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019:ストロベリー

 ログインして、棺の中に寝転びつつガイドブックを読んでいると、ノックの音がした。

 ヒメノさんが来たようだ。「どうぞ」と返事をし、姿勢を正して部屋に向かい入れる。

 こういうときの作法はどうするんだっけ……と思いながら自分は棺の上に座り、彼女には椅子へ座ってもらう。


「結論から言えば、下水道へ行こうと思う」

「なぜでしょうか? 個人的には理由がないなら反対をしたいのですが」

「質問を返すけど、ヒメノさんが行きたくない理由は?」

「……臭いが、少々。同ランク帯のモンスターは他の場所にもいるので、劣悪な環境を選ぶ必要はないかと」

「そう、それが理由。ガイドブックにも腐臭がするのでオススメしないよーって記述があったし、人が少ないので敵から得たアイテムの需要もあるから換金効率が良いと思うんだ。

 獲物が小さいから鞭の訓練に丁度良いってのもあるかな」


 他にも、≪暗闇耐性≫のスキルが役立ちそうだ、とか。好きな漫画で一話から下水道での戦闘があったのを思い出してそれに習いたかったという理由もある。

 尤も考慮したのはヒメノさんの立ち位置なんだけど……これは、現状把握という意味でも言葉にして確認するべきだよなぁ。

 好感度がまた下がるような気がしてならないけど、避けて通るわけにはいかない。


「最大の理由は、言いにくいんだけど……ヒメノさんの耐久力の問題。

 昨日、ヒメノさんは模擬戦で亮平の撃った弾丸を貰って一撃死したよね。ユキちゃんは『八発貰って死亡しました』と言ってたし、耐久力がなさすぎる。頭部に喰らってたからクリティカルヒットだってのもあると思うんだけど、それでも三発は耐えれない。どう?」

「その認識で間違い有りません。

 私たちゴーストは、憑依をしないと本来の半分程度の力しか出すことができませんので」


「なら、僕が下水道を選んだ理由が分かるよね?」

「はい。納得できました。

 下水道にいるモンスターは小型で素早いですが、攻撃力は低いものばかりです。下手に攻撃を受けても瀕死状態になることもありませんし、回復スライムを買ってからいけば事故も防げるでしょう。

 ハルト様の鞭捌きなら、相手が素早くても多量に討ち漏らす心配もなさそうです」


 ヒメノさんに僕の鞭術が評価されている。すごい嬉しいんですけど。ニヤけそうな顔を必死に堪える。

 ただ、ヒメノさんの意見に問題箇所があった。これは、懸念事項だ。


「回復スライムって値段はどの程度?」

「スタンダードな商品ですと、200Gですね。残金は1,260G程あるので、限度額まで使って6個程購入しておきましょう」

「ごめん、午前中に使ってしまって260Gしか残ってないんだ。1個しか買えない、ね……」

「……」


 視線が冷たい。し、仕方がないんだ。

 セラレドの訓練を受けた後は余韻が残ってハイテンションだったし。脳内麻薬ドパドパでてた気がするし。そんな状態だったので無駄遣いぐらい……する。

 いや、あの出費は無駄ではないけど。

 いずれ鞭使いとなる女性への贈り物だし、紳士的で素晴らしい出費だ。


「そ、そう言えばヒメノさんは財布持ってないの?」


 会話を逸らそうと、思いつくままに発言して瞬間的に後悔した。

 これでは、タチの悪い駄目男だ。ヒメノさんも僕から視線を逸らして――あれ? この反応はなんなのだろうか。


「非常に、遺憾で、言いづらいのですが……私は、研修中のメイドです」


 ≪ クエスト:『メイド研修期間が開始』が発生しました。 ≫


 ヒメノさんにして貰った説明を要約すると、魔王城に勤めるメイド・執事の規則で、レベルが10を越えるまでは一人前と認められずにメイド長に貯金を完全管理されるらしい。

 欲しい物があるときは申請してから購入できる――要するに、軍隊のような感じだ。


「それだと、僕ら異世界人に武器が支給されてるのに、研修生に支給されないのはおかしくない?」

「交渉術の訓練を兼ねているのです。メイドたるもの、主人の代理で買い物に出る機会など多いので」


 主人へお小遣いを増やしてもらう交渉か、店舗での交渉か。果たしてどちらの訓練かは不明な気がするんだけど――要するに、対人交渉ということかな。一応、納得がいった。

 研修期間中は僕の財布から間借りする形になるので、戦闘での収支は一任してくれると言われたんだけども完全に折半することにした。ひとまず、支度金の残り……微々たるものだけど、260Gを分割する。

 僕の鞭への投資はパーティ費用と言うことで。「ハルト様への支度金なので、気にしないでください」とヒメノさんが言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。

 そのぶん、相棒――薄紅桜蛇でモンスターを倒して稼がせて頂きます。


 金銭・道具の贈与や交換に関しては、互いのギルドカードを向けあって赤外線通信の要領で行う。

 受け渡すものを選択・提示してOKならば交換ボタンを押す。すると、トレードが発生する仕組みだ。不正防止用の魔法で詐欺が防げる便利仕様らしい。NPCに対しては、商品を受け取る際にギルドカードを提示するだけと省略されている。

 プレイヤー同士など、個人間での取り決めなのだろう。


「よし、できた。では、ヒメノさんにご相談。100G程出し合って、回復スライムを買いませんか?」

「はい、承知しました」


 僕の提案に対して、ヒメノさんは笑顔で返答してくれた。可愛い。

 初めてだよ、僕に対して笑ってくれたりしたの……

 妹に容姿は似ているといっても、やはり別人だ。この”可愛い”は妹に抱く感情とは違う、異性として魅力的に思えるニュアンス。それは僕の好きな―――――……と、この思考は駄目だ駄目だ。

 我ながら未練がましいなあ、まったく。


 はい、ばっちーん。

 嫌な思考を除去するためにおもいきり頬を叩く。≪痛覚鋭敏≫の効果が聞いているのか、思いの外痛かったのだけど気持ちはバッチリ切り替わる。うん、いける。


「ハルト様、とうとう錯乱していましたか……」

「くっ。ここは『どうしたのですか?』と聞くところじゃないんですかね?」

「ないですね。では、早速道具屋へ移動しましょう」

「いや、折角なので宿屋限定の「道具屋へ移動しましょう」」


 押し切られる形で、道具屋で購入する運びになった。

 パンフレット情報によると、回復スライムは道具屋にラインナップされている品以外にも、お土産げとして各種宿屋が少々変わり種の味を出しているそうなのだ。

 宿泊している『深淵の楔』の場合は、『血塗られた謎肉味』。折角なので試してみたかったのだが……今日、下水道から戻った際にでも個人的に買ってみることにしよう。


「あと、移動する前にヒメノさんのステータスやスキルの取得を聞きたいんだけど」

「そういえば、模擬戦の時に少し話した程度でしたね」


 ≪ ステータスから『メイド:サクラ・ヒメノ』の状態を確認できるようになりました。 ≫


「私の情報を開示しますので、確認してみてください。

 私にもハルト様の情報を……パーティ設定の、個別を選択して――そうです」


 今更ながら、パーティ間でのスキル開示方法を教えてもらう。知られたくないスキルを隠す機能もあるようなので、痛覚系スキルを隠しておこうか。

 連携を取る分には問題ないハズだし、なんとなく覚えているのを知られるのが恥ずかしい。


「私と一緒ではない間に、便利なスキルを取得されていますね。

 ≪暗闇耐性≫と≪魔力検知≫ですか。これから行く下水道は薄暗いので便利そうです」

「そっちのスキルは――――」


 ヒメノさんのスキルは≪調理≫≪裁縫≫のようなメイドさん技能が多いのだけど、実践的に使えるもは攻撃魔法に、短剣スキルだけのようだ。

 今は使えないものだと、≪武器適正:長柄≫というものを覚えている。スキル説明を見ると、ここから槍、薙刀、鎌などに分岐するようだ。

 キャラメイクの時に書いた『薙刀』が反映された結果かな?


 10分程立ち回りについて相談をした後に道具屋に移動、回復スライムを購入した。

 味はジャンケンに勝利したヒメノさんが選んで、ストロベリーである。

 またまた笑顔を頂いてしまい、それが不覚にも可愛くて。ニヤニヤしてしまったよ。


「ジャンケンで負けたのに何をニヤニヤしているんですか、不気味です」

「いや、まあ、男の子には色々あるんだよ」


 小言を貰いましたが、それすらギャップ萌えです。

 普段が厳しいので、こういう女の子らしい動作をして貰えると眼福ですよ。


 大切そうにその回復スライムをしまうこの動き、ポイント高すぎ、ます……。

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