60.ヒロインなんですが閉じ込められてしまったみたいです
セージが私の上からゆっくりと体を起こして退いた。
辺りを見回してもかすかな光が上から差し込んでくるだけで、かなり暗い。
完全に閉じ込められてしまったようだ。
起き上がるのも不安な中、ゆっくりと体を起こそうとすると、その前にセージが私の体を抱き起こした。
「大丈夫か!」
「へ?」
「怪我はないのかと聞いている!」
すごい剣幕に気圧されそうになる。暗いのに、セージのいつも険しい顔が見えるようだ。
「だ、大丈夫。サジェス卿こそ、大丈夫なの? 私をかばって」
「問題ない」
そう言うと、セージは片手を下げる。
少し遠くでバシャリと水が何かぶつかった音が聞こえた。
「水の壁を作った。多少の衝撃ならこれで防げる」
「わぁ……すごーい……」
授業中、ロベリアンにきつく叱られているのも分かる気がする。
こんなにさらりと魔法を使いこなせる人もいるのだ、私の魔法の才能なんてひどいものなんだろう。
パラパラとまだ小石や砂が落ちている音が聞こえる。
先ほどまで賑やかな観光客の声でざわついていたのに、地下に居るからなのか小石が落ちる音くらいしか聞こえない。暗く、しんと静まり返った空間が不安を煽った。
「……閉じ込められたようだな」
衝撃で発生した砂埃に咳き込みながら、セージが言う。
閉じ込められた、だなんて。
「わ、わぁ……わたし、こんなのはじめて……」
「奇遇だな、私も初めての経験だ」
……必殺技を真面目に返されてしまった。
いや、私も今日言い過ぎてしまったせいか、つい口をついて出てしまったのだけど。
それにしてもこれからどうすれば。
そもそも、この酷い揺れで地上の皆が大丈夫なのかも心配だ。
その時、上の方から小さく声が聞こえた。
『アイリス、セージ!!』
殿下の声だ。
落石の向こう側から遮られたようで聞こえにくいが、殿下の声が聞こえた。
『大丈夫か! 返事をしてくれ!!』
「こちらは大丈夫だ!!」
セージが声を張り上げる。
すると、すぐにローランの声が返ってきた。
『良かった! すぐ助けるから、そこで待っていてくれ』
そう言うと、ローランの声は聞こえなくなった。
その代わり、石を動かしているような大きな音が聞こえ始める。石をどかしてくれているようだ。
私はその音がする方をしばらく立って見つめていた。
石がどけてきたのか光の差し込みが少し増えてきて、中の様子も少しだが見えるようになってきた。
しかし、その後からあまり動きが見受けられない。ざわざわと小さく声が聞こえてくるが、石のせいでなんと言っているかまでこちらには聞こえてこない。
大丈夫だろうか。不安で立ちすくんでいると、セージがすぐ横に腰かけた。
「……すぐ助けると言っても、この石の大きさだ。期待せず、待って居よう」
「うん……」
私はセージのすぐ横に同じように腰かける。
相変わらず何か音は聞こえているけど、セージの言うように時間はかかりそうだ。
私が階段を試しに降りていなければ、こんなことにはならなかったのに……。
「ごめんね、巻き込んじゃって」
「運が悪かっただけだろう、お前のせいじゃない」
そうは言っても、結果的に巻き込んでしまっているんだし……。と、どう返せば良いか悩んでいると、セージは淡々と言葉を続けた。
「私は水が出せる。お前は食糧を持っている。……まぁ、中身は悲惨だろうが、無いよりましだ。途方もない状況でもない、悲観するな。ローランがいるのだから。大丈夫だ」
そう言うと、セージはまた口を閉じだ。
不器用だけど、セージなりに私を励ましてくれているんだろう。
ゲームをプレイしている時から、そして実際にセージと接することになってから、この不器用だけど実は優しいところが好きだった。
セージの優しさに触れると、不安で仕方のなかった気持ちも少しずつ安心してきた。
「ありがとう、励ましてくれて」
「ふん。別に励ましているわけじゃない、事実だ」
セージはぶっきらぼうにそう言うと、また黙り込んでしまった。
私はそんな様子にふふ、と小さく笑いが零れる。
一緒に閉じ込められたのがセージで良かったかもしれない。
「それにしても、地震なんて珍しいね」
「滅多にないからな。こんなに強い地震となると、数百年ぶりにもなるかもしれない」
「数百年! わー、皆大丈夫かな……」
「建物の倒壊や事故が心配だな。地上に帰ったら、早速確認を急がねば……とはいえ、定期的に昔から強い地震はあるからな。建物の強度は基準も制定されているし、違法なものが無い限りは、大丈夫なはずだが」
生まれてから地震なんて無かったから知らなかったけど、地震があることもあるのか。
それにしても地震が起きても、こうやって冷静に色々判断ができるのは流石未来の宰相といったところか。改めて、セージの凄さを思い知る。……不器用なところはあるけど。
上からも音がしなくなり、しんと静まり返る。
何も会話のないまま、時間が過ぎて行った。
この状況からしばらく時間が経ち、なんとなく慣れてくると、気持ちに余裕が出てくるのか色々な事を考え始める。
よく考えると、この状況は閉じ込められた二人の男女という使い古されたようなベタベタの状況だ。
せめて、建物が古くて鍵がかかっちゃったみたいな可愛げのある方にしてよ! と思わないでもないが。本当に死ぬかと思ったし。
他の乙女ゲームでは閉じ込められたことはあるけど、フルグレでは閉じ込めイベントはなかったし。
もう、ゲームの情報や時系列は参考にならないのかもしれない。
私がヒロインらしくなかったから、では済まないようなフルグレのズレが多すぎるけど、何かが違えばここまで異なってしまうのだろうか。不思議だ……。
はぁ、とため息をつくと、セージがこちらをじっと見た。
あ、心配させてしまったかも、と微笑み返す。
そういえば、せっかくセージと二人きりなのにこの状況でセージと会話をしないのは勿体ないのではないだろうか。この時間をせっかくなら、距離を近づけられるような時にしたい。
そもそも、クロトンやローラン、ヴィオレが話すタイプなので、必要に駆られないと話さないセージとは会話量が少ない気がする。
これはチャンスだ。
私は気持ちを切り替えて、疑問に思っていたアレをぶつけることにした。
「そういえばさ、気になっていたんだけど。恋愛小説を書くきっかけって何だったの?」
セージが気まずそうにピクリ、と反応した。
ギギギ、と油の切れたロボットのようにぎこちなく顔を背けるんだけど、一体どうしたんだろう。
読んで頂きましてありがとうございました。
お昼にも更新予定です、よければそちらも読んで頂けますと幸いです。
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