65.ヒロインなんですが離乳食拒否されています
ケースの中から、ママと私たちに向かって何度も叫ぶドラゴンを目の前にし、あんぐりと口を開けたまま固まる私達。
ドームの中に残っていた人たちもわらわらとドラゴンの孵化に気付き、集まってきた。
ミルティーユは目をキラキラと輝かせながら、ドラゴンにまた一歩近付いた。
「こ、これは! すごい、これがドラゴンなんですね。どうやったら劇で再現できるかな、殻は舞台袖で紐で両側から引っ張って、ぬいぐるみとか……? 人間が演じてもありかも。でもそうなると、大道具はどうしたら……」
「すごいね、ミルティーユ! 今そんな感じの雰囲気じゃないと思うんだけど!?」
ドラゴンが卵から孵ってすぐ、真面目な顔をして真剣に悩みながらミルティーユはそう言い放つ。
熱血劇バカミルティーユには私の言葉は耳に届かないようで、何やらまだぶつぶつと言っている。
クロトンは目をキラキラとさせながら、頬を薄紅色に染め、ドラゴンを見つめる。
ドラゴンもうるうるとした瞳で、クロトンを見つめ返した。
恋にでも落ちたの……? と聞きたくなるほどのうっとりとしたクロトンとドラゴンの顔を交互に見る。二人と一匹の予想外過ぎる反応にドラゴンが孵ったという衝撃的なニュースが頭の中でぼんやりと影を薄くしていった。
いつも頼りない、とヴィオレに言われている私が一番しっかりしているような気がする。
そんな状況に呆れていると、ドタバタとコルザが施設職員の方々と園長を連れて走ってきた。
「卵から孵った時に傍にいた方はどなた!?」
息を切らせながら、園長が私たちに問う。
先日見た穏やかで優しい園長とは思えない焦りようだ。
「え、っと……私達三人なんです」
「三人!? あら、困ったわ……誰を認識しているかしら」
「認識?」
「初めて見たもののことを親だと思うんですよ、ドラゴンって」
「そんなひよこみたいな特性なんですか!? ドラゴンって!」
私が驚いている中、職員の方々の雰囲気はただならぬものだった。
皆難しそうな顔でドラゴンについて話し合っている。
1000年ぶりのドラゴンの孵化だ、こんな物々しい雰囲気になるのも仕方がないだろう。
「やはり、祝福を受けたアイリス様でしょうか……」
「たしかに、アイリス様自身も1000年ぶりの奇跡のお方だし……」
「光属性の魔法使いですし……」
「救いと繁栄……この言い伝えに近いですね」
そう職員の方々が話し合い、ジロリと一斉に私を見た。
そして、ばたばたとケースの周りに集まり、ケースが移動できるようにいじっている。
何が起きているんだろう、と戸惑っていると、園長が私の肩をがっしりと掴んだ。
「アイリス様、よく聞いてください。ドラゴンの養育環境には親の存在が不可欠です。ドラゴンは最初、初めて見たもの、親からしかご飯を食べません。これからアイリス様にはこのドラゴンに付きっきりになっていただくことになってしまいます」
「は、はい!」
「園長、準備できました!」
「では、早速参りましょう!」
「はい!」
「頑張ってアイリスちゃん!」
コルザの応援を背に、職員の方はケースごと関係者扉の方へ持っていき、私もその後に続いた。
「ドラゴンが孵ったと聞いたんだが!」
そこに、ちょうどローランが息を切らし、血相を変えてドームの中に入ってきたのが見えた。
扉に入る直前、ローランが張り詰めたような表情をしていたのが見えた気がしたのだが、扉の中に入った為すぐに見えなくなってしまった。
***
「……食べないですね」
私がドラゴンのごはんをスプーンに一さじすくい、食べさせようと試みるも、ドラゴンはむすっとした顔をしながら、怒ったように顔を背けた。
スプーンでちょんちょん、と口のあたりを触ってみるが、絶対に口を開こうとしない。
その様子に皆で頭を抱える。
白衣を着た職員に園長が確認をした。
「異常はなかったのよね?」
「はい……ただ、何せ希少種ドラゴンの中の更に希少ですので、もしかしたら何かが……」
「困ったわね」
園長が深くため息を吐き、頭を抱えた。
ドラゴンはそんな周りが困った様子なんて、お構いなしにママと可愛らしい声で何度も叫んでいる。ママというのは、このドラゴンの鳴き声なんだろうか。
「すみません、お力になれなくて……」
私が小さくそう言いながら頭を下げると、園長さんを始め職員の皆さんがあたふたと慌てながら、自分たちもよくわかっていないのでと訂正をされた。
こちらは王立動物公園、動物の研究所でもあるこちらでも分からないとなると、ほとんどお手上げ状態なのではと不安になる。
何か手立てはないものか、と悩んでいると、そこにローラン達生徒会メンバーが入ってきた。
「アイリス、大丈夫か」
「殿下、あの……ドラゴンが食べてくれなくて」
「このまま食べてくれないと、危険だわ……どうしてかしら、何か異常が……」
園長がおろおろと狼狽えていると、ドラゴンが一際大きな声で叫んだ。
「ママ!」
ドラゴンが見つめる方へバッと皆が視線を集める。
その先はクロトンだった。
「え……ぼく?」
クロトンは自分を指差しながら、ひくひくと顔を引きつらせた。
私はスプーンを持ったまま、クロトンに駆け寄り、スプーンを押し付けた。
「クロトン、お願い! あげてみて!」
「お願いします、クロトン様!」
園長がドラゴンを大事そうに抱えて、クロトンの前に持ってきた。
クロトンは、恐る恐るスプーンをドラゴンの口にそっと持っていく。
「ママ!」
ドラゴンはそう言うと、嬉しそうに口を開け、ぱくりとスプーンにかぶりついた。
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土日は生憎のお天気のところも多そうですが、その分ゆったりとした日を過ごせますように。




