58.ヒロインなんですが必殺技の効果は不明です
「卵がちょっと動いたんだよ!」
クロトンが興奮したようにドラゴンの卵の話をする。
1000年も動きのなかったドラゴンの卵に動きがあったなんて!
私も身を乗り出して聞こうとするも、ローランがそんなクロトンの様子に苦笑しながら補足した。
「そうクロトンが言っているだけなんだけどね」
「いや、絶対動いたって! ほんのちょっとだけど、絶対動いたって!」
「でも、園長は特に変わりないと言っていただろう」
「だって、皆話に夢中で卵見てなかったでしょ!」
「そうだな、卵に夢中のお前と違って色々と話す事があったからな」
セージに低い声でピシャリとそう言われると、ぐっと黙り込んでしまうクロトン。
まぁまぁ、とヴィオレが間に入った。
それでもセージとクロトンの小さな小競り合いは止むことが無い。
うーん、生徒会の親睦も深まってはいるのだろうか……。
子どもの喧嘩のような様子に私も笑っていたが、珍しくローランがそんな中一人ぽつんとぼうっとしていた。
いつもなら穏やかに仲裁に入るはずなのに、と気になった私はローランの顔を覗き込んでみる。
「殿下、どうかされましたか?」
「……ん? 何が?」
「いえ、何かちょっと様子が違うような気がして……」
そう言うと、ローランは驚いたように目を見開いて私を見た。
そして、不思議と嬉しそうな様子で微笑む。
「アイリス嬢は本当によく人の事に気が付くね」
「え? そうですか? でも、セージの機嫌が良いとか全然気付けてなくて……」
「じゃあ、私の事はよく気が付いてくれるのかな?」
そう言うと、ローランはずいっと私の顔の近くに顔を寄せて、少しふざけた様子でじっと瞳を見つめた。急にローランとの距離が近くなり、顔が熱くなる。
え、本当に急にどうしたんだろう。まるで、フルグレのヒロインみたいだ……。
「で、殿下!?」
「あはは! さ、じゃあ次は遺跡の方へ行こうか」
ドキマギとさせた私の気持ちなんて全く気にしていない様子で、いつもと変わらない春風のような爽やかさで歩いて行ってしまった。
ただ、からかわれただけなのだろうか。
でも、それにしてはいつもよりちょっと様子がおかしかった気もする。
動作はふざけているんだけど、目はそんな感じがしなかった。何か探っているような……、真剣な眼差しだったように感じる。なんだったんだろう……まさか!
「ヴィオレ!」
私はセージとクロトンの小競り合いで一部始終を見ていなかったヴィオレを、背中の裾を引っ張り、小さな声で呼び止めた。
そして、耳元で周りに聞こえないような声でこっそりと言う。
「必殺技、きいているのかも!」
恋愛経験0というところは非常に不安が残るが、私のサポートキャラであるヴィオレなら助言をくれるはず!
ヴィオレは私の言葉を聞いて、一瞬足を止めた。
「はぁ? 何言ってんだ? ほら、行くぞ」
しかし、怪訝な顔をして私を一瞥すると、そのままローランについて歩いて行ってしまった。
やはり恋愛経験0では、だめなようだ。……いや、私もだけど。
この釈然としない気持ちを抱えたまま、私も皆の背中を小走りで追いかけた。
***
「うわぁ、すっごい……」
次に訪れたのは、第二候補地である遺跡だ。
大きい神殿のような場所、細く長いピラミッドのような形をしている遺跡、昔闘技場だったという大きな円形の遺跡。
すべてくすんだベージュのような色合いの石造りでできているのだが、欠けや崩れはあるもののほぼ現存している。
首が痛くなる程大きい。
発掘物は美術品と一緒に、元々大聖堂だった場所を博物館として利用し、展示されているらしい。
遺跡の周りはカフェやレストラン、食べ歩きが可能なお店等が多数あって、とても賑やかだ。
私はきょろきょろと忙しなく辺りを見回し、早速たくさんの食べ歩きの食事を手に入れた。
まとめておいてあげるわよ! と、麻の袋に売店のおばさんが、まとめて渡してくれた。この麻の袋もプレゼントしてくださるそうだ。
遺跡の風景とマッチしている色合い、周りを見れば同じように麻の袋を片手に持っている人が多い。
皆、あのおばさんにいただいたのだろうか。
早速口に入れようか、と私が大きな口を開けたところに、少し小太りの男性が額に汗を滲ませながら小走りでやってきた。
ローランの前で止まると、ローランに丁寧にお辞儀をする。
「殿下! ようこそいらっしゃいましたね。」
「館長、今日はよろしくお願いします」
ローランは館長ににこりと微笑んだ。
館長は、失礼と言いながらハンカチで汗をぬぐった。
「皆さんが来て下さるのを心待ちにしておりました……これはこれはアイリス様! 女神の祝福を受け、女神の末裔でいらっしゃる歴史あるフルール公爵家の方に拝謁でき誠に光栄です。公爵様には美術品も多数寄贈していただき、ありがとうございます」
「え……いえいえ、お役に立てて良かったです」
お父様、そんな事されていたんだ。
館長から初めて聞く事実に驚きつつも、愛想笑いで誤魔化した。
そして、館長が張り切った様子で案内を申し出てくれた。
「さ、では早速参りましょうか!」
少し口に入れたかったな、と麻の袋にたくさん入ったごちそうを気にしながら、私たちは館長についていくことにした。
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