お狐様
「穢れた目を、耳を、疲れ果てた心と手と足を奪ってあげよう。そうすれば、もう苦しみも悲しみも届くことはない」
赤い着物に狐のお面を被ったソレは言った。
たちまち光と音は奪われ、体が動かなくなる。
近づいてきた赤い着物にあたしは噛みつく。
「君は望むのか?痛みだらけの世界を。どうして」
「痛いのはあたしじゃない。あなた。それに世界は痛みだけじゃない。返して」
「ならば二度と希望が持てぬようにしてやろう」
ソレは狐のお面を外したようだ。
目が見えるようになる。
「どうだ、おぞましいだろう」
「いや、そうでもない」
「嘘つけ。口とかおぞましいはず」
「普通」
「目が蛇のようで怖いはず」
「クールな吊り目でござんすね」
「えっ、ええっ?じ、じゃあ幽霊のような肌は」
「色白で羨ましい」
「えーっ、怖がれよ。一応物の怪なのだよ」
「本物?やった友達に自慢しよ」
「お前は大丈夫だな。ハハッ・・・」
赤い着物は空気が抜けたように、地面に落ちた。
「やれやれ。友達に話しても信じてもらえないよね」
着物の中から、白い狐がぴょこっと出てきた。
「ま、お互いゆるーくいきましょうや」
狐は走り去った。
後ろ脚を引きずっているみたい。
怪我してるのかな。
「お供え物でもしてあげるか」
あたしはちょうどお稲荷様の祠の前にいたので、コンビニで買ったいなりずしを置く。
ごんぎつねみたいなお返しを期待しつつ、あたしは帰った。