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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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14.夜


 レイリーリャが色々作業を行っているうちに夕食を摂る時間になっていた。


 彼女は給仕を行っていた。

 宿が用意した食事をハイリアルが食べている横に立って控え、待ち構えている。

 彼が彼女の顔を向いて叱責をするのでは無いか不安になっている。


 しかし彼は彼女に顔を向けを叱責するどころか、話しかける事もなかった。黙々とスプーンを動かし、根菜の入ったスープを啜り食事をしている。


 彼女は余計に不安に駆られ、その視線が合いそうになるのを避けテーブルを見つめ続けていた。


 これからの随行を断った事で、彼がどれ位計画が狂い滞らせるような実害を受けるのか、彼女には具体的にどれだけの実害なのか想像は出来なかった。

 それ故に実際よりも余計に実害が多く出るように想像し、彼が激怒しそうに思え自ら心細く感じる。



 ハイリアルは眉間に皺を寄せ不機嫌そうに、焼けた肉の塊を延々と一口毎に切り分け口に入れ噛み続ける。


 彼女は怯えつつも、今か今かと待ち構え続けていた。


 そうこうするうちに彼は出された食品を全て食べ終え、何も言わずにテーブルから離れていった。

 結局彼が食事中に叱責する事は無かった。



 レイリーリャはこれから叱られるのではと不安に駆られつつも、ハイリアルに置いて行かれないよう後ろを追いかけていった。



 既に日は沈み夜となっていた。


 彼が部屋の扉を開けた。


 廊下に灯された魔道具の炎に照らされ、闇で満たされていた室内に据えられた家具の陰が浮かび上がる。


 彼は室内に入ると、窓際に据えられたテーブルの上に照明の魔道具があるのに気付いた。それを手に取り様々な角度に傾けながら調べている。



「……直接魔石で光らせるものではなく、ランプみたいに魔石を入れた後に火を点けるタイプの物か……。」



 その口調は珍しさより、懐かしさを帯び柔らかく暖かった。

 彼は照明の魔道具の覆いとなっているガラスの部分を外すと、無詠唱で火魔法を唱え火を点ける。


 朱い炎に照らされた彼の顔が暗闇の中に浮かび上がる。


 彼は窓を閉ざしていたカーテンを開けた。そしてテーブルの横に置かれた椅子に身体を沈めると、顔を窓のある方に向け背もたれに身体を委ね両目を閉じた。


 窓の外には、闇夜の中を青灰色した岩のような尖月が浮かんでいる。


 レイリーリャは今叱られてしまうのではないかと内心怯えながら、ポットに茶葉を入れお湯を注ぐ。

 コポコポとポットの中から音が立つ。


 ハイリアルは両目を閉じたまま身動きせず黙っている。


 彼女は怖れが表に現れぬよう抑えながら、ティーカップに茶を注ぐ。



「お茶をどうぞ。」



 彼の正面にあるテーブルの上にカップを置くと、かちゃりと音が立った。

 カップに注がれた茶に映るランプの炎が赤く揺れる。


 彼はそれに反応せず、窓に顔を向けたまま動かなかった。


 彼女は鞄から彼の着替えを出し翌日の準備をする。

 彼はそれを気にせず窓に顔を向けたままだった。



「…………館のメイドだから、外で怪物に襲われる事など予想出来る訳ないな。」



 こう独り言のように呟くと、両目を開け、彼女がいる方に顔を向けた。



「……お前の意思を確認せずに連れ出し、襲われる事になってしまい、本当に済まなかった。……我は本当に浅はかであった。」



 彼は彼女の顔を見つめながらこう詫びた。その声は低く沈んでおり、自ら苛まれ辛そうな表情をしている。


 彼女はその瞬間、動きが止まってしまった。

 貴族が従者に謝罪する事は当たり前の行動では無く、全く想像もしていない行動だった。


 彼女には彼の謝罪は形ばかりのようには見えなかった。

 彼女にとっては危険で、死ぬ可能性がある事に遭わせてしまった事を心の底から後悔し、罪悪感を感じているように見て把握出来るものだったので、余計に驚き戸惑ってしまった。



「そんな事ありません。私の方こそ勝手に逃げ出してしまいみゃした。その上に襲われそうににゃる所をハイリアルさまに助けてもらいみゃしたし館まで連れて帰してもらえます。その場で罰を受け首ににゃって見捨てられるのが当たりみゃえ(まえ)にゃのです。それどころかその場で斬り殺しゃれても仕方にゃい事なのです。ハイリアルさまはお優しいのです。それにゃのにハイリアルさまの足を引っ張ってしみゃいこちらこそ申し訳ありません。」



 レイリーリャは動揺してしまい、ハイリアルをフォローし庇う言葉が口から一度に溢れ続ける。普段は出ないように抑えている猫族固有の訛りも出てしまう。

 彼女は昂り顔が赤くなっていたが、照らされた魔道具の朱い炎に上書きされ見分けがつかなくなっていた。



「わたしの事にゃんかより、ハイリアルさま、お身体の方は辛くないでしょうか?」



 自分への配慮が過大で、それが自分にふさわしくなく、そんなものを受けて良いのかと疑って途惑い、話を変える。



「……辛くない。薬草を摂ったから問題ない。」



 話を振られた彼の表情は、不快さを抑えるような厳しい表情に変わっていた。



「またハイリアルさまが血を吐かれて苦しまれるのが心配です。」



 彼女の口から思わず出てしまった。

 自分自身で心配だと言いながら、心配する気持ちがないなぁと内心自嘲する。



「安心しろ。余計な心配をするな。」



 その口調は感情を抑え平静を装ったものであった。

 彼女が本気でその身体について心配していると見做しているようであった。



「……普通の病気に罹られているように思えませんので、治療術士さまかお医者さまに診て貰った方が良いと思いますが。」



 そう提案しながら、血を吐いてしまうような事なんて普通は滅多に無いよね、と彼女は今頃になって内心疑う。



「……診る必要はない。……我の事は我が一番解っている。くどいぞ……。」



 彼は苛立ちを堪えていた。口調には圧力があり苛立ちが滲む。



「―――出しゃばった事を言ってしまい申し訳ありません。」



 彼女は彼を怒らせた事に気付いた。その途端に焦りを感じ、処罰が下る事を怖がり謝った。


 主人と従者という立場の違いがあるにも拘わらず、差し出がましい事を言ってしまった事がその原因だと判断したのだった。


 そして彼が着ていた服を抱えると、扉を開けこの部屋を出て行った。


 何故彼がこの話題に触れる事を嫌がるのか。

 この時の彼女はこの振る舞いを意識せず、それに対する疑いや考えもしなかった。




 レイリーリャは自らが宿泊する部屋に戻ってから、翌日の準備などといった作業を行った。


 作業をしながら、ハイリアルに余計な干渉をし機嫌を悪くしてしまった事や、館に戻った後の仕事内容や人間関係について嫌な想起をしてしまい、気持ちが沈みそうになる。

 それでも無理矢理自らを奮起させ、作業をどうにか終える。


 就寝しようと窓の前に据えられたテーブルの上に置かれた照明の魔道具を消す。

 室内は夜の帳に覆われ寝床の陰が現れる。


 寝床である粗末なベッドの上に敷かれた、潰れて板のように薄くなった掛け布団の中に潜り込む。その凍えっぷりに寒く感じ、両足の先をこすり合わせながら、身体を丸め込み小さくなる。



…………本当によく襲われて死なずに済んだよね。



 昼間に魔物達に襲われた事を思い出し、改めて自分の運の良さに感心する。



……あれは怖かったなぁ……。



 ゴブリンに襲われた時の様子が想起する。

 追いかけてくるゴブリン達の枯葉を踏む音に、囲むゴブリン達の耳障りな鳴き声。目の前に迫る、欲情し目が血走り涎を垂らすゴブリンの顔。顔に掛かるゴブリンの生臭い吐息……それらが思い浮かんだ瞬間に恐怖が再びぶり返し息詰まる。

 寝床の中で身体が竦み、小さく丸く縮こまった身体を守るように掛け布団を胸元に手繰り寄せる。



…………ゴブリンって、こんなに怖いモノだって思わなかったよ……。



 彼女は身体の震えを感じ続けている。



……もう夜になったのに、いまだに怖くてからだブルブルしてるよ。



 震えている自分の身体を自覚する。



…………あんな嫌な思いなんか、もうしたくないよね。


…………それにしても、ハイリアルさま達、魔法や武器で簡単にゴブリンとかやっつけてたなぁ……。



 ハイリアルやブローデンがゴブリンを倒していた事を想起し感心する。



…………やっぱりわたし魔物倒せないから、ハイリアルさまの足引っ張っちゃうし、付いて行かない方が良いよね。本当なら。



 魔物を倒せぬ自らの無力さを思い、力が抜け落胆し溜息が出そうになる。



…………だけど、ハイリアルさまのメイドなら、付いて行って世話をしないといけないよね。館に帰ったら何言われて責められるか解らないし……。



 何も対策を取れず心が暗澹(あんたん)となり、俯いて頭を抱えそうになる。



…………でも、…………でも、やっぱり、恐い物は恐いよねぇ…………。



 レイリーリャは答えの見えない堂々巡りに落胆し溜息をつく。色々考え―――というより気にし続けているだけだったが、気付かぬうちに眠りに落ちていた。





…………レイリーリャは夢を見ていた。



 レイリーリャがいる目の前にハイリアルが立っている。彼が着る青いローブが風に靡く。



「……何でもない。大丈夫だ。」



 ハイリアルは言う言葉とは裏腹に、青い顔して冷や汗を垂らし両手で胸を抑えている。



 彼女は彼の腕を握り締めると、大甕の前まで連れてくる。



「そんないっつも何も喋らずに黙っていて、正直じゃ無いハイリアルさまなんか、この中に漬けちゃうからねっ。」



 彼女は両腕で彼の身体を突くと、大甕の中に突き落とす。そしてその上に蓋をして密閉する。

 彼女の心の底に、何かが重くうねり続けているものが残っている。

 何か悲しくも寂しくもなる。



 振り返ってみると、そこにブローデンが立っている。男は鎧を纏っていなかった。



「……他人を当てにしないで、自分で何とかしろ。」



 ブローデンは面倒臭そうに言い放つ。


 レイリーリャは男の腕を掴むと、ハイリアルが入った大甕の隣に据えられた別の大甕の前まで連れてくる。



「そんないい加減でほったらかしのブローデンさまなんか、この中に漬けちゃうからねっ。」



 彼女はその場で一回転して、男の頬に肘を曲げエルボーで叩きつける。

 男は痛みで顔を上げよろける。体勢を崩し両足が拡がる。

 それを見て彼女はその両太股の間を思いっきり蹴り上げる。痛みで歪む男の頭が下がる。


 彼女はその頭を更に下げて屈めさせる。その背中から腹を両手で抱き抱えそのまま肩まで持ち上げる。そしてその姿勢のまま大甕のある方に身体を向け、その身体を中に放り込んだ。


 投げっぱなしパワーボムだ。


 その大甕(おおがめ)の上に蓋を閉め密閉する。

 蓋で閉じると、安心感と満足感の混じったような物を感じ、深く息を吐く。



 レイリーリャはほっとしていると、副メイド長が向かってきた。

 副メイド長は顔面に何本も青筋を立て、獣のように髪を逆立たせて苛立っている。着用しているメイド服は茶色ぽく、伯爵邸で着用しているのとは異なっていた。



「……いぢめる?」



 彼女は頭を横に傾け尋ねる。



「んな事聞くヒマあるなら働け!いじめてやる!いじめてやるぅ!」



 副メイド長は彼女が尋ねると同時に、堰を切ったように激怒しその身体を蹴り飛ばす。


 吹っ飛ばされた彼女は込み上がる怒りを感じながら立ち上がる。そして副メイド長の腕を掴み、ハイリアルを閉じ込めた大甕の隣りに置かれた大樽の前まで連れていく。



「そんな意地悪な事ばかりする副メイド長なんか、これに入れて漬けるからねっ。」



 レイリーリャは副メイド長の体を回転させ、その背中を両腕で抱える。

 その身体を持ち上げ自らの右膝を曲げ、その上に副メイド長の臀部を叩きつけた。

 副メイド長は痛みで背を伸ばし両手で尻を抑える。


 彼女は副メイド長の背後に立つと、両腕を外側から両脇下を通して抱えた。そして背後に腰で投げ大樽の中に頭からぶち込む。


 アトミックドロップをかましてからのタイガースープレックスだ。

 ちゃんとブリッジを作り、つま先立ちをしている。


 ぶち込むと同時に落とし蓋を置き、大きな石を抱えてその上に据えた。


 落とし蓋は大石を除けようと、上下左右に揺れ動く。


 彼女は更に大石をその上に据える。


 大石を置かれた落とし蓋が下に沈むと、揺らぐのが止まり動かなくなった。


 彼女は大石と一緒に抱えていた物を降ろしたような達成感と満足感を感じる。

 汗を拭くように自らの額を片手で拭う。



 心地よく感じながらレイリーリャは振り返る。

 そこには黄緑色の縞模様がある、丸耳をしたヒョウのような獣人の男が、糸目のまま見下ろしていた。


 彼女とは異なり、顔も獣のヒョウと同じ作りをしている。



「嫌な事を大樽に放り込んで漬けるの、何でいけない事なのっ。」



 レイリーリャは糸目をしたヒョウの獣人に主張する。

 それにも拘わらず、ヒョウの獣人は淡々とその手を引いて、そのまた隣の大樽の前まで引きずる。



「そんなやるべき事をやらず、無かった事にして誤魔化そうとするなんて、たるんでるね。

 そんな悪い子は、漬けちゃうからね。」



 糸目をしたまま表情は変わらなかった。



 彼女はヒョウの獣人と向かい合うと、右手で握り締めたサーベルの柄で獣人の糸目を狙って突き刺す。


 しかしヒョウの獣人はその腕を掴んで防ぐと、その顔面を目がけて深緑色の毒霧を吹き付ける。

 彼女は思わず目を瞑ってしまうと、頭を下げられ、首後ろを相手の右腕で抱えられてしまう。それから彼女の右脇の下にヒョウの獣人の頭が入れられ、そのまま真っ逆さまに逆立ちしたように持ち上げられる。

 彼女のスカートが下にめくれそうになる。



―――やだッ!下着が見えちゃう!



 彼女は思わず真っ逆さまにされたまま、空いた左腕でスカートを押さえつける。

 


 その頭に血が上って気持ち悪く感じヒョウの獣人に何か文句を言おうとした瞬間、その身体は真っ逆さまのまま大樽の中に投げ落とされる。


 毒霧を決めてからの垂直落下式ブレーンバスターだ。

 滞空時間はしっかり取ってある。



「うにゃあぁぁぁぁぁぁ。」



 大樽の底に溜まった漬物の中にその脳天が突き刺さる。


 彼女は深緑色に染められた顔面を逆さまになったまま上を見上げる。

 大樽に蓋が置かれ真っ暗になった。


 その中に閉じ込められた。


 光は入らず辺り一面真っ暗で、何も見えない。


 怖くなり目から涙が溢れ始める。


 すると上から光が入り明るくなる。

 閉じていた蓋が開き、そこからヒョウの獣人が糸目にしたまま覗いているのが目に入る。



「大事な事を忘れてたね。中に釘をやらないと、鮮やかな色に染まって漬からないね。」



 ヒョウの獣人が握り締めた鉄釘の先端がその顔面に迫り来る。



「おじさん、止めてぇぇぇぇぇ。わたし、コンダイじゃないぃぃ!」



 彼女は驚きと恐怖で絶叫してしまう…………。






「…………今日の夢は一体何なの?何で漬物にされちゃうの?」



 レイリーリャは気がつくと、再び朝が訪れている事に気付いた。どうやら夢を見たようだった。



…………大樽の中に閉じ込められるだなんて、孤児院の倉庫に閉じ込められる罰じゃないんだから……。



 その当時の出来事を思い出し懐かしくなる。



…………もしかしたら、孤児院でノマルイ兄ぃと一緒にイタズラしたのが見つかって、お仕置きされた時以来じゃないかなぁ。



 その時の様子を思い出し苦笑いする。

 そして思い出に浸る事から踏ん切るように、掛け布団を上げ寝床から抜け出した。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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