魔力の色が桃色だったり、水色だったりする人がいるんだけど

A.課金すれば、魔力色の範疇内で変更することができます。 詳しくは → 課金項目一覧


Q.見たこともないスキルを使ってるヤツがいるんだがチートじゃね?

A.それはエクストラスキルです。あたなにも使えるはず。想像しましょう、あなただけの最強必殺技を。


Q.モンスターがグロテスクで気持ち悪い

A.オプション → 倫理規制 の項目内に、モンスターをデフォルメする設定があります。


Q.通りすがりのプレイヤーが従者とバカップルやってて不快

A.オプション → 倫理規制 の項目内に、恋人関係の男女を視界と会話から完全に消す設定があります。 


Q.ストーリークエストのクリアまでどの程度かかりますか?

A.4320時間を想定しています。


Q.獣耳が生えていない種族に、猫耳を装備させるアイテムはありませんか?

A.あります。商業街・南にある道具屋『人類の希望』で販売しています。

  猫耳だけではなく、兎、犬、狐、虎、豹など、各種取り揃えております。カラーバリエーションも多量です。

  一般普及品から、防御魔法が付加してある高級品まであるので是非御覧になってください。

  あなたの従者にぴったりな獣耳が見つかるでしょう。また、尻尾も取り扱っています。


Q.メイドさんにドロワーズではなくパンツを穿いて欲しい

A.好感度を上げてプレゼントしましょう。添い寝してくれる程度に親密なら、おそらく着替えてくれるでしょう。

  ただ、MBOの世界では下着は日本での水着と同様の扱いなので、羞恥は少なめかもしれません。


Q.執事にボクサーパンツではなくブーメランパンツを穿いて欲しい

A.プレゼントしましょう。プレイヤーが女性の場合、好感度関係なしに着替えてくれる場合が多いです。

  羞恥心がある性格の場合、添い寝してくれる程度に親密でないと穿かすことが難しいでしょう。

  ※プレイヤーが男性の場合、正気を疑われて好感度が下がります。(同性愛に性格設定している場合を除く)

  ※どうしても穿かせたい場合は、知り合いの女性プレイヤー経由でプレゼントして貰うと良いかもしれません。

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