51.ヒロインなんですが起きたらえらいことになっていました
「いや、ね……ヴィオレがふざけたことを言うものだからさ」
「え? ヴィオレ? ヴィオレが何を言ったんですか?」
私がそう言うと、ローランは少し困ったような顔をした。
どうしたんだろう……再度口を開こうとした時、ちょうどトントントン、と扉をノックする音が聞こえた。
はーい、と返事をすると木製のトレイを持った前世の母が入ってくる。
「ずいぶんと寝ていたから、お腹が減ったでしょう。そう思って、軽いものを持ってきたよ」
母がにっこりしながら私の傍のテーブルにことりとトレイを置いた。
お皿からは白い湯気がふわふわと優しく立ち上っている。
「わっ、卵のおかゆだ~!」
「熱いからね、気を付けて食べなさいね」
そう言ってお水とおかゆを私が食べやすいように近づけ、母は少し後ろに下がる。
私はおかゆのお皿と木製のスプーンを手に取り、久々のおかゆに舌鼓を打った。
とろとろとしたおかゆがするっと口の中に入っていく。懐かしい味だ。少しの塩味とお米の甘みが口に優しい。私はローランと話していたことも忘れて、もくもくとおかゆを口に運んだ。
ローランが興味深そうにおかゆをしげしげと見つめた。
「あぁ、これがリズですか」
「はい、殿下。 こうやって水分を多くして煮込めばお腹に優しい食事にもなるんですよ」
「なるほど……このリズはまだ多くあるんですよね?」
「そうですね、うちにだけでもたくさんありますよ」
その母の言葉を聞くと、穏やかな表情から一転、眉をひそめ、険しい表情へと変える。
殿下のこんな表情を見るのは初めてだ。……ん? 初めて、かな。そういえば、気を失う前に殿下を見たような。怖い顔をしていて、それで抱きしめられたような……。
いやいやいや、殿下が私を抱きしめるなんて、そんなことあるわけないか! やだな、変な事想像しちゃった。顔がカァッと熱くなり、パタパタと手で仰ぐ。
私のそんな様子を見た殿下は心配そうに顔を近づけ、私の額に自分の手を当てた。
「大丈夫? 熱が出たんだろうか」
「あぁ、いやいやいや!! 大丈夫です、全然! 熱いの食べたからかな、あはは!」
「あらあら、ゆっくり食べなさいね」
母がのんびりとした口調で言う。
私に異常がないという事がわかったローランは、続けてリズについて質問を続けた。
「こういったおかゆ以外にも食事として食べられますか?」
「そうですね、むしろそっちが主流なのかしら。色々なものにできますよ、ただ炊いただけの白いご飯だって味を付けた炊き込みご飯だって炒めたり煮込んだりなんだって」
「ふむ……フェスタンの国の人は皆そういう風に召し上がっているんでしょうか?」
「あぁ……えっと、それはないですね。元々飼料として使われているんです。私の国の文化で主食として食べていたものですから、うちは抵抗なく食べていますけど。ほとんどの方は召し上がらないんじゃないかしら」
「そうか、なるほど。……やはり、フェスタンの王は方針を見誤ったな」
母と話していた時はにこやかだったのに、また険しい顔をするローラン。
そして、しばらく考えた後にぽつりと呟いた。
「一度、話をした方が良いな」
「ローラン、あまり他国に口出しは……」
「こっちは大事な公爵令嬢を誘拐された上に倒れるまで魔法を使わされているんだ。口を出す権利くらいはあるだろ、むしろそれくらいで済ませるなら優しいくらいだ」
セージが咎めるも、ローランは厳しい姿勢を変えることはない。
ローランがピシャリとそう言うと、セージは口を噤んだ。
しかし、それよりも驚いているのは私が……なんだって?
「え、私って誘拐されたことになってたの?」
「あぁ、ヴィオレの手紙の書き方が紛らわしかったんだよ。誤解は解けているから、ほら」
クロトンにそう促されて、ヴィオレの方を見ると肩身が狭そうに小さく頭を下げていた。あいつは一体何を言ったんだ……。
「ちょっと調子乗っちゃって……」
「調子に乗って何がそうなるの、ほんと……」
呆れながらヴィオレを見ると、ちらちらとローランを見ながらやはり黙っている。
何か口止めされているのだろうか……。いつも私を止めたりする役割をするくせに、こんなことをするとは。
とりあえず、ローランを抑えないと。
私は改めて、ローランの目を見つめて静かに話を始めた。
「殿下、私は誘拐されてもないし、魔法を使ったのも私の意思で……」
「それでも、君が倒れるまで魔法を酷使させたのは問題だよ。まぁ、誘拐とかは誇張だとしても、元々求婚までしていたんだ。このままなし崩し的に君をソレイユに帰さないと言う事もできた。私たちが来ていなければどういった状況になっていたか分からないよ」
「そんな大袈裟な……」
「ふん、お前はお前で甘すぎるがな」
ローランを止めていたはずのセージも私の大袈裟といった発言に、ピクッと反応し、いつもよりも眉間の皺を深くさせて私に厳しい視線を向ける。
「光属性の魔法使い。女神の祝福を受けている。ソレイユという大国の公爵令嬢。それが持つ大きさをお前もヴィオレもよくわかっていなかったようだな」
「……ごめんなさい」
セージにピシャリとそう言われてしまうと、返す言葉もない。
たしかに、かなり軽率だったかもしれない。結局セージの言う通り、自覚が足りなかった。あの時はこの選択がベストだと思ったけど、結果的に今こうやって大きな問題にしてしまって。本当に私が悪い……。
落ち込む私やギスギスとしてくる空気を変えるように、クロトンが明るい調子で話に入ってきた。
「まぁまぁ。皆アイリスのことが心配だったってことだよ。僕も学校に来てないって聞いた時は結構焦ったしね」
「ごめんね」
「ううん。いやーむしろ見せたかったよ、あのドタバタを。ミルティーユに見せたら喜劇の台本にでもしてくれるんじゃないかな」
「そんなにすごかったの?」
「まぁね。ヴィオレの手紙を読んだら、うちの王子様はブチ切れてるし。セージもそれ見て焦ってるし、ロベリアン様も一緒に行くことになるし。困ったもんだよね。でも、それくらい皆大事なんだよ。アイリスのこと」
「おい、俺はローランに連れてこられただけで別に心配してないぞ」
「素直じゃないなぁ、ロベリアン様も」
「だから!! 本当に別に心配してないってば!!」
キャンキャンと怒るロベリアンを軽くいなすクロトン。
クロトンのおかげで空気も少しずつ穏やかになっていく。クロトンが生徒会に入ってくれて本当に良かったな。
落ち込んでいても仕方ない。自分のしでかしたことはきっちり自分で尻を拭こう。
私はローランに向き直った。
「あの、殿下。フェスタンの王にお話しされるんですよね。その場に私も居てはだめですか?」
「いいけど、体は大丈夫?」
「大丈夫です! あの、何をお話されるかも伺っていいですか? 誘拐とか色々経緯に齟齬があっても良くないかと思って」
ローランと私は向き直り、話を始めた。
ローランの考えやどのように話をするかを詳しく説明してもらい、私はすっかり安心していく。
なんだ、そんな意図ならもっとフェスタンも、もしかしたら母ちゃん達も過ごしやすくなるのかもしれない。
「あ、じゃあこうするのはどうでしょう」
私がローランの話に更に提案すると、ローランも母も賛同してくれた。
なんだ……色々とやらかしてしまう前にローランに相談すれば良かった、さすが次期王様。視野が広い。
おかゆを食べ終わり、身支度を整えて準備ができたら、早速レオ達に会いに行こう。
読んで頂きましてありがとうございました。
今日は9時12時21時頃に更新すると思います。
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