54.ヒロインなんですが会議は難航中です
「つ……かれた」
生徒会室で机に突っ伏しながら魂の抜けたような顔をする私とヴィオレに、コトリとクロトンが紅茶を置いてくれた。
「ありがとう……」
「うん、まぁ……あれは大変だったよね……」
「そうだね……すごかったね……」
昨日馬車で帰宅し、家に近づくとちょうど武装したフルール公爵家の騎士団に遭遇したのだ。
しかも、先頭の馬にはお父様が乗り、騎士団を率いてフェスタンに乗り込もうとしているところだった。
ローランがそんな様子に気が付くや否や、すぐさま馬車を降りて、私の無事を伝え、私も馬車で寝こけていた頭を叩き起こして急いで外に出て。
お父様は私を見るなり、力強く抱きしめながら大泣きをするというなんともすごい騒動に発展していたのだった。
一応、ローランが「私がなんとかするから落ち着いて待っていてと言ったでしょう」とお父様をなだめてはくれたのだけど、「娘の危機にじっとしていられる親なんているわけがありません、殿下!!」と聞く耳も持たず、そのテンションのままずっと家でも大泣きされながらお叱りを受けるという……。
デイジーも横で静々と泣いていたし、なんだかすごい1日だった。
「それに、今日もサボった分のツケだって、ロベリアン様もスパルタだったし……」
大してまだ魔法も使えないくせに粋がるからだ、このバカがっと強い口調で歯に衣着せぬ酷い言葉のオンパレードを浴びせられながら魔法の授業を受けて、心身ともにクタクタ。生徒会室にきちんと来ることができた自分を褒め称えたいくらいだ。
ゆっくりと体を起こして、紅茶を一口飲む。クロトンは蜂蜜入りの紅茶を淹れてくれたらしい。ほんのりとした甘さと花の香りが口いっぱいに広がっていく。多分、皆疲れが溜まっていそうだからこんな風にしてくれたのだろう。優しさが心に沁みていく。
「ヴィオレもその顔、どうしたの……」
同じく、ぐったりと机に突っ伏しているヴィオレに話を振った。
「俺も俺で父上にめっちゃ怒られた……あと、母上はお前との仲は発展したのかってずっと聞いてきて……」
「うわ、オリヴィア様まだそんな事言ってるんだ」
「それはそれでめっちゃ面倒くさかった……」
そう言って、ヴィオレもゆっくりと体を起こして、紅茶を飲む。
「うわ、何これうま……蜂蜜いれた? にしては、なんか香りが良いような」
「香りの強い花の蜂蜜を選んでみたんだ、結構気分転換になるだろ」
「うん、これ俺すげぇ好きだわ。ありがとう」
クロトンはヴィオレのお礼の言葉ににこりと微笑みを返した。
……あぁ、このままクロトンの紅茶をのんびり飲みながら、くだらない話をして数時間過ごして、そのまま家に帰ってゆっくりしたい。
しかし、そんな私の希望は、明るい殿下の声に打ち砕かれることになる。
ガチャリと生徒会室の扉が開き、にっこりとローランとセージが書類を持って入ってきた。
ローランとセージは私の真向かいと斜め前に座り、書類を皆に配り始める。
「はーい、じゃあ今度は週末の話し合いの続きだよ」
「殿下達、仕事熱心ですね……」
「巻き込んで悪いね。セージのリフレッシュや生徒会の人数も増えたし、私たちの親睦も兼ねて、遠足の候補地を決めて行こう。それならちょっとやる気になるかな?」
「わっ親睦! いいですね!」
「候補地の資料をまとめたものを今配っているから目を通してみて。クロトンの出してくれたものを元に、セージと私で絞ってみたんだけど……」
殿下からもらった資料に目を通す。
綺麗な湖畔があるところ、動物がたくさんいる場所、自然豊かな山、歴史ある美術館、遺跡……。
綺麗な湖畔ではボートに乗ったりもできるし、周りの草原も美しいそう。
動物とは触れ合いができると。……そういえば、フルグレの世界の動物ってゲームでは見たことないかも。町では鳥とか見たり、猫や犬を飼う貴婦人の話も聞いたことあるけど。
あとは、山。王道。皆でご飯を作ったりするんだろうか。紅葉が綺麗だそう。
歴史ある美術館も遺跡も、近くが観光地のようになっているから、食べ歩きも出来て楽しいらしい。
……正直、どこも行ってみたくて悩ましい。
私はざっと資料に目を通したけど、どこも素敵過ぎてこれといったものを決めかねられずにいた。
「綺麗ですね、どこも」
「近場でつまらないし、親しみがあり過ぎるから嫌なんだっけ? じゃあ、そういうところ以外かな……でもさ、僕みたいな人はともかく、貴族って大抵小さい頃から色々なところに行っているだろうからそれ以外の場所っていうと探すの大変なんじゃない?」
「遠足の目的が生徒同士の交流を深める事や学校では得られない学びの場を得るといったものだから、その目的に沿ったものが良いだろう」
「サジェス卿はどこが良いの? リフレッシュ兼ねるなら、サジェス卿の意見が大事じゃない?」
私がそう言うと、セージはピクリと眉を動かし怪訝な顔をする。
「私の意見で遠足地は決められないだろう」
「でも、結局場所より何をするかじゃない? そうなると、場所はどこでも良い気がしてきたな」
「待て待て。近場で親しみがあり過ぎる場所以外にするのが、そもそものこの遠足地変更の発端だろ」
ヴィオレにそう突っ込まれるが、この資料の中の候補地に特に親しみがある場所はない。
小さい頃に湖畔や山は何度か行った事があったかと思うが、特別よく行った事のある場所なんてなかったような……。
私は首を傾げながら、皆に尋ねた。
「この候補地で親しみのある場所ってある?」
「……あぁ、そっか。アイリスはずっと静養地に居たから特に親しみ無いのか」
「あ、そっか。皆はどう?」
「俺は山と湖畔は結構いったことあるな。ちなみに、今までの遠足地ってどこだったんだ?」
「王立魔法図書館だね。近くに王立公園もあるしで」
そう、フルグレでは魔法図書館で古い魔法書を見てみたり、実際に本を見てみたり、昼食は王立公園でお弁当を食べるといったさらっとしたイベントだったのだ。
メインどころは攻略対象キャラとの昼食。特に何かが起こるわけでもないので、プレイしていても特別記憶に残るようなものでもなかった。
今回は生徒からの不満で変わることになるようだけど。
皆でうーん、と頭を抱える。
思ったよりも会議は難航中だ。親しみがあまりなくて、学校では得られない学びか……。
珍しく議論が止まってしまう。
皆元々真面目だから、こういったイベントを改めて企画するというのは苦手なようだ。
クロトンがせっかく淹れてくれた紅茶は少しずつ冷めて行った。
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