62.ヒロインなんですが皆に助けてもらいました
屈めば通れるほどの穴から、ようやく這い出る事ができた。
救出された瞬間は、周りの人たちのわぁ! という興奮した歓声に囲まれる。
私たちの為に観光に来てくれた人たちまで協力をしてくれていたらしい。
皆にお礼を言っている中で、半泣きのヴィオレが「良かったなあ! 痩せといて、前までだったら挟まってたぞ!」という無神経な言葉には、思いっきり背中に平手打ちをしておいた。
背中の痛みで床に伸びているヴィオレをクロトンが笑いながら見ている。
そんな中、ヴィオレのことを全く気にしない様子で、ローランが私たちに言葉をかける。
「良かった。大きな石が入り口に倒れこんでしまった時は、本当に息が止まるかと思うほど心配したよ」
「すみません、心配をかけてしまって」
「いや、とにかく二人が無事で良かったよ。本当に大丈夫?」
「はい。全然大丈夫です。中でもセージが水の魔法で守ってくれたり、励ましてくれたんですよ」
「そうか、セージ。ありがとう」
「別に当たり前のことだ」
相変わらずの無愛想でぶっきらぼうな様子に、ローランは笑った。
それにしても、皆泥だらけだ。多分、私も酷いことになっているんだろうけど。そんなになってまで、助けていただけて本当にありがたいな。
私がそう胸がいっぱいになっていると、ローランが拗ねたようにちょっとおどけた口調で、腕を組みながら、頬を膨らませた。
「それにしても、ずるいなぁ。セージばかり。これで生徒会メンバーで私以外、皆名前呼びじゃないか。そろそろ私の事も気軽に呼んでくれていいんだよ、アイリス嬢」
「で、殿下だって私の事丁寧に呼んでくださっているじゃないですか」
確かにこれで生徒会メンバーで名前を呼んでいないのは殿下だけになった。
しかし、殿下を名前呼びなんて恐れ多いし、なんだかすごくハードルが高い。
私が抵抗をしていると、ローランは私に向き直り、優しく私の名前を呼んだ。
「アイリス」
周りは人々の声でざわめいているのに、ローランが私を呼んでくれた瞬間、ローランの声だけが頭の中に響いた気がした。冷たくて爽やかな風がひゅんっと駆け抜けたような感覚も同時に……。
不思議な感覚に戸惑っていると、ローランはいたずらっ子のように私に微笑んだ。
「ほら、私もアイリスって呼ぶよ。……これじゃ、不公平だね」
そんな風に言われると、言葉に詰まってしまう。なんだか、顔も熱い。
しかし、ローランは私が名前を呼ぶまで解放してくれなさそうだ。
私は意を決して、たくさん深呼吸をしながら、ローランに向き直る。
「で、では……ロー、ラン」
そう、ローランの名前を呼ぶと頭の中で不思議な声が聞こえた。
――ローラン!
「……あれ?」
なんだろう、殿下の名前を口にしたのは初めてなはずなのに、なんだか初めてのような気がしない。ゲームで散々ローランの名前を呼んだからだろうか。
先ほどのローランから名前を呼ばれた時といい、変な感覚がする。
私が戸惑っていると、ローランは心配そうに顔を覗き込んだ。
「どうかした?」
「い、いえ……」
「じゃあ、これからはそれでよろしくね」
ローランはそう微笑むと、クロトンや伸びているヴィオレ、セージ達を招集した。
「じゃあ、今日はこれで一旦解散。すごいことになっちゃったね。遺跡の方はしばらく復旧作業が発生しそうだから、遠足の件についてはおそらく遺跡は無しになるだろう。そもそも、被害の範囲によっては遠足自体も流れるかもね。週明け、改めて話し合おう。……セージ、ヴィオレは私と一緒に来てくれるか。クロトン、アイリスを送ってあげてくれ。じゃあ、解散! お疲れ様!」
ローランがそう一息に言うと、セージとヴィオレはローランについてどこかへ歩いて行ってしまった。
私はそれをぼうっと見ていると、クロトンが私の目の前で手を振る。
それでハッと意識が戻り、クロトンの方を見る。クロトンは心配そうに私を見つめていた。
「大丈夫? アイリス。気分が悪いなら、少し救護のところで休んでから……」
「あ、違うの! 全然、大丈夫! ごめんね、ぼうっとしちゃって」
「無理ないよ、あんなことがあったんだから。いやーでも、本当にびっくりした」
「ごめんね、心配かけて。助けてくれてありがとう」
「ううん、アイリスが無事ならそれでいいんだよ」
そうクロトンが微笑んでくれた。
そして、腕を差し出してくれて、私に掴まるように促す。大丈夫だと言っても、エスコートくらいさせてよとウインクされ、黙らされてしまった。
なんだか色々な事が起きて、疲れてしまった。
ドラゴンの卵、地震、地下遺跡、不思議な感覚……沢山の事で頭がいっぱいになる。
とにかく、今は皆が無事な事を祈ろう。
セージは違法でなければ建物は大丈夫だって言っていたけど、やはり少しそわそわしてしまう。何か私にできることはないだろうか……。
私のそんな様子に、クロトンは足を止め、心配そうに私の顔を伺った。
「アイリス、本当に休んでも良いんだよ」
「ううん、大丈夫。あ、あの子……一人で泣いているみたい。声かけても良いかな」
「うん、もちろん。親とはぐれたのかな」
もし私にできることがあるなら、何か手助けをしたい。
私が助けてもらったように。
小さなことでも良いから、誰かの役に立ちたちと心から初めて願った日となった。
読んで頂きましてありがとうございました。
ようやく……ようやく、ラブコメのラブの部分が増えて参りました!!
リアクションやブクマ、評価をしてくださった方もありがとうございます!
嬉しいです!励みになります!




