49.ヒロインなんですが、ある時は救世主にもなるようです
客室に通され、まずはフェスタンの現在の状況説明をされる。
今年は長雨の為、作物の出来が酷いということ。美食の国とも言われているだけあって、食料が確保できないのは致命的だということも。
職を失っている者も多く出てきて、他国に出てしまう人も出始めてきたそうで、フェスタンの状況は良くないそう。
レオのお父様は辛そうに重い口調で、国の情勢を説明した。
紅茶を出してはもらったが、お茶菓子はない。それも用意できない様子を見ると、王宮でも緊縮されているか、出す余裕もないのだろう。
「まぁ、そんなことになっていましたのね……この国に住んでいながら気づいていませんでしたわ」
「いえ、そんな中あなた方がリズを栽培され、飼料としてではなく、私たちの食糧として使われているそうで。もしこの状況を解決できる一策となったら、と思って」
王様のその言葉に困ったように父と母は顔を見合わせた。
「あの……そうですね。私たちとしては備蓄米も提供して構いませんが、皆さんにご満足いただけるか……」
「外仕事の人にあげてみたら喜ばれたから、町の人にも勧めてみたんです。その時に、人の食うもんじゃないから、と断られてしまって」
「あぁ、そうだったのか。弱ったな……」
「今年の分くらいは備蓄しているものもあるし、大丈夫かとは思うんですが。皆さんに受け入れてもらえるかは……」
おずおずと困ったようにそう告げる父と母の言葉を聞いて、王様はさらに頭を抱えてしまった。
そういえば、町の人も言っていたな。『リズだろ? 人が食べるもので出してるとこなんてあったかなぁ……』なんて。飼料だったものを食べるなら、食べない方が良いということなのだろうか。
重く沈んでいく空気を断ち切るように、レオが力強く言いながら立ち上がった。
「そこで、アイリス様のお力をお借りしたいんです!」
みんなの視線がパッと私に集まった。
どういうこと? とレオを見ると、力強い視線で私を見ている。
「アイリス様のお力があれば、田畑が蘇ります! アイリス様、どうかお力をお貸しいただけないでしょうか?」
「なんと、そうだった……ここにアイリス様が来てくれたのはまさに天の采配。どうかお助けいただけないでしょうか?」
王様までも、すがるような視線で私を見つめる。
なかなか頷かない私にしびれを切らしたレオと王様は、私にじりじりと近づき、私の手を取って今にも泣き出しそうな顔で訴えかけてきた。
いやいや、そんな急に救世主のような役回りをさせられても……。一応、私乙女ゲームのヒロインなのに。
私は握られた手をそっと振りほどこうとしながら、自信なさげに断ろうとした。しかし、手はがっちりと握られている。逃れられない。
「あ、あの……私自身初めてあんなことをしたので、うまくいくかどうか……」
「どうか!! お願いいたします!!」
「それに、明後日には学校もあるし……」
「我々を救ってください、女神様!!」
私が何を言ってもこの調子だ。その内また土下座でもされそうな勢いにたじたじとなる。
それに、私自身は母と父が住む国が危ない状況になるのは望んでいない事態だ。うまくできるかできないかはわからないけど、試してみようか。
「わ、わかりました! ただ、フェスタンの皆さんには期待をさせるようなことは言わないでください。もし、がっかりさせるような事になったら申し訳ないので」
「なんて謙虚な方なんだ……! では、明日からよろしくお願いいたします! 本当にありがとうございます、アイリス様」
「あぁ、頭を上げてください。すぐ土下座しないで……!」
……結局、押し切られる形で承諾してしまった。
困った事態になったぞ、とヴィオレを見る。
「あー……ローラン達や学校と家には手紙を出しておくか」
ヴィオレも仕方ない、といった感じで肩をすくめる。
父と母を探しに来ただけなのに、大変な事態となってしまった。でも父と母の為にも、とにかく彼らの提案を受けることにする。うまくいけばいいんだけど……。
***
その日は久々に家族で団欒しようと、父と母の今の住まいに戻り、母の手料理を味わった。
なんと味噌までお手製で作っていたようで、久々に味わった味噌汁には本当に感動した。久々の日本食。虫の声がうるさいほど聞こえる中で眠りにつくのも、とても懐かしい良い夜だった。
翌日からレオに案内をされ、ヴィオレと私で畑を回ることになった。
幸い、うまく魔法も発動して、母たちの田んぼを元気にさせたように、どの畑でも野菜や穀物達は少しの元気を取り戻していく。
と言っても、規模の大きい畑で力を使うとぐったりとするし、結局昨日で全てを終わらせる事ができず、翌日に持ち越しての対応となった。今日は二日目。今日は学校が始まっている頃だ。
ロベリアンにサボりか! と、どやされそうな未来を考えると少し億劫だが、久々に両親とゆっくり話せたり、穏やかな田舎町で過ごすのも悪くはない。時間がゆっくりと流れていくような穏やかな時間を過ごせるのは思ったよりも気持ちが安らぐものだった。
本日も着々と畑に魔法をかけていく。
4つ目の畑に魔法を無事かけ終わり、ふぅと小さく息を吐いた。
「良かった……うまくいかなきゃどうしようかと思ったけど、なんとかなりそうね」
「……おい、アイリス。無理してないか?」
「ううん、大丈夫。思ったより数がなくて良かったね」
「アイリス様、本当にありがとうございます。畑はあと一つです」
レオに案内された後ろをゆっくりとついていく。
一歩踏み出すと一瞬視界がぐにゃりと歪んだような気がするが、まぁあと1つくらい大丈夫だろう。
最後に案内されたのは少し大きな畑だった。
うまく魔法を使えるか少し自信が無くなるが、昨日のフェスタンで一番大きな畑でだってうまくやったんだ。きっと大丈夫。
自分を奮い立たせながら、畑に手をかざす。ふわっと手からあたたかな光が放たれて、畑が黄金色に輝き始めた。しかし、次第に気が遠くなり、視界も白く霞んでいく。でも、あともうほんの少しだから……。
その時、地面が揺れる程の荒々しさで馬が走ってくる音が近づいてくるのが聞こえた。
魔法もちょうど使い終わる。ふっと手を下ろすと、終わったという達成感の代わりに体から力が抜けていく。そのまま地面に叩きつけられるかと思ったその瞬間、荒い息遣いと共に、痛いほどの力強さで抱き留められた。
「フェスタンの王太子よ、これは一体どういうことだ」
低く、地を這うような恐ろしい声。
驚いて目を開けると、そこにはこれまで見たこともないほど冷徹で、怒りに燃える瞳をしたローランがいた。
ここに居るはずもないうえに、いつも優しく微笑んでくれるローランが、こんな恐ろしい顔をするはずがない。
――なんだ、夢か。
私はそのまま意識を手放した。
読んで頂きましてありがとうございました。
書きたかった……! こういうシーン!! わぁぁ!
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