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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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4.書置き


「……ブローデンは逃げてしまったぞ。」



 この言葉をハイリアルから伝えられた時、レイリーリャの頭の中の動きが止まった。

驚きの余り開かれたままの口からは、何も言葉が出なかった。


 ブローデンが昨日襲い掛かってきたゴブリンに対して余裕を持ってあしらってた様子や、昨晩『死を司る者』ドマーラルシズトを倒すのを引き受けた様子を目にして、彼女はこれを覆し逃げるとは、微塵も想像をしなかったからであった。



「…………ハイリアルさま、どういう事ですか?」



 彼女の両肩が下がり、その身体から力が抜け落ちてしまった。



「これに書いてあった。読めるか?」



 ハイリアルはブローデンが置いていった書置きを差し出した。その際彼女が呆然としている態度に対して気にする様子は無かった。

 書置きはベージュ色をした紙に、書き癖で歪んだ文字が黒いインクで無理に等間隔に並べて書かれていた。



「……少しですが、孤児院でシスターに教わりましたので読めます。」



 彼女は彼が字が読めないと見做した事に対して自尊心を傷つけられ、少し悲しく感じた。しかしそれを顔に出す事無く、両手でそれを受け取った。そして眉間に皺を寄せ、暗号を読むかのようにアクセントを付けずに音読し始めた。



「……えっと、『…ハイリアル様、臣ブローデン クランベルシグはおそれ多きながらも申し上げます。


 昨晩、死を司る者こと、ドマーラルシズトを倒す支援を行うと、申し上げました。


 然れども、改めて私の武力とドマーラルシズトの力とを比較した結果、畏れ多きながらも、ハイリアル様が無力でドマーラルシズトごときに敗北してしまうなどとは、欠片も考えたことなどございません。


 しかし私の力では、ハイリアル様を支援しドマーラルシズトごとき代物を打ち倒すには、余りにもその力が不足しております。

 

 ハイリアル様の支援どころか、足を引っ張り余計に苦しめてしまう事を、臣ブローデンは非常に恐れております。

 

 考えただけで私の心だけで無く、この手に握るペンも震え、何も書けなくなってしまいそうな程です。―――』」



 昨日一緒に居た時にブローデンが嘲笑う声と見下し口許を歪める顔が、心の中に甦る。

 その瞬間怒気が腹の底から湧き上がり、手紙を掴んだまま右手を握る力も入り、音読する口が止まってしまう。


 思わずその手で口許を抑えつけてしまう。口から出そうになったブローデンを貶す言葉は、幸い口から漏れずに済み、思わずほっとする。

 改めて気を取り直すと再び音読を始める。


 

「…………『重ね重ねハイリアル様には力が無く、ドマーラルシズトを倒せないとは欠片も思いません。

 然れども、私めがハイリアル様の足を引っ張り、大望を叶える事を妨げてしまう事を非常に恐れています。

 

 そんな無力な私めが、おめおめとハイリアル様の面前に顔を出すような、恥知らずで、不忠義な、真似は出来ません。


 それ故に、臣ブローデンは、この場から退去、させていただきますぅ。……』」



 再び彼女の音読する口が止まってしまう。

 これに書かれたハイリアルの元から逃げ出す理由が、全く理解出来ず納得出来なかった。



…………どういうこと?



 これを受け入れる事が可能な納得出来る考えは頭の中に思い浮かばなかった。釈然としないまま再び音読を始める。



「……『大海原の如く寛容な上に、連なる山々の如く沈着でいらっしゃるハイリアル様の事ですから、厚顔無恥な私でも、ハイリアル様の面前にて仕える事を許して頂ける事を想像出来ます。


 それ故にこそ、ハイリアル様のお心遣いに甘える訳にいきません。


 従って不肖ブローデン クランベルシグは、ハイリアル様の目の入らぬ所へ、立ち去らせて頂きます。


 ハイリアル様のご健闘と大望を成し遂げる事をお祈り致します。


臣、ブローデン クランベルシグ』……。」



レイリーリャはこのブローデンが書いた手紙を読み終えた。

 頭を左に傾け眉間に皺を寄せ、引きつったように右の口許が開きっぱなしになっていた。


 最後まで音読してみて、ブローデンが書いた手紙は必要以上に慇懃で回りくどいように感じた。それから書かれた弁明の内容は余りにも論理が飛躍しているように感じられ、身体に力が入らず脱力していた。



「…………わたし、あんまりアタマが良くないので読んでもよく解っておりませんけど、ブローデン様はここからにげ……出て行かれてしまって、私達とは二度と一緒に行動しないという事ですよね。」



 レイリーリャは呆れが混じった表情をしているのを自覚せぬまま、ハイリアルに疑問をぶつける。



「そうだ。……あの男、この期に及んでクドクドと言い訳を書き続け、無駄な見栄を張っているが、そうする方が余計に見映えが悪く、―――見苦しい。」



 ハイリアルはブローデンに対して怒り出すのではなく、問題を抱えたような沈んだ表情をしている。



「潔く、ドマーラルシズトに殺られたくないと、面を向って言ってくれた方が遥かにマシだがな。」



 こう論評するかのように言うと、小さく左右に首を振りながら、力が抜けるように息を吐いた。



「……ハイリアルさまぁ、メチャクチャ大変なことになっちゃったじゃないですか。どうするんですか?!」



 彼女は目を見開き、言葉は昂ぶって口から出る敬語が雑になってしまう。余りの焦りと驚き、不安が動揺となって自らを押し流し、それを自覚出来なかった。



「……こうなってしまうのも仕方が無いな。」



 彼の表情は沈んではいるが、焦るなどして動揺する事は無いように彼女には見えた。彼が逆上して彼女に怒りをぶつけるんじゃないのと疑っただけに、その反応を意外に思えた。



「なんでそんなに落ち着いていられるんですか。ブローデンさまはここにいないのですよ。ハイリアル様と、戦う力が無く、身の回りを用意することしか出来ないメイドのわたしだけなんですが。」



 興奮する彼女から出た言葉は昂っていた。大問題をそうだと捉えていないような落ち着き振りに、何か腹立たしさを感じていた。しかし、身分の差を今は意識していた為に、表に出して怒りたくなる事を抑えられていた。

 


「そうだな。元々、ブローデンに断られてしまうのは覚悟の上だったし、己立者ギルドか何かで協力者を数人程求めるつもりだったしな。


 ……それにお前は料理も作れるんだろう?なら大丈夫だ。さすがにお前にドマーラルシズトと戦う手伝いをさせるつもりは最初からないからな。」


 ハイリアルは反論するでもなく淡々としている。



「そりゃあスープ位作れますけど、……大丈夫じゃありませんよッ。


 ……そもそも、ブローデンさまでさえ戦わずに逃げ出してしまう、ドマーラルシズトとは何者なんですか!?」



 レイリーリャは喋りながら憤りのように興奮していくのを感じた。そして喋り終わった途端に、得体の知れない闇のようなものが彼女の身体を覆い始めているように思った。寒気を感じ身体が竦み震えている事をまだ自ら気付いていなかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。をクリックしてみてはいかがでしょうか。

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