57.ヒロインなんですが新たな謎に気が付きました
「ようこそ、皆さん。本日は来ていただいて、ありがとうございます」
「園長、本日はありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。遠足なんですってねぇ、楽しみですねぇ」
ローランが女性に頭を下げると、ころころと笑いながら、のんびりとした口調でお話をされた。
この方が園長なようだ。
ふれあいコーナーの動物たちも、園長を見るなり園長の周りにすっ飛んでいった。
雰囲気がおだやかで、よく縁側でお茶を飲んでいたおばあちゃんを思い出すようなそんな優しい雰囲気がある女性だ。きっとお世話もされているだろうし、動物にも好かれるわけだ。
園長はゆっくりとまた、話し始める。
「もうドラゴンの卵はご覧になられましたか?」
「え! ドラゴン!?」
ドラゴンまでいるの!? と私は園長に駆け寄った。
園長はゆっくりと私の方へ体を向け、あたたかな笑顔で頭を下げて話す。
「まぁ、アイリス様までいらっしゃって。こんにちは」
「こんにちは、本日はよろしくお願いします。あの、ドラゴンがいるんですか?」
「えぇえぇ、居ますとも。もっとも、卵だけなんですがね」
いや、それでも十分すごいけど……。
とはいえ、実際のドラゴンを目にできないのは少し残念だ。
ローランが補足するように言葉を付け加えた。
「ドラゴンは希少種だからね」
「まぁ……もっとも、謎に包まれた生態系なので、この卵もいつ孵化するか。もう1000年ほどこのままなんですよ」
「1000年!?」
「ふふふ、こんなにも長く卵な子は珍しいんですよ。だからこそ、見守るしかないのですが」
「……それって、生きてはいるんですか?」
「え? ふふっ!当たり前じゃないですかぁ」
私がおかしなことを言ったのか、園長は声を上げて笑った。
ローランとセージは園長に一歩近づいて、園長側に立った。
さすが王子様、さらっと園長に腕を差し出し、老婦人である園長をエスコートをしようとする。
園長は乙女のように頬をぽっと赤らめながら、嬉しそうにローランの腕にそっと手を乗せた。
ローランはセージに目配せをして、私達に向き直った。
「では、私たちはそちらに行ってこようかな」
「あ、僕も見てみたい」
クロトンが小さく手を挙げて、ローラン達の方へ向かう。
私も、と続いて行こうとすると、羽のついたうさぎが肩にぽんっと乗ってきた。
手の平にそのまま誘導すると、ウルウルとした瞳でじっと見つめられる。
……こ、これは離れられない。
ローランがその様子を見て、苦笑した。園長は私と動物の様子に驚きつつも、嬉しそうだ。
「まぁまぁ! 祝福を受けたアイリス様にはやっぱり動物たちもよく懐くのかしら」
「アイリス嬢は、その子から離れられなさそうだね。良かったら、ここで待つ?」
「あぁ、うぅ……私もドラゴンの卵、見たかったけど……でも、またいつでも見られるか」
「そうそう。ここで待っていて。ヴィオレ、頼んだ」
「あぁ……俺いなくて大丈夫か?」
「大丈夫だよ、剣の腕なら私だって負けてないんだから」
そう爽やかに笑うと、ローラン達は少し離れた建物の中へと向かって行った。
ドーム型のように見える一見博物館のような場所にドラゴンの卵はあるみたいだ。
私も行きたかったなぁ、と見つめながら皆の後ろ姿を見る。
目の前のこの子がそれを阻止したわけだけど。
うさぎは私の手の平に顔を擦り付けて、よく甘えている。
「ドラゴン、羽の生えたうさぎ……うーん、すごいなファンタジーだ。楽しいね」
「静養地にはこんなとこなかったのか?」
「なかった……かな、多分。私もあんまり外出してたわけじゃないから、もしかしたら森とかにはいたのかも。だから、動物園って新鮮だなぁ。遺跡も! 今日楽しいね……あ、でもサジェス卿のリフレッシュにはちゃんとなっているのかな」
「さぁ。でもいつもより表情は柔らかい気がするけどな」
「え、そう?」
「ほんの少しそんな気がするだけだけど」
ヴィオレがうーん、と悩みながらそんなことを口にする。
でも、たしかに私にわざわざ冊子を渡してくれたり、セージなりに楽しんでくれているのかも。
そこで”セージのリフレッシュ”から、根本的な事を思い出した。
「そういえば、なんで書けなくなっちゃったんだろうね」
「作家の悩みなんてわかんねぇからな~」
ヴィオレがそう言って草むらに腰かける。
このうさぎエリアは草原や野の花のたくさんある場所だ。
この草原はそのままうさぎたちのご飯にもなるらしい。
私もヴィオレにならって、横に腰かける。
「……逆に、なんで書き始めたんだろうね」
「あぁ、たしかに。それは考えたことなかったな」
「あの堅物だし、もっと難しい本ならイメージができるんだ。ゲームでもよく本は読んでたけど、何の本かは特に言及ないし。ただ、女の子と読書デートで恋愛小説を持って来るかな。あのセージが」
「うーん……でも、恋をすると人は変わるんだろ?」
「……恋をしたことがない人たちでこんな事話してても不毛か」
「そうだな、なんか虚しくなってきた」
二人そろって、はぁと深いため息を吐く。
ちょうゆる乙女ゲームだったはずなのに、恋愛初心者にはかなり難易度の高いゲームだったのかもしれない。
恋愛の機微がわからない二人が話していても、結局何も変わらないのだ。
二人でそんなことを話していると、ローラン達が戻ってきた。
クロトンが何やら嬉しそうにこちらに手を振っている。
ドラゴンの卵、いったいどんなものだったんだろう……。
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