50.ヒロインなんですが起きたら空気が悪いです
瞼が重い。
それに頭も痛いし、体が重い感じがする。いや、この重い感じというのは実際の重量とかではなく、倦怠感的な意味合いで……。
ふかふかのベッドに沈み込む体。私、ベッドの上にいるんだ……寝ていたのかな。頭がぼんやりとしている。
「……うぅん」
重い瞼をゆっくりと開けると、ロベリアンの顔が目の前に見えた。目が覚めてすぐにロベリアンの顔を見るなんてこと、起こるはずがない。
――なんだ、夢か。
もう一度、ゆっくりと目を閉じると、パァンと何か固いもので頭を叩かれた。
「いった!! 夢じゃなかった!! ロベリアン様今私の事叩いたでしょ!」
「いつまでも寝ているからだ、このグズ」
あまりの痛さに飛び起きると、苛立った態度も凶器も隠しもせずに私を睨みつけるロベリアン様がすぐ横に立っていた。
片手には百科事典ほどの分厚い本を持っている。装丁もしっかりしていて、なかなか攻撃力の高そうな本だ。
「え!? まさか、そんな分厚い本で私のこと叩いたんですか!?」
「目が覚めるだろ」
「当たり所が悪かったら一生目が覚めませんよ!? びっくりした! もうやらないでくださいね!」
叩かれた頭を摩りながら涙目でロベリアンを見るも、反省した様子は微塵も見せずにぶすっとした顔で不貞腐れている。私よりも約90歳年上だなんて思えない幼さだ。
部屋を見回すと、フェスタンの王宮の中のようだ。いつの間にここに来たんだろう。
「アイリス!」
騒がしくしていたから廊下にも私たちのやり取りがは筒抜けだったようだ。焦ったような様子で急いでヴィオレが部屋に入ってきた。そして、続々とセージやクロトンも部屋に入ってくる。
「目を覚ましたか」
「やっほ~、僕もいるよ」
「あれ? 皆、どうしてここにいるの?」
「いやー、ローランが暴走しそうで心配だから来ちゃった」
「え? 殿下が?」
「ヴィオレから貰った手紙見て、すごい剣幕だったんだよ」
クロトンが楽しそうに笑っている。セージに至っては「良い刺激になった」とまで言っている。何があったんだろう。なかなか見えない全貌にもどかしく感じていると、最後にローランがそっと部屋に入ってきた。いつもの通り、涼やかな春風のような爽やかさだ。……この殿下がすごい剣幕って?
ローランは扉をパタンと閉めると、足早に私の傍まで来た。
「アイリス嬢、大丈夫? 気分は」
「殿下。ごめんなさい。心配をおかけしたみたいで。大丈夫です。」
「ううん、コイツがきちんとした報告をしないのが悪いからさ」
いつもの微笑みと変わらないはずなのに不思議と威圧感を感じる。その微笑みの先はヴィオレだ。ヴィオレはビクッと体を震わせ、顔を少し青くして俯いた。ヴィオレとローランがこんな風になるなんて初めて見たけど、一体何があったんだろう。
えっと、最後に畑に行って魔法を使って、それから……。多分そこで気を失ったのかな。うーん、よくわからない。私は小さく手を挙げて、殿下達に聞いた。
「あの、ごめんなさい。私、記憶があやふやで。ちょっと状況がよく掴めていないんですけど……」
私がそう言うと、にこやかだった笑顔からさっと笑みが消えた。ローランが静かに私の頬にそっと手を添える。頬笑みは消したまま、無表情で私をじっと見ている。
「あ、の……殿下?」
「どこまで覚えてる?」
「え? えっと……最後畑に魔法を使って、そこからはよくわかってないです」
私がそう言うと、ローランがふぅと安心したようにため息をつく。そして、少し疲れたような、寂しそうな笑顔を見せながら、私の頬からそっと手を外した。
「そこで、アイリス嬢が気を失ったんだよ。全く、習ったばかりなのにこんなに無理をするなんて」
子どもを窘めるような優しい笑顔に変わる。
いつもの殿下だ。先ほど、なんだか寂しそうに見えたのはなんだったんだろう……。
そんな私の戸惑いを、反抗期真っ盛りの中学生のようなロベリアンが、いつもの如くキャンキャンと怒り始めて吹き飛ばしてしまった。
「本当だ。ようやく魔法を多少なりともまともに使えるようになったくせに、何やってんだこの馬鹿が。成績は最低ランクを覚悟しておけよ」
「げっ、ロベリアン様が魔法の成績つけるんですか? ちょっと、殿下やめさせてください! この人絶対その時の機嫌で成績つけます!」
「わかった、お前の魔法の成績は1だ。ずーっとな」
「ほらぁ!!」
ロベリアンと私のやり取りを見て、ローランは朗らかに笑っている。いや、笑い事じゃないんだけど。
それにしても、生徒会メンバーは勢揃いしているし、ヴィオレはなんだかローランとギクシャクしているし、何が起こったんだろう。
「ところで、私どのくらい寝ていたんです?」
「あぁ、二日くらいだよ」
「え、二日も寝てたの!? 全然そんな感じしないや」
「マジでどうなることかと思った……めっちゃ怖かった……」
ヴィオレが青い顔をしたままそう呟く。
そんなに私の事を心配していたのか、申し訳ないことをしたな……。しかしさすが前世の弟、そんなに私の事が心配だったか、とヴィオレをうるうると見つめていると、ヴィオレは更に言葉を続けた。
「ローランが……」
「殿下、ヴィオレに何言ったんです?」
バッとローランの方を見るも、殿下はからからと笑うだけだ。
あんなに仲の良かったヴィオレとローランに亀裂が入るとは。私が寝ている間に一体何があったんだろう。
「別に、喧嘩をしたわけじゃないよ。なぁ、ヴィオレ」
「はい……仰る通りです……」
にこやかに、けれど有無を言わせないような圧を感じさせる笑顔で返すローラン。怯えながら小さくなっていくヴィオレ。そんな二人の様子を見て、呆れたように肩をすくめるクロトン。何やらメモを取り続けるセージ。……うん、今日も生徒会メンバーは元気そうだ。
「あの、今何がどうなっているのか伺っていいですか?」
とりあえず現状把握から始めることにした。
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