64.ヒロインなんですがママになってしまいました
私たちは人だかりの落ち着いたドームの中へ来た。
入口に入ってすぐのところにある案内板に、ドラゴンの卵はドーム中央にあると書いてある。
ドームが大きいので、中に入っている卵もものすごい大きさなのかと思いきや、案内板を見る限り、他にも展示物が多くあり、メインとしてドラゴンの卵がドームの中央に置かれているようだ。
クロトンが走るのを抑えられないといった調子で先頭を切る。
「こっちこっち!」
珍しく浮足立った様子のクロトンを見て、恐竜博物館にいったときの前世の弟であるたけるを思い出した。
クロトンもやっぱり男の子なんだな、と可愛らしい一面にコルザと私はちらりと顔を見合わせくすくすと笑った。ミルティーユはクロトンの向かう方へ足早に歩いていく。
そして、ついに私たちはドラゴンの卵と対面することとなった。
ドラゴンの卵、これが……。
「……思ったより、小さいんだね」
ケースの中で温度管理をされている卵を見つめる。
ふわっとしたクッションの上に卵は置かれていた。
クッションこそ、金色や赤の刺繍が美しく入ったきらびやかなものだが、卵自体はバスケットボール程度の大きさだ。殻も何の変哲もない。少しベージュっぽい白の、殻の質感が少し固そうなだけだ。
「普通の鳥の卵とかよりは大きいけど……」
「ふーん、こんなものなんだ……」
「神秘的ですね、今度の劇に入れてみようかな……」
コルザと私は戸惑いながらドラゴンの卵を見ている中、ミルティーユとクロトンはキラキラとドラゴンの卵見つめた。
ミルティーユは、卵の前に置かれた小さな説明書きと卵を見比べながら、じろじろと色々な角度から観察をしている。
本当に劇が好きだな、とその熱心さに笑ってしまった。
「ミルティーユ、相変わらず熱心だね」
「はい、皆に演じてもらって、観客の方の思い出となるようなものを作りたいんです……わぁ、すごい。『国を救い、繁栄をもたらすドラゴン 1000年の眠りにつく』ですって。素敵な紹介文ですね。」
「へぇ、すごい。じゃあ、起きたら良いことが起きるってことなのかな?」
「アイリスちゃんっていう光属性の魔法使いもいて、もしこのドラゴンも孵化したら、この時代すごいね。黄金時代になっちゃうんじゃない?」
「……! それ、いいですね。早速、そういう脚本を仕上げてみます」
「私とドラゴンで黄金時代かぁ……うーん、あんまり想像できないなぁ」
コルザの一言に、ミルティーユが目を輝かせて、すごい速さでメモを取り出した。
そもそもゲームにはドラゴンもなければ、アイリス自体が皆から称えられていても黄金の時代とかそういった表現はなかったし。と言っても、エンディングの後だってこの世界は続いているわけで、一部の事しか私もわかっていない。
ゲームでのアイリスも、エンディング後に黄金の時代を創った、なんて呼ばれていたのかな。
私が熱心にメモを取っているミルティーユを背にしながら、そんなことをぼんやり考えていると、クロトンが私の袖をつんつんっと引っ張った。
「……ねぇ、割れてない?」
クロトンが震える手で、卵を指差している。
皆でバッと卵を見る。
卵は頂点の方からピキピキと小さな音を立てながら、少しずつひび割れていく。
その様子を見て固まった後、コルザが慌てた様子で「わ、私園長さん呼んでくる!!」と走っていった。私とクロトンとミルティーユは、卵が割れていく様子に体が動けなくなっていった。
小さく卵が割れて、ぱかっと最後は二つに殻が割れた。
ぐっと体を寄せてみると、ドラゴンが卵の殻の隙間から青灰色の小さなドラゴンが手で顔を掻いているのが見える。
……ほ、本当に生まれたんだ。
私たちはあまりの衝撃に卵から目を離せず、固まっていると、ドラゴンが小さく体を動かし、殻がさらに傾いて、中から小さなドラゴンが露わになった。
ドラゴンは私たちの方に、顔を向ける。
くりっとした金色の目がとても綺麗だ。うるうるとした瞳で、私たちを見つめる。
私たちはドキドキしながら、ドラゴンを見つめ返した。
「ママ!」
そして、ドラゴンは私たちを見てそう叫んだのであった。
ママ……ママ!? 私、ママになっちゃったの!?
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新年度ですね。
入学、入園、入社の皆さんおめでとうございます!
皆さん色々とお忙しいでしょうが、お体にお気をつけてお過ごしください。




