表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/76

023:連敗を重ねる作業

 肉屋『ジャクリーン・リッパー』に移動してドロップした素材の売却をすると2,600Gになった。

 一時間程度しか下水道に籠もっていないので、こんなものだろと納得する。

 意外と現実的な数字だ……なんせ、ネズミ肉、コウモリ肉ばかりだったからなぁ。


 ≪剥ぎ取り≫スキルを使った場合に良い素材が手に入る可能性もあるらしいのだが、今回はリアルラックがなかったようで出現しなかった。

 剥ぎ取り出来る状態で倒れたモンスターが七体と少なく、すべて『○○肉×2』だったもの。


 下水道に住んでいるモンスターの肉は、一部のアンデット系の種族しか食べないので需要が低いそうだ。しかし、供給量も低いのでそれなりに高く売れてこの値段だという。


『人が少ないので敵から得たアイテムの需要もあるから換金効率が良いと思うんだ』


 とか言っていた数時間前の自分を殴ってやりたい気もする。

 需要がピンポイントで売却先すら限られていたからね……

 よく考えると、ガイドブックに紹介してあった物はすべて初心者向けなのだから、経験値とか金銭的なものに差が無いようになっているのだろう。


 今いる肉屋さんには、結構ゲテモノ的な肉、珍品な肉が売っている。名称からして昆虫系の肉だったり、紫、黄色をした肉だとか。これらも食べる種族がピンポイントだったり、純粋に珍しかったり。

 ゴーストという種族、つまりアンデットという枠内であるヒメノさんに対して「この肉を食べるの?」とは聞けなかった。「食べられます」なんて言われた日には僕の幻想が殺される。

 食生活については、宿屋で一緒に食事をする際に探っていこうと思います。


「この世界の猫耳ハ、ネズミの肉を食べないゾ。フフ」


 神妙な顔をしていた僕に、店主が言う。異世界人がこの店舗に寄ると大抵聞かれるらしい。うん、良かった。

 ついでにゴーストのことも教えて欲しかったが、そこまでは察してくれなかった。


「私ハ、生肉大好物。フフ」


 店主はゾンビ少女です。顔が青白い少女です。

 黒いキャミソールに赤いリボン、です……可愛い顔して生肉を食べます。


「またお世話になると思うんで、そのときはお願いします」

「うん、またきてネー」


 さて、本日の収入の使い道だが……


「この金額だと、武器は厳しいなぁ」

「そうですね。最低でも5,000Gは必要です。

 防具にするにしても、皮鎧で3,000G程でしょうか。今の衣類を強化するにしても同程度必要ですね」


 強化――セラレドも修繕云々のときに軽く触れてたな。

 防具を買うより防御力は低いんだろうけど、今の服装をそのまま流用できるというのは非常に魅力的だ。

 HMEの仮面設定からコンバートしただけの僕は学ランを着ているワケだけど、この格好をとても気に入っている。

 僕らが住んでいる地域の学校は中学、高校とブレザーのため、学ランという存在には微妙に憧れがあるのだ。番長的な雰囲気に。漫画に登場するようなキャラも学ランを着ていることが多いし。


「じゃあ、予備の服装を買おうか。んー、800Gくらい?」

「防御力がないものなら、600G~ですね。生地や装飾によって値段がかなり変動してきます。

 ハルト様が着ている程度のものでしたら、私の≪裁縫≫スキルで複製することも可能ですが?」

「……お願いしちゃって大丈夫?」

「はい。メイドの本業です、お任せ下さい。今晩中に仕上げてしまいます。

 お召しになっている服についても、寝る前に私にお渡し頂ければ修繕します」


 そこから、ヒメノさんの行動は閃光のようだった。メジャーを取り出したかと思うと、往来であることなど気にせず僕の採寸をそそくさと済ませ、手帳に数値を書込む。

 これが、本業のメイド……と、恐々としてしまった。


「……宿屋に戻ろうか。そこからお互いに自由行動で」

「私は服を縫いますが、ハルト様はどうするので?」

「お城へ、軍曹に鞭の技を学びに行こうかと」


 *


 城門前までマップから移動し、軍曹の元へ向かう。

 兵舎の前では、初日と違い多くの兵士が武器を片手に訓練をしている。模擬戦だったり、素振りだったり、内容は人それぞれだ。

 軍曹はどこに――――いた。


「軍曹!」

「おお、少年か。腰にあるその得物は――」

「ええ。貴族街にある店で無事に購入できました。名前は薄紅桜蛇」

「ほう、銘入りか。結構値段がしただろう。で、今日は何の用だ?」

「鞭屋の人が、城でも鞭の講習を受けれると言っていたので」

「なるほどな。見たところ、少年は基本スキルは押えているようだな。よし、俺の技を伝授してやろう」


 新鞭スキルくる! 下水道攻略でも役にたつものだと二粒おいしいのだが、今回はどんな技なんだろう。

 相手をするのは、広場の片隅にあるわら人形。短剣のときと同じだ。セラレドの訓練を受けた後だと若干物足りない気がしないでもない。

 だが、訓練の難易度は異様に高い。今まで覚えている鞭スキルとは違い、魔力で鞭の動作を制御する必要があるからだ。

 頭上で鞭をしならせ蜷局を巻かせるという動作が、なかなか出来ない。


「ぐ、難しいですね」

「腕を動かした時の動きと、実際に動く鞭の動作に乖離があるのを頭が無意識に拒絶するんだろう。

 もう少し、頭を柔らかくしろ。魔力で操ることを考えるんだ」


 なるほど。言われてみるとその通り。

 そもそも、鞭本体に素人でも使えるようにアシストが働いているのだ。頭から失念していたけど、購入前に説明を受けていた。思考による若干の動作コントロール。「戻れ」と念じれば収納形態に戻るという便利機能はバリバリ活用してるけど、動作アシストはプレイヤースキルで事足りる範疇なので使っていなかった。

 要するに、魔力と思考を織り交ぜれば軍曹が求めている動作ができるようになるんだな、よし。


 回転、回転する、回る、メリーゴーランド。ドリル、サイクロン、竜巻――――これだ。

 目を閉じ、脳内で竜巻を回転させる。手を回して、回転速度を上げる。このイメージ……


「良いぞ、その調子だ! そのまま維持しろ!」


 維持、維持、回すまわす回転させる。竜巻を、大きくする。いける!

 目を開け、鞭の軌道を見るとイメージ通り渦になっている。


「そのまま、腰まで引いて前に出せ! 名前を――――」

「ディバイン・ドリライザァァーッ!」


 荒ぶる鞭は、わら人形の胴体へ直撃し、貫通するッ!


「フ、フフ……」


 すごい、威力だ。短剣スキルである≪ディバイン・ディザスター≫と同列のエクストラスキルのハズなのだが、威力にかなり差がある気がする。

 ……いや、支給武装である短剣と、ヴァレリアさん謹製の薄紅桜蛇の攻撃力の違いが如実に出ているのか。やはり、これは良い鞭だ……桜蛇たんちゅちゅ。


「上出来だ。もう少し苦労すると思ったが、初回であっさり成功させちまうとは」

「伊達に日本でも鞭を握っていませんよ」

「よし。では模擬戦だ。相手は――――」


「私が相手になってあげるわ」


 声と共に、甘い香り。

 振り返ると、そこには軍服に漆黒の茨鞭を持った女性が立っていた。黒髪の、婬魔。ハート型の尻尾がゆらゆらと揺れている。

 実力は――おそらく格上。セラレドと訓練をしたときのような圧力を自然と感じさせる。


 ……盛り上がってきた。相手にとって不足はない。


「フィレリア、オマエじゃあ実力差がありすぎる」

「勿論、手加減するわよ」

「しかしだな――――」


「軍曹、やらせて下さい」

「……一方的な展開になるぞ?」


 軍曹の問いに、笑顔で答えた。

 胸を借りるつもりで、やらせてもらうさ。


「ふふ、坊や良い目をしてるわ」

「宍戸遙人です。一応、名前を覚えて貰う程度には健闘しようと思ってますよっ――」


 言いながら、鞭を抜いて攻撃を仕掛ける。まずは、横なぎに一振りッ!

 ひゅん、と。風を斬る音がして攻撃が回避される。


「早漏は嫌われるわよ」

「ご忠告どうも。回数で挽回させてもらいますよ!」


 ひゅん、ひゅん、と続けざまに振るう鞭も躱される。


「おい、合図も何もしていないだろ、勝手に始めるな!」


 軍曹の怒声が右から左へ流れる。婬魔さんの鞭は左から右へ―――ッ!

 回避できず、攻撃を貰う。「がぁ」っと声が出て、HPが四割損失。大きい。

 茨の鞭は、通常の鞭以上に痛覚へのダメージがあるようで、タンスの角に小指をぶつけた程の激痛が襲いかかる。≪痛覚鋭敏≫をセットした状態ではなくとも、これは厳しそうだ。

 だが、痛みを受ければ≪痛覚愉悦≫の効果で汁麻薬が分泌される。

 テンションが上がり、闘志が燃えて集中力も俄然高くなる。


「んっ……手加減したけどかなり喰らうわね。それ」


 再び振るわれる鞭。これは、自分の鞭で絡め取って受け流すッ!

 やるわね、と言う表情で婬魔さんがさらに連続で攻撃を仕掛けてくる。

 今度のは、スキル。≪ダブルスネイク≫の上位版だろうか。無数の、数え切れない鞭が僕を襲う。


「くっ……!」


 すべて実体、どれにも攻撃力がある。当れば、きっと一撃で終わる。

 ≪ステップ≫を使い、なんとか地面に転がって無様に回避。≪受け身≫で姿勢を強制回復。


「グラウェイト! ロングウィップ!」


 続けざまに音声によるスキル起動で攻撃を仕掛ける。

 が、それは何も強化していない鞭にただ、打ち払われる。たまらない。


 劣勢。ただ、覆しようもない事実。


「ゴォォッド・ハンドッ!」


 僕の技はまったく通用せず、軽くいなされる。


「残念賞。私とやり合うには実力不足ね」


 なんの、一矢ぐらいは報いてみせるッ! そんな風に思った瞬間に彼女は僕の視界から消え――

 ぎゅっと、背中に柔らかい感触がした。


 ふぅーっと、吐息が耳に掛かる。婬魔の香り。


「ハルト、あなたはこれからきっと強くなる。私に手が届く程に、ね。

 でも今は、まだまだ、ね。精進しなさい」

「ぐあああああああああッ!」


 茨に絡め取られ、僕の意識は本日二度目の暗転をするのだった。

装備している武器に「気に入った」という感情を抱いている場合に起きる遭遇イベント。

武器に応じた対戦相手が登場し、レベルが上がった際の理想的な動きを演じてくれます。何度か模擬戦をして対戦相手を撃破すればチャレンジが可能になり、倒すとエクストラスキルを入手が可能。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ